これからの迷宮
本日二話目の更新です。
順番飛ばしにご注意ください。
『あ、危なかったですね……』
幸い、地球側との顔を合わせてのアレコレはなんとか無事に終わりました。
顔面の表情筋に渾身の力を込めて表情を維持したり、こっそり自分の太ももをつねって痛みで笑いをこらえたり、知恵と根性を振り絞ってどうにか平静を保った次第です。
両世界の各国から来ている代表者が順に紹介され、各種条約への最終確認と署名を済ませ、報道機関のカメラの前で並んで写真撮影など。大まかな工程としてはこんなところだったでしょうか。
うっかり笑い出すのを我慢しようと女神側の世界の代表者達は異様に表情が固くなっていましたが、それについては背負った重責ゆえ緊張していたのだろうと好意的に解釈してもらえたことを願うばかりでありました。
『ふぅ……それじゃあ、向こうの皆さんからは見えなくなったことですし、どうぞ楽にしてくださいな』
迷宮達の『奇跡』で開いた異世界間の通路も、用事が済んだ時点で一旦閉鎖されました。
これについては後日改めて再開通し、いちいち神力を用いずとも霊脈の魔力だけで世界間の連絡ゲートを維持できるようにする予定となっています。仕組みとしては迷宮都市にある魔界との出入口と同じようなものですし、特に難しいことはないでしょう。
『さて、それじゃあ後は迷宮の皆を真の神にするだけですね。もう目新しい情報もないですし、そこはもう勿体ぶったりせずにパパっと終わらせてしまいましょうか』
ドキュメンタリー映像の中では隠された第四のタスクのような扱いでしたが、ネタバレ済みの現状では秘密も何もありません。
『そうそう、シモンさん。式が始まる前に頼んでおいたことは?』
「ええ、聖杖の周りに騎士団の人員を向かわせております。街の者達にもこれから杖が一時的に引き抜かれると説明してありますので、誰かが穴に落ちるようなことはないかと」
このあたりの安全対策もバッチリ。
珍妙な上映会でしたが、意外に役立つ部分もあるものです。
なにしろ聖杖『アカデミア』の長さは地上二千メートルに地下三千メートル。合わせて約五キロもあるのです。引っこ抜いて開いた穴に落ちたりしたら、まず助かりません。
『はい、それじゃあ杖を縮めまーす。それで、こっちに引き寄せまーす』
素を隠す必要がなくなったせいか、女神の態度がリラックスを通り越して雑になってきていますが、まあシリアスめの悲壮感を押し隠しているよりはマシなはず。
遠隔操作で普通の杖サイズに縮めた聖杖を手元に引き寄せて、迷宮達に向けてサッと一振り。すると迷宮達の身体がそれ自体には特にこれといった効果のない演出用の光に包まれて、ちょっと待ったらハイ完成。カップ麺よりお手軽に迷宮達の真化が完了しました。
『どんな具合ですか、ウル?』
『うおぉぉお、力が溢れてくるのよ!? ふふふ、力こそパワーッ! これなら、今度はラメちゃんと一対一でも良い勝負ができそうなの!』
『ふふふ、ケンカするのは別にいいですけど、なるべく自然環境や建物を壊さないよう気を付けてくださいね』
これで迷宮達は世界との合一化を果たしました。
戦力的にも、一人一人がラメンティアと同じくらいに強くなったはず。
戦闘センスや性格の向き不向きもあるので単純に比べることはできませんが、同等かそれに近い戦力がこれだけいれば、『今日』のように全滅寸前までいくような事態はもう起きないでしょう。
もっとも、向こうが修行なり何なりで今以上に強くなったら、その限りではないですが。万が一に備えて、今後も強くなるための努力は続けておいたほうが良さそうです。
『じゃあ、いつまでも街の真ん中に大穴を残しておくのは危ないですし、聖杖はまた後で大きくして元の場所に戻しておきましょうか。そうそう、皆の迷宮はどうします?』
神造迷宮とは神を造るための迷宮です。
こうして無事に七柱の神々が完成した今となっては、残しておく意味はさほどありません。学都には樹木や鉱物など迷宮産の資源を前提とした仕事をする人も多々おりますし、ライムの自宅がある第一迷宮や娯楽施設がある第五迷宮だってあります。
そんなわけで今すぐに全部を綺麗さっぱり無くしてしまうと問題がありそうですが、それらもキチンと事情を説明した上で適切な猶予期間さえ設ければ、無くしたところで誰に文句を言われる筋合いもないでしょう。
特にモモなどは、まだ神性を得る前から迷宮を辞めてのんびり暮らすことが目標だと明言していたくらいです。これで誰に憚ることなく大手を振って辞められる。さぞ喜んでいるだろう……と、思いきや。
『うーん、そのつもりだったのですけど……やっぱり残しておこうと思うのです。いや、別にモモが急にキャラ変して働き者になったとかじゃ全然ないのですけど。他の皆が残しておくだろう中で、一人だけっていうのは仲間外れみたいで気が進まないというかですね……』
結局、七つの迷宮は全てそのまま残すことに。
一応、アイについては物心つくまで育つのを待ってから選択してもらうまでの暫定的な決定ではありますが、ここからよっぽど変にひねくれて育たない限りは他の姉妹に倣うものと思われます。
入場制限や危険区域の設定など、その時々で利用者との距離感を見計らいつつ変える部分もあるにせよ、大筋としてはこれまでと同じ。七つの神造迷宮は、これからも末永く学都のシンボルであり続けることでしょう。




