表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/1047

なんとなく


 シモンの考えていた必勝の策とは、



「話は聞いていたな? そなたに代打ちを頼みたい」


「代打ち、ねぇ」



 ラックに勝負の代理、代打ちを頼むことでした。

 今現在、犯人自身を除けば恐らくはこの学都で最強のギャンブラー。人格はともかく、賭け事の実力については信用できます。

 少なくともシモン本人が勝負するよりは勝率が高いでしょう。



「でもさ、それっていいの?」


「向こうの提示した条件だと、本と俺自身を賭けることにはなるが、俺が自分で勝負しなければならないとは無かったからな。向こうも散々替え玉を使ってきたのだ。こちらがやって悪いということはあるまい」



 送られてきた手紙によると、シモンの身柄を賭けることが条件になってはいましたが、シモン本人が勝負をしなければならないとは書いてありませんでした。



「認められずとも、同行して貰えれば敵のイカサマに対する備えとなろう。素人おれの目は欺けても本職のそなたはそう容易く騙せぬだろうしな」


「おっと、こりゃ随分と高く買われたもんだ」



 無論、条件の隙間を突くような代打ちに相手が異議を唱える可能性もありますが、付添い人として一緒にいれば、相手もイカサマを使いにくくなるはずです。

 ギャンブルのイカサマというのは、素人が想像するより遥かに多く存在し、まともに勝負する中で気付くことはまず不可能。

 ですが、目には目を。

 プロにはプロを。

 無論、プロだからといってこの世に存在する全てのイカサマを熟知しているワケではありませんが、“相手が何かをしている気配”には非常に敏感です。イカサマをされていると分かれば備えることもできますし、“何か”の正体を見抜ける目も出てきます。相手がそれを警戒してイカサマの使用を躊躇うかもしれません。




 そして、ラックは急な代打ちの申し出にも動じることはありませんでした。


 

「ははっ、やっぱりねぇ」


「やっぱり?」


「前の時は決着が付かなかったけど、あのオジサンとはもう一度戦る気がしてたのさ」



 自首をする直前、ラックは秘密の賭場で一度犯人と直接勝負をしています。

 勝負の内容はほぼ五分五分。

 結局、その時は決着が付く前にキナ臭い雰囲気を感じて途中で逃げてきたのですが、ラックは再戦の予感を強く感じていました。



「あれから、ずっと練習してたからねぇ」


「練習……そなた、最初からこうなる事を予測していたのか?」


「そんな大したものじゃない。なんとなくそんな気がしたってだけだよ」



 地下の独房に囚われて以降、寝る時以外はほぼ休まずにサイコロを転がしていました。

 時も場所も相手も選ばず、こうして話している今だって独りで転がしています。

 これは、ラックなりの練習だったのでしょう。

 真剣勝負の緊張感を想起しながら知る限りの投げ技の精度を磨き、何千回何万回、あるいはそれ以上に……。



「おかげで勝負勘もビンビンに冴えてる。はっきり言って、誰にも負ける気がしないね」



 磨いていたのは技の精度だけではありません。

 学都に来てからすっかり鈍っていた勝負勘も、この数日で最高の状態に調整されていました。感覚的な部分なので余人には分かりづらいのですが、少なくとも単に大口を叩いているだけには見えません。

 相手の提示する勝負の内容がサイコロとは限りませんが、今のラックならカードでもルーレットでも、そう簡単には負けないでしょう。



「なんとなくそんな気がした……か。明確な根拠もなしに、よくそこまで出来るものだ」



 いくら本職のギャンブラーとはいえ、再戦の保証があるわけでもないのに極限の集中を維持して何万回もサイコロを振るのは決して楽なことではないはずです。

 普通の感覚なら、とうに飽きて『なんとなく』感じた予感などすぐに忘れてしまうでしょう。



「まあねぇ。その『なんとなく』に自分の持つ何もかもを張るのがバクチ打ちってもんなのさ」


「……凄いな。世の中には、こういう強さもあったのか」



 戦いの強さ、頭の回転の速さ、権力、財力、美貌……方向性こそ違えど、どれもが「強さ」。

 シモンとて強さの種類が決して一つではないことは知っています。

 しかし、この時ラックが示した、根拠のない予感を信じて己の全てを不合理に委ねられるような、そんな「強さ」はこれまで想像すらしたことがありません。


 シモンは、ラックの言葉に強い感銘を受けていました。



「ははは、素直だねぇ、団長さん。でも、勘違いしちゃいけないよ?」


「勘違い?」



 ですが、ラックはその感銘を否定します。

 それは「強さ」とは別物なのだと、断固として主張しました。



「こんなのは凄くもなんともない。単に頭のネジが外れてるってだけの話だからね」



 言ってみれば、一種の狂気。

 ある種の人々だけが持ち得る才能の根幹。

 しかし、決して憧れたり望んだりしてはならない深い闇。

 ラック自身が言う通り、頭のネジが外れているだけのロクデナシ。


 わざわざ負わなくてもいいリスクを負い、不合理な選択に全てを賭ける。

 知識とか技術とか運とか、そういう要素は瑣末事。

 その特異な精神性こそが、彼らをギャンブラーたらしめているのでしょう。




ドラクエはとりあえず全員レベル最大、裏ボス撃破まで行ったので、あとは細かいイベントをいくつかやれば一段落つきそうです。これで毎日更新に戻せる……かと思いきや大逆転裁判2を買ってしまったので、なんというか……すみません。もうしばらくは二日に一回で。

あ、ドラクエ11は個人的ベストの5に並ぶくらい名作でした。超オススメ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ