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幕間『正義の●●』


 学都から遥々首都に連行され、沙汰を待つばかりとなったアルバトロスの四人と一匹。

 これが普通の罪人であれば、裁きを前に罪を悔いたり世を恨んだりと陰鬱な時間を過ごすのが常でしょうが。



「侍女さん、お酒とツマミおかわり頂戴!」


「この食器銀製ね。高く売れそうだし、ちょっとくらい持って帰ってもいいかしら?」


「……あの……それは、止めたほうが……」


「お金ってあるところにはあるもんだねー」



 首都に到着してから既に丸二日。

 シモンの口利きで客人待遇となった彼らは、与えられた部屋に軟禁状態ではあるものの、飲み放題食べ放題、ふかふかのベッドで昼寝し放題の、至れり尽くせりの時間を満喫していました。むしろ、出て行けと言われてもそのまま駄々をこねて居座りかねない勢いの満喫ぶり。もう完全に何をしに来たのか忘れています。

 小心なルカは馴染みのない高級な空間に恐縮して縮こまっていますが、そんな彼女すらも頼めばいくらでも出てくる美食の魅力には抗えず、他三人と一緒にパクパクモグモグとリスのように口と手を動かしていました。


 ちなみに、流石に客室には入れなかったロノも、首都方面軍の厩舎で充分な食事を与えられているはずです。

 鷲獅子グリフォンが人に慣れる例というのはほとんどなく、その貴重な実例であるロノに騎兵隊の隊員も注目しているようでした。上手いこと馴致じゅんちのノウハウを確立できれば、この国の騎士団にとって大いに役立つでしょう。

 上手く運べば、将来的には天を駆ける鷲獅子騎士団なんてものができるかも、なんていう浪漫溢れる話で首都方面軍の一部でも(具体的には団長の第一王子を中心に)盛り上がっていました。




「あ……シモン、さん……」


「すまぬ、待たせた。色々と用事があってな」



 ……と、そんな彼らの下に、頑丈そうな鍵付きトランクを持ったシモンがやってきました。

 彼らの前に姿を見せるのは、首都に到着して以来です。


 普段王宮に顔を出さないせいか、それとも「英雄」の威光のせいか、謁見を終えて以降シモンに対しての茶会や夜会、武術の稽古などの誘いが両手の指で足りないほどに増えてしまったのです。


 誘いの相手は親戚である王族か、王宮に出入りするような高位貴族の子息や令嬢ばかり。

 王弟の身分であっても軽々に断ることはできず、この後にもスケジュールがギッシリ詰まっています。せっかくの里帰りでも、のんびり羽を休めるのは難しいようです。


 軟禁中の四人に直接会う時間を差し込むのにも、少なからず無理をしていました。

 用事があれば代理人を遣わしてもいいのですが、シモンは彼らを先の事件における恩人と思っているのか、なるべく義理を通そうとしているようなフシがあります。



「そんなに忙しいなら、僕らのことは後回しでも良かったのに」


「そうもいくまい。そなたらも、いつまでも宙に浮いた状態では居心地が悪かろう?」


「別に、そんなことはないんだけどねぇ」



 むしろ、放置される時間が長ければ長いほど彼らとしては嬉しいのでしょう。なにしろ、下手に無罪放免にでもされてしまったら、この快適な生活が終わってしまいます。


 まあ、そんなワガママが通るはずもありませんが。



「それで、そなたらの扱いについてだがな」


「うん? それは――――」


 

 シモンはトランクの鍵を開けると、取り出した品を四人のほうへと向けました。



 ――――パシャリ。







 ◆◆◆







 写真機カメラ

 G国でもまだ王家やいくつかの貴族家、少数の新聞社くらいしか所有していない、極めて高価で貴重な舶来の魔法道具。まだ人間界には作れる工房が存在せず、魔界からの輸入も予約が数年先まで埋まっている状態です。

 箱状の本体上部にあるスイッチを押すと、内部装置に仕掛けられた複数種の光系統の魔法が発動。

 レンズに映る像を専用の印画紙に焼き付けるという仕組みで、撮影に必要な分の微少な魔力を自動的に使用者の指先から吸い上げてくれるので、誰にでも簡単に使えます。

 



 そんな大層な貴重品で写真を撮られた翌朝早く。



「どうだ、なかなか良く撮れているであろう」



 シモン手ずから届けられた新聞の束を見たアルバトロス一家の四人は、朝食のお茶を噴き出すほどに吃驚びっくり仰天しました。 



「お、おお……ここまでやる?」


「ちょ、ちょっと、こういうの困るんだけど!?」


「は、恥ずか……しい……」


「へえ、記念に取っておこうかな」



 彼らが驚くのも無理はありません。

 なにしろ、一紙だけではなく首都で発行されている全ての新聞の一面に自分達の顔がデカデカと載っているのですから。

 もっと目立つ位置にシモンの写真も載っていますが、あらかじめ国王から下された沙汰の内容を知っているからか驚きはなく、ただ複雑な胸中を表すような苦笑を浮かべるばかりです。


 新聞各紙の見出しは細部こそ違いますが、大体以下のような内容でした。


『救国の英雄シモン殿下率いる四英傑』

『弱きを助け悪しきを挫く、正義の義賊』


 もちろん四人はシモンの配下ではないですし、「正義の義賊」などでは断じてありません。

 先日の事件でも、たまたま状況に流されて手助けらしきことをしただけです。


『――――王宮広報官の発表によると、元は悪の道にあった彼らはシモン殿下のお人柄に触れ、過去を悔いて改心したとされ――――』


 改心などしていないことは彼ら自身が一番知っているのですが、何故か紙面ではそういうことになっています。



「えっと、コレってどういうことなのさ?」



 代表して聞いたラックの問いに、シモンがやや申し訳なさそうに答えました。



「うむ、流石に俺もコレはどうかと思ったのだが、陛下の言うことには逆らえなくてな」



 先の事件での貢献を考慮し、列車強盗の件については減刑が認められたのですが、何もお咎めなしでは対外的に問題がありました。

 実際の被害に関してはそれほどでもなかったとはいえ、大陸横断鉄道開業以来の大々的事件としてアレはアレでかなり話題になっていたのです。何かしらのケジメを付けさせなければ、鉄道会社をはじめ、後から問題視してくる者が出てこないとも限りません。


 そこで国王が考えた策が、新聞を利用して彼らの素性を実際とは違う、しかし如何にも大衆にウケそうな好意的な形で周知させることでした。


 過去に事件を起こしたことは認めながらも既に改心していることにしてしまい、なおかつ国民の人気が極めて高いシモンの監督下にあることにすれば、実情はどうあれ否定的な見方はされにくくなります。


 それに、こうして不特定多数に対して顔が割れることで、今後の再犯を防ぎやすくなる効果も期待できます。悪事を働こうとしても常日頃から有名人として注目されるため動きにくく、また手下を集めようにも、「正義の義賊」など同業者からは忌み嫌われ避けられるのがオチでしょう。


 同様の写真は国内の主要都市や近隣の外国にも送られており、近日中には事件の顛末と共に記事が掲載されることになります。仮に外国に逃げたところで、犯罪組織としての一家の再興は絶望的です。



「……こりゃ困ったねぇ」


「な、なんてこと……」


「ど、どう……しよう……?」


「うーん……まあ、仕方ないけどさー」



 やはりショックが大きかったのでしょう。

 文句を言える立場ではありませんが、四人各々少なからず動揺しているようです。



「……まあ、その、なんだ。当面の生活は俺が面倒を見るから、いい機会と思ってゆっくり身の振り方を考えるがよい」



 幾分意味合いは違いますが、望まぬ英雄扱いの心苦しさに関しては、シモン自身も現在身をもって実感しています。そのせいか、かける言葉にも同情的なニュアンスが含まれていました。



◆魔界製の輸入カメラは誰かさん達がどこかから持ってきた機械式カメラを参考にして、魔界の職人達が魔法道具として機能を再現したモノです。熟練の職人が部品を一つ一つ手作りしているので量産はまだできません。

◆幕間はあと一回くらいやると思います。

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