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風邪引きレンリ


「…………けほっ」


 体調を崩してから約半月。

 レンリの風邪は未だに長引いていました。


 とはいっても、別に症状が重篤化したとか深刻な話ではありません。

 少々の発熱や倦怠感、頭痛腹痛その他諸々のごく普通の風邪の症状が、今に至るまでだらだら長引いているのです。


 そして、最初の原因こそ河に落ちて氷漬けにされかけたという、まだ同情の余地がある理由でしたが、こうして治りが遅くなっているのは完全にレンリの自己責任でした。


 病気を治すために充分な栄養を摂らねばと、いつにも増した暴飲暴食。

 普通の病人食といえば米や麦を柔らかく煮た粥か果物などが定番ですが、なまじ食欲だけはあったので、肉に魚に果物に菓子類に……と、それはもう食べまくったのです。現在同居しているウルと一緒にお菓子の大食い競争などと称して、盛り上がったのがトドメになったのでしょう。

 居候先の家主である叔父やその弟子の女性も毎日家にいるワケではないので、誰も欲望の宴を阻止することはできませんでした。


 その結果、自覚症状こそなかったものの、それでも普段より弱っていた胃腸にダメージが入り、お腹を壊す羽目になったのです。



「……そろそろ昼寝も飽きてきたなあ」



 自業自得な点はそれだけではありません。

 病気の時というのは、何を置いてもまずは寝て心身を休めることが重要ですが、人間の身体というのはいつまでも眠り続けられるようには出来ていないのです。昼間によく眠ったばかりに肝心の夜に全然眠れなくなり、結果翌朝の目覚めが最悪になったという経験をしたことがある者は少なくないでしょう。


 レンリもそのせいでベッドの上で毎日ヒマを持て余していました。

 夜に眠れなくなってしまい、仕方がないので本など読んで時間を潰していたらいつの間にやら朝を迎え、昼の間はぼんやりと重くなった頭で過ごして気付いたら寝落ちして夜になっている……これではただの夜型人間です。こんな生活では、悪化することはあっても病気が快癒したりするはずがありません。



『お姉さんって、お利口さんだけど時々すごく頭悪いと思うの』


「くっ……言い返せない!」



 ウルの率直な指摘を受けても、この体たらくでは反論することもできません。

 まあ流石に懲りたのか、寝込み始めてから十日を過ぎたあたりから生活習慣の改善に努め始め、ようやく全快近くにまで復調していました。


 昨日ウルも行っていた知人の見送りには間に合いませんでしたが、この調子であればあと一日か二日もあれば完治することでしょう。







 ◆◆◆







「おや?」


 レンリがベッドの上でヒマを持て余していると、階下の玄関からドアノッカーの音が聞こえてきました。



「叔父様のお客さんかな? すまないが、ウル君ちょっと見てきてくれないかい」


『はいはい、なの』



 パンや食材の配達にしては遅い時間なので何かしらの来客のようですが、レンリとウル以外は外出中なので、家主のマールス宛ての用件ならば日を改めてもらわねばなりません。


 寝間着パジャマのままで人前に出るのは問題があるので、ウルに頼んで様子を見てきてもらうことにしました。自堕落が原因で病気が長引いている現状を鑑みるとまるで説得力がありませんが、レンリにも思春期の女子としての恥じらいらしきものが一応はあるのです。


 ウルが階段を駆け下りて玄関に向かい……、



「ん?」



 間を置かずに訪問者を迎え入れ、一緒に階段を上がってくる音が聞こえてきました。


 足音からすると訪問者の人数は二人。

 そしてウルが迷わずレンリの部屋まで案内しようとしている点から既知の、信用のできる人物だと思われる。

 その二点が分かれば、訪問客の正体はもはや明らか。



「やあ、いらっしゃい。わざわざ悪いね」


「お、お邪魔……します……」


「よっ、レン。具合はどうだ?」



 どうやら、不甲斐ない仲間の為にルカとルグがわざわざ見舞いにやって来たようです。



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