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仕掛け合い



「三巡か……思ったより早かったな」


 勝負の序盤。

 開始からおよそ十分が経過した時点で、モトレドが感心したように呟きました。


 現在はモトレド側が優勢。最初の一巡目と続く二巡目でラックは連敗して手持ちのチップを失っていました。

 船の上という独特な環境と、波風による僅かな揺れ。

 それが極めて繊細な力加減を要するサイコロを投げるテクニックに影響し、慣れていないラックにのみ一方的な不利を与えていました。

 しかし、それも二巡目までの話。



「流石だな。この早さで合わせてくるか」


「お褒めに預かり恐縮至極、ってね」



 三投目。

 親番のモトレドが当然のように6を連発して最強の“18”を出した後で、ラックは見事に最弱目の“3”を出してのけたのです。

 ルール上、唯一“18”に勝利し得る“3”。

 それを狙って出せたという事実には、単にチップを取り戻した以上の意味合いがありました。


 ラックはここまでの僅か二巡で、水上ゆえの揺れを計算に含め、即興で技を調整したのです。零コンマ数ミリグラムの力加減で、船の揺れるタイミングを身体の感覚から冷静に測りながら。

 練習ではない本番の真剣勝負、それも自身の人生を賭けたプレッシャーの下で冷静さを維持して集中。言うまでもなく、並大抵の勝負度胸で出来ることではありません


 これならば当面は五分五分。少なくとも、当初モトレドが望んでいたであろう場の優位を活かした短期決着は避けられそうです。



「……荒れそうだな」



 ラックの後ろに立つシモンがポツリと呟きました。







 ◆◆◆







 その頃、魔道船の上空にて。



『ふぅ、どうにか持ちこたえたみたいなの……』


「やれやれ、心臓に悪いね、コレ……」



 ウルの実況中継を聞いていたレンリ達はホッと安堵の息を吐いていました。

 勝負序盤でいきなりのピンチとなって、下手をしたらあのまま負けていても不思議はない……ラック以外が勝負を担当していたら確実に負けていたに違いありません。

 そもそも代打ちが認められていなければここで終わっていたはずで、好敵手との戦いを望むような敵の稚気、遊びを求める部分に救われた形です。


 ラックかシモンが相手が何か仕掛けている気配を感じたならば、その正体にまでは気付かずとも合図を送ってくる手筈になっていましたが、今のところ連絡はありません。


 最初はてっきり、敵がイカサマに頼ってくるとばかり考えており、数十数百ものウルの目による観察と仲間達の知恵でそれを見破れるかが勝負のキモになると思っていたのですが、イカサマを使ってもらえないのであれば見破るも何もありません。

 しいて言えば相手が用意してきた船そのものが仕掛けではありますが、船を勝負の場とすることに合意している以上、それをイカサマだと主張するのは不可能です。



『それにしても、カード系のゲームだったらもっと我が活躍できたのに』



 勝負の題材がサイコロというのも良くありません。

 手札の読み合いが重要になるカード系のゲームであれば、看破は実質不可能なウルの目による必勝法が炸裂したはずなのです。過ぎたことを言っても仕方がありませんが。



「まあ、それは言っても仕方ないさ。それより、船のほうはまだ時間かかりそうかい?」


『うーん……副団長のお爺ちゃんが言うには岩とか避けながら慎重に進んでるから、あと十分以上はかかりそうだって』



 副団長氏が率いる、船による別働隊もシモン達が乗る魔道船を追っていますが、警戒を避けるために灯りを消している上にこの濃い霧のせいで、障害物を避けて安全を確保するのに時間がかかっているようです。

 かいを使って人力で漕ぐタイプの船なのですが、この状況では同乗しているルカの怪力も活かせません。下手にスピードを出しすぎると方向や障害物の存在を見誤って転覆してしまいます。

 普通なら船による航行自体を避けるべき状況ですが、ウルによる誘導のおかげでどうにか進めているのでしょう。


 まあ、先行組に追いつくにはまだ時間がかかりそうですが、彼らも船を誘導している別のウルが中継しているので勝負の状況は把握しています。相手がイカサマを使った場合に知恵を束ねてイカサマを見破る役目や、あるいは反対に……、



「一つ、思いついた」



 静かに、眼下の霧を見下ろしていたライムが顔を上げました。



『エルフのお姉さん。どんなイカサマ・・・・を思いついたの?』



 イカサマを見破る反対に、こちらから仕掛ける方法を考える。それを検討した後、バレないように船内の勝負を援護するのが後方支援組のもう一つの役割です。



「聞いて」



 ライムはウルやレンリ、そしてウル経由で別働隊の船の面々に思いついたアイデアを伝えました。

 幸い、船内の勝負は膠着状態。最初の負け分だけ押されてはいますが、チップを取ったり取られたりとほぼ互角の状況で、新しい作戦を実行前に検討する時間くらいは……。



『……あれ?』



 否、時間は彼らが思っているよりもなかったようです。

 突然、ウルが不思議そうに首を傾げました。



「ウル君、船内のほうで何かあったのかい?」


『ううん、お船の中じゃなくて』



 ウルが異常を捉えたのは勝負をしている船内ではなく船の外側。



『え……ちょっ、待って!?』


「どうしたんだい?」


『下のお船に別の船が向かって来てるの!』


「それは後続の皆が来たんじゃないのかい? 思ったより早かっ……いや、まさか違うのか!?」



 現在勝負をしている魔道船を包囲すべく、密かに追っていた後続組の船ではありません。

 ウル同士は位置を感知できるのですが、新たに向かってきている船にはウルの分身は乗っておらず、至近距離まで水中で警戒していた魚型のウルにも気付かれませんでした。


 その新たな船は、全く速度を緩めることなく勝負中の魔道船に向け勢いを減ずることなく突き進み、そして――――。



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