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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
三章『境界調律迷宮』

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お土産を買おう


 気がかりだった住居問題が片付いた翌日の昼過ぎ。

 シモンは鉄道駅に近い学都南地区へと向かいました。

 迷宮都市行きの列車の出発は夕方頃なので少し早めですが、今のうちに商業区を巡って友人知人に渡す土産物を買っておこうと思ったのです。


 幼少期から長く留学していた為に、かの街には数多くの友人がいます。

 それぞれに趣味や好みがあるので選択を人任せにもできず、挨拶回り用の手土産を買い集めるのも一人だと中々に大変でした。


 しかし、そんな時、頼りになる助っ人が現れたのです。



「む?」



 普段の動きやすい服装ではなく、ロングのワンピースに小さな旅行鞄という、いかにもこれから遠出をしますといった風な格好のライムが、道のど真ん中で待ち構えていました。

 格好そのものは大変可愛らしいのですが、仁王立ちで相手を待ち構える姿からは、まるで果し合いに赴いた剣豪の如き迫力が感じられます。



「ライムよ、その荷物はどうしたのだ?」


「里帰り。奇遇」



 昨日の試合の後で迷宮都市に行くことをチラッと伝えはしたものの、別に一緒に旅行をしようとか何か約束をしていたわけではありません。

 本人が奇遇と言っているのだから、こうして道端で出会ったのも帰省のタイミングが重なったのも、本当にただの偶然なのだろう……と、シモンは一切疑わずに信じていました。

 彼は信頼する友の言葉であれば、どんな内容であれ迷わず信じるナイスガイなのです。今更も今更ですが、もしかすると彼はちょっとアホなのかもしれません。



「お前も夕方の列車か?」


「うん」


「そうか、では時間は大丈夫だな。一緒に土産を選ぶとするか」


「わかった」



 そんなこんなで、“偶然にも”同じ日に迷宮都市へ帰省することになった二人は合流を果たし、協力して土産物を選ぶことになりました。共通の友人や知り合いも多いので、誰が何を好んでいるかを知っているライムは心強い援軍と言えます。


 主となる土産は名店の菓子折りやG国産の酒類、珍味などの食料品。誰々がどういう味を好んでいるか、逆に何が苦手かを考慮しつつ、手早く的確に選んでいきました。

 夕方に発車した汽車は翌朝には到着予定。半日から一日程度なら日持ちもそこまで気にせず済むので、選択肢の幅はかなり広がります。


 食品以外の土産物もいくらか購入してあります。高価すぎない程度の宝飾品や素朴な工芸品等、渡す相手の趣味に合わせていくつか見繕っておきました。それ以外にも……、



「オモチャも必要」


「うむ、ヌイグルミでも買っていくか。服はどうする?」


「やめておいた方が無難。あの子達のサイズが分からない」


「ああ、それもそうか。あの年頃だとすぐに大きくなるだろうしな。その分、菓子を多めに買っていくか」



 幼い子供向けのオモチャや絵本、それぞれの師に贈る珍しい食材や綺麗な布地等も買って、ようやく全部の土産が揃った時にはもう出発まで一時間を切っていました。

 あまりに土産が多すぎたので荷運び人を雇って駅まで運んでもらい、無事に貨物室に納めたのを確認しました。



 これで、もう後は出発を待つばかり。

 夕方に学都を発つことはあらかじめ騎士団関係者や知人達に伝えてあったので、そのうち都合が合った何人かが駅のホームまで見送りにやってきていました。


 非番の騎士達がほとんどですが、それ以外にもアルバトロス一家の四人、冒険者の少年ルグに迷宮の化身ウルに――――、



「はて、レンリ嬢の姿がないようだが?」



 ルカやルグ達と一緒に日頃から訓練に来ているレンリの姿がありません。

 いえ、別にだからどうだということはないのですが、シモンからするとこの三人組はいつも一緒に行動しているような印象があったので少々違和感を覚えたようです。


 その違和感については、レンリの部屋でずっと居候をしているウルが答えました。



『ああ、お姉さんなら前に河に落ちてから、ずっと風邪引きっぱなしなの』



 そう、聞いてみれば単純な話でした。

 レンリは半月ほど前に引いた風邪が未だに治っていなかったのです。




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