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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
最終章『咲き誇れ、きざはしの七花』

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最悪最後のプレゼント


 まあ、過程については聞かなかったことにするとして。



「キミ達が無事だったのは正直嬉しいかな」



 運命剣はともかく、反省も後悔もまったくしていない悪の大ボスに言うことではないかもしれませんが、また会えて嬉しいというのが偽らざるレンリの本音。


 魔王との契約が生きているなら、今後は多少なりとも素行もマシになるでしょう。

 数々のやらかしに関しても、少なくともこの世界の内側で起きた部分に関しては、全部が夢の中の出来事だったということになった。なってしまったのです。


 まさか、夢の中で悪行を働いたからという理由で裁くわけにもいきません。

 因果律だか時間パトロールだかの件についても、恐らく犯行の立証は不可能。 

 つまり現在のラメンティアは、本人にとっては不本意かもしれませんが何ひとつ世間様に恥じるところのない無実の身。堂々とお天道様の下を歩いていても問題ないはずなのです。罪業の有無がどうあれ堂々としているのは同じでしょうが、本人はともかく周囲の受け取り方は違ってきます。



「『今日』の最後のほうでも言いかけたけど、こうして無事だったのなら住む場所は必要だろう? ちょうどすぐそこに叔父様もいることだし、キミが一緒に住んでいいか頼んでみようか?」


『叔父? ああ、あのメガネ男か。それなら、この屋敷を訪ねてきた時にもう顔を合わせておるぞ』


『ラメンティア君や私についての記憶もある様子だったけど、若い私の友達判定で特に抵抗なく通してもらえたよ。久しぶりに会ったけど、我が身内ながら大した豪胆さだよね』



 この家の主人であるマールス氏は、『今日』の朝にそうであったのと同じように弟子のアルマ女史と一緒に庭で草木の手入れをしています。


 食堂の窓越しに観察した限りではあまりにも普段の彼と変わりなかったので、レンリとしては彼に『今日』の記憶がないか、邸内に不審者が入り込んでいるのに気付いていない可能性を疑っていたのですが、真相は単に氏の肝が並外れて太いだけだったようです。流石はレンリの親戚だけなことはあります。



『くく、だが断る。せっかくの申し出だがな、悪はこの街に収まるような器ではないゆえ』


「ええと、どこか学都以外に住みたい場所でもあるってことかい?」


『いいや、そういう意味ではない。実はしばらく旅に出て見聞を広めようと思うのだ。その過程で一時的にどこかに留まることはあるやもしれぬが』



 せっかくの申し出ではありましたが、ラメンティアには学都に留まるつもりはないようです。特に目的を定めることなく、気の向くまま風の吹くままの旅暮らしをしてみたいのだとか。


 いざとなれば戦って止められる面々が近くにいない場所に送り出すのは不安もありますが、どうせ言って聞くような性格ではありません。意図して人を殺せないという最低限の保証だけはありますし、多少の嫌な予感は呑み込んで送り出すほかはなさそうです。



『世界との合一を果たしたとはいえ、実際にあちこち足を運んでみれば色々と新たな発見もあろう。別に女神の奴に倣うつもりはないのだがな……うむ、むしろあちらが悪のパクりだった気がしてきたぞ。学都を出る前に因縁を付けてアイデア料の名目でカツアゲの一つもしてやるべきか?』


「こらこら、あんまりイジめないであげなよ。当座の旅費が必要なら、私の財布からいくらかお小遣いをあげるから」


『ははは、まあ安心しなよ若い私。こっちの私もお目付け役として同行するつもりだからさ。どこで何をするにせよ、そう酷いことにはならないさ。あとお金については遠慮なく貰っておくね』


「自分で言うのもなんだけどさぁ、私がブレーキ役っていう情報が我ながら一番不安なんだけど。いや、本当に自分で言うことじゃあないんだけど」



 ラメンティアの旅には運命剣も同行するつもりであるようです。

 それを万が一に備えたブレーキ役と捉えるか、あるいは厄介極まる悪党同士が最強タッグを組んだと解釈すべきかは微妙なところ。人間のレンリとしても、他ならぬ自分自身だからこそかえって不安が増してすらいる様子。そこに苦言を呈する前に、我が身の在り方を振り返るのが道理でしょうが。




 ◆◆◆





『さて。では、もう行くか』



 お喋りメインでスローペースの朝食でしたが、山盛りのサンドイッチの最後の一つもラメンティアのお腹に消えました。名残を惜しむ素振りもなく、テーブル上の運命剣をひょいと肩に担いで屋敷の玄関へと足を向けています。


 ちなみに、約束のお金については当然の権利のように懐に。

 食事中にレンリから頼まれたウルが部屋から財布を取ってきて、その中身を丸々手渡す形となりました。手持ちの現金がなくなったのは面倒ですが、この程度でお金に困ったラメンティアが強盗や食い逃げをやらかすリスクを低減できるなら安いものでしょう。



『なに、これが今生の別れというわけでもない。悪の気が向いたら、いずれ学都に足を向けることもあるだろうよ』


「そっか。それじゃあ、またそのうちに」


『うむ、いずれな……おっと、いかんいかん! 悪としたことが肝心の用事を忘れておった』



 自分達の無事を知らせるのと、あとは精々タダ飯にありつくのが目的だとレンリも思っていたのですが、ラメンティアには他にも用事があったようです。とはいえ、時間はさほどかかりません。



「肝心の用事って? 何だい、それ?」


『なに、そう難しい話ではない。悪はこう見えて恩義にはしっかり報いるタイプゆえ、旅立つ前にレンリに礼をしようと思ってな』


「お礼? 私、ラメンティア君に何かしたっけ?」


『うむ、大いにしたとも。メシやらカネやら、他の連中を上手く動かして楽しいケンカをさせてくれたり。結局は断ることになったが寝床の世話もだな。そもそもレンリがいなかったら、悪は最初から生まれてすらおるまい?』



 相変わらず、妙なところで律儀なラスボスです。

 当のレンリはというと、説明されてもあまりピンと来ていないようですが。



「なんだ、それくらい別に気にしなくてもいいのに」


『そなたが気にせずとも悪が気にするのだ。いらんと言っても押し付けてやるからな』


「はいはい、そこまで言うなら貰っておくよ。で、お礼って何なのさ?」



 さっきまで無一文だったラメンティアの持ち物など、聞くまでもなく高が知れています。迷宮由来の能力で何かしらの物品を生成するのだろうか……なんて、レンリが呑気に考えていられた時間はごく僅か。



「うん?」



 ラメンティアは右手の人差し指をピンと伸ばすと、それでレンリのおでこをツンと突きました。特に痛くも痒くもありません。その意図が分からないレンリは、自らの額をさすりながら不思議そうに首を傾げるばかりでしたが。



『くかかっ、馬鹿め。礼は礼でもお礼参りというやつよ!』


「え、急になにさ?」


『そう落ち着いていられるのも今のうちよ。レンリには悪が結構な量の神力を用いて呪いをかけた。貴様が嫌そうな顔をするのが今から目に見えるかのようだ!』


「本当に何!? ていうか、別にどこも痛かったり苦しかったりしないけど?」


『くく、この悪がそんな芸のない真似をするものか。そうだな、ソレに名を付けるなら……「慈愛の呪い」といったところか?』


「慈愛? あんまり呪いっぽくない言葉だね」



 呪いとは穏やかではない話です。

 幸い、肉体的な苦痛の類はなさそうですが。



『なに、今は気付かずともすぐに分かる。精々、悪の恐ろしさに慄くがよいわ!』


『ああ、若い私。私も事前に説明を聞いたけど、呪いと言ってもそう悪いことにはならないと思うから、あんまり心配しなくてもいいよ。呪いといえば呪いだけど、キミの考え方次第では祝福にもなり得るっていうか。先に話を聞いて若い私の為になると思ったからこそ、この私もゴーサインを出したわけだしね』


「こらこら、剣の私。安易に自分自身を呪わせるんじゃあないよ。無駄に意味深なヒキを作らないで単刀直入に説明したまえ」


『ふふふ、断る。キミも私らしく、それくらい自分で解き明かしてみたまえよ』



 謎めいた『慈愛の呪い』には、どうやら運命剣も一枚噛んでいたようです。仮にも自分自身を呪わせたということは、そうそう破滅的な結果に繋がるわけではないのでしょうが。



『それにしてもラメンティア君にも困ったものだよね。普通にお礼をするのが恥ずかしいからって、照れ隠しで嫌がらせ半分みたいな形にするとは』


『……いや、いやいや。天上天下に一切恐れるモノのない悪が、そんな恥ずかしいとかないから。マジで悪意100%の嫌がらせだから』


『ははは、分かった分かった。じゃあ、そういうことにしておくよ』


『このナマクラめ、全然分かっておらぬではないか!』



 ラメンティアの真意がどこにあるかは結局不明。

 なんにせよ、今更受け取り拒否はできないようです。



『くかかっ、それでは悪は今度こそ行くぞ。じゃあな!』


『それじゃ、私も。またね』



 呪いの正体を詳しく問い質す間もありません。

 今度の今度こそ、ラメンティアと運命剣は広い世界に旅立っていきました。



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