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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
最終章『咲き誇れ、きざはしの七花』

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スマイル


 八柱の神々が統べる世界。

 七でも九でもなく八。

 女神は確かにそう言いました。



『……あ。ええと、神の数だけなら皆さんもご存知の例の困った方も入れて九柱なのですが。ほら、ラメンティアさんは責任持って人類の皆さんの管理なり教導なりをしそうなタイプではありませんから。そういうのは一般的に統べるとは言いませんし……ここは、わたくしがキチンと続投する意思を示した点を評価して頂きたいなぁ、なんて』



 厳粛であるべき式典の場にしては砕けた物言いですが、それについては今更でしょう。この会場に詰め掛けた多くの人は、あの混沌極まった『今日』の記憶があるのです。


 外面を取り繕うプロとも呼べる女神ではありますが、その弱味も本音も余すところなく明かしたばかり。そして先程のレンリに対する反応を見る限りでは、少なくとも今日ここに集った面々は、その弱く情けない側面を知った上でなお神を支持すると決めたのでしょう。


 如何に救われるかばかりを考えていた己を恥じ、神を救うなどという恐れ多くも大それた発想に感銘を受けた。呪いのせいも多少はあるにせよ、レンリの行動が彼らの価値観を強く揺るがしたことそのものに間違いはないのです。



『そうだ、ちょっと失礼』



 と、女神が演壇の中央から一歩だけ横に移動しました。

 もはや刺される心配はないとはいえ、どうしても気になってしまったのでしょう。



『写真の構図がイマイチになって記者の方には申し訳ないのですけど。ほら、未来からではなくともラメンティアさんの悪ふざけで、前回と同じ位置に運命剣さんが投げ込まれないとも限らないので』



 絶対にあり得ないと言い切れないのが恐ろしいところです。

 それでも十中八九は単なる被害妄想だろうとは女神も分かっているのですが、不意に刺されたのと同じ時間、同じ場所にはなるべくいたくないようで。抱えていたストレスの大半が消えたとはいえ、そうした後ろ向きな思考形態そのものは容易く変わってくれません。



『それでは、最初は迷宮の皆の紹介からでしたね。皆さん、もうご存知でしょうけど、ここはまるで初めて知ったかのように大きめのリアクションで迎えてあげてくださいな』



 式典の構成は大きく分けて三段階。


 迷宮達を新しい神々として紹介する。

 ユーシャを勇者として紹介する。

 日本との通路を開いて平和的な交流を約束する。


 どれも『今日』の上映会で観たものばかりです。



『姉さん、今度こそは余計なアドリブや隠し芸はナシでお願いしますよ?』


『……わ、分かってるのよゴゴ。我はちゃんと空気を読める子なの』



 映像の中ではウルが余計なアドリブを入れたせいで、他の姉妹まで順番に隠し芸を披露する流れになっていましたが、それについては予習のおかげで未然に防ぐことができました。夢オチ化による数少ない収穫の一つです。


 そうしてウル達は一人ずつ壇上に上がって、ごく普通の自己紹介を。

 とはいえ、この会場にいる人々にとっては『今日』の件を抜いても、とっくに知っていた情報です。今更驚きはありません。しいて言うなら、女神直々のリクエストとあってか拍手や歓声などオーディエンスの反応(ノリ)が大幅に良くなったくらいでしょうか。


 全体的に場の緊張感も緩みがちで、例のドキュメンタリー映像より笑顔も多め。その和やかな雰囲気は次のコーナーでも変わりません。



『……というわけで、実はこちらのユーシャさん。最初はゴゴのやらかしで生まれたわけなんですけど、皆さんもご覧になった通り先代に負けず劣らず立派な勇者として活躍してくれるのではないかと』


『ちょっと女神様(あるじさま)!? なんで予定にないユーシャの誕生エピソードを入れてるんですか!』


『ふふふ、いいじゃないですかゴゴ。神様だって失敗談の一つや二つくらい披露したほうが、かえって親しみを持ってもらえるみたいですし。それに観た通りの展開をなぞるだけでは退屈ですもの』



 気が晴れたことで女神も若干ハイになっているのかもしれません。

 まるでレンリであるかのように、積極的に笑いを取る方向で進行しています。

 上映会では流れなかった未公開情報を聞かせてみせて、ゴゴの威厳が多少損なわれるのと引き換えに話を聞く人々の興味を引いておりました。


 自分の第二迷宮で繰り広げられた甘酸っぱいボーイミーツガール的展開に「キュン」と来て、しかし後になって冷静に考えてみればその「キュン」を勇者として「ピン」と来るのと同一視するのは早計だったのでは、と。まあ結果的には、今や誰もが知る通りにゴゴの勘が大正解だったわけですが。時には理性的な判断よりも、甘酸っぱいトキメキに身を委ねてみるのも悪いばかりではないのでしょう。



「そんなワケで、わたしは普段勇者の仕事をしてない時は迷宮都市の魔王店長のお店で働いているからな。お客さんがいっぱい来すぎてパンクしたら困るから新聞とかでは秘密にして欲しいけど、ここにいる人達が普通のお客さんとして来てくれるのは大歓迎だぞ!」


『わたくしも常連としてよく通っていますけど、ハニートーストとかオススメですよ。ハチミツと生クリームマシマシで。というわけで、三代目勇者のユーシャさんでした!』



 女神の語りに釣られたのか、ユーシャも勇者としての抱負を語るよりも勤めているお店の宣伝が主になっていたくらいです。

 一応、慌てたゴゴがフォローとして特定の国や勢力のみに与することはないと宣言していたりもしましたが、この調子ならわざわざ言うまでもなかったかもしれません。全世界の人々があの戦いを見た後で、勇者を都合よく操ろうなどという愚か者が出てくることはないでしょう。


 そうして和やかすぎる雰囲気で進む式典は三つ目の工程へ。

 界港内の別の場所に移動して、日本側への通路を開いてからの交流開始宣言の段階へと進みました。両世界のあちこちの国から来ているお偉いさん達が顔を合わせ、それぞれの国と世界とを代表して和平条約やら通商条約やらに調印したりする。平たく言うとあまり面白味のなさそうなコーナーです。


 条約の内容については事前に入念なチェックがされていますし、本来であれば大きな問題など起こり得ません。例の映像でもこのあたりは恙無く進行するだけだったのですが、ここに来て普通なら絶対にあり得ないだろう今回特有の懸念点が浮かび上がってきました。


 日本で待機している地球各国のお偉いさん達は『今日』のことなど知らないはず。

 こちらの空気そのままに、肩肘張らぬ無礼講でやろうとは言えません。

 真面目なお仕事として来ているところで、これから交流を開始しようという異世界の代表者達がいきなり吹き出したり思い出し笑いなどしたら大変です。そうした態度を侮辱と受け取られ、非常に面倒くさい拗れ方をすることだって絶対にないとは言い切れません。



『いいですね、皆さん。わたくしが言うことではないですけど、本当に言うことではないんですけどっ! 向こうの方々の見えるところでは絶対に笑わないよう頑張りましょう!』



 果たして、女神達は今のこの空気の中で最後までおふざけを我慢できるのか。

 絶対に笑ってはいけない異世界平和条約の調印式が始まろうとしていました。


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