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生活環境改善のためのイロイロ



「要は借金のカタに働かせてるって感じじゃないかなぁ?」


「俺も同意見だ。わざわざ捕まるリスクを増やしてまで、違法賭場なんぞやっていた説明も付くしな。あれは資金調達ではなく、手駒となり得る勝負相手そのものが目的だったのであろう」



 根拠薄弱なのは否めませんが、騎士団本部の会議室で話していた面々は、犯人の能力の謎について、ほぼ正解にまで辿り着いていました。



『サイコロのお兄さん、どうして分かったの?』


「ほら、例えばイカサマでハメて大負けさせた客に『強盗でもなんでもやって金を作って来い』とかよくある話だし?」



 もっとも、ラックに関しては推理ではなく、同業者として賭博の胴元側の手口をよく知っているから気付いた、という理由だったようですが。



『え……引くの』


「コホン、それについて詳しく聞きたいのだが」



 堅気側の面々は思いっきり引いていました。

 ドン引きです。

 立場上、今の発言をスルーできないシモンも気になる様子。今はそれどころではないので色々と見て見ぬフリをせざるを得ない状況ではあるのですが、いくらなんでも限度があります。



「ちょっと!? うちはそんな阿漕な真似はしてないわよ! 兄さんも誤解されそうな言い方するんじゃないの!」


「そういう……のは、ダメ」


「そうそう、明るく楽しく元気よくがうちのモットーだからねぇ」


「それはそれでどうかと思うけどねー」



 それについては、あくまで同業者として手口を知っていただけで、アルバトロス一家が実際にやっていたわけではありません。地元の常連客だけを相手に、無理なく儲けながら長く賭場をやっていくには、そういうやり方は不向きだったので。


 まあ、追求されたら列車強盗以外の余罪がポロポロ出てくることに違いはないので、かなり必死で誤魔化していましたが。



「まあ、仮説段階ではあるが試す価値はある。市民に告知しておくとしよう」



 ともあれ、今は目の前の事件が優先です。

 シモンが副団長や他の幹部たちとも相談し、この日の昼過ぎには、賭博の誘いをかけてくる人物に警戒するよう、市内全域に告知がなされました。







 ◆◆◆







 そして二日後。

 告知が効果を発揮したのか、市内は意外にも平穏さを保っていました。

 無論、犯人が本を諦めるとは思えませんが、旗信号を用いた遠見台の報告によると、遅くとも明後日には首都からの援軍三千が到着する見通しも立っています。

 そうなれば、現在は休み返上で市内の警戒と捜査に当たっている学都の兵も休めますし、敵の潜伏場所を探す効率も大幅に上がるでしょう。


 前回の事件で荒らされた商店なども多くは営業を再開し、街は普段の活気を取り戻しつつありました。




 ただし、一部には普段通りではない活気に包まれている場所もありましたが。

 そう、具体的にはとある事件の容疑者を保護・勾留中の騎士団本部とかで。





 本部内一階にある食堂は、普段はそれほど利用者は多くありません。

 専門の料理人を雇っているのではなく、新兵が持ち回りの当番制で作っており、食べられる物は出てくるけれど美味しい物が出てくるとは限らないのです。


 軍人というのは、たとえどれだけ偉かろうが、炊事や身の回りの雑事はなんでも出来ないといけません。戦場や魔物の領域では基本的に下っ端から死んでいくので、たとえ家事などしたことのない王侯貴族の出身だろうとも、いざという時に「できません」は通用しません。

 世話人が死んだ後で、そんな役立たずの面倒を見る余裕などないからです。

 まともに機能している軍隊であれば、これらに関しては厳しく仕込まれます。


 その為の調理訓練を兼ねての当番制なのですが、はっきり言って評判がいいとは言えません。

 美味い料理屋がいくらでもある学都で、いくら安く上がるからとはいって、ただ食べられるだけの素人料理を毎日食べたいなど、普通は思いません。

 稀にマシな料理が出来る兵や、異性から人気がある女性兵が当番の時は多少客が増えますが、あくまでも「多少」止まり。内勤の者が雨で外出するのが億劫だったり、貯金のために節約していたり、そういう事情がなければ好きこのんで食堂を利用したりはしません。


 ですが、この数日はちょっと……いえ、かなり様子が違いました。

 いつもはガランとしている食堂が満席状態で、入口周辺には列まで出来ているほどの盛況です。


 

「うん? なんか美味そうな匂いが……」


「ルカちゃん、今日のメニューはなんだい?」


「あ、はい……ステーキ、です。熊の……」


「ほら、おっちゃんたち並んだ並んだ。横入りはダメだよー」


「お、おう」



 緊急事態ゆえ、食堂当番の人員は巡回に出ており誰もいないのですが、何故か拘留中のはずの容疑者達が代わりにおさんどんをしていました。

 しいて理由を挙げるなら「ヒマだったから」でしょうか。

 主な調理はリンが担当し、ルカは下拵えと皿洗い、レイルは配膳や列の整理を担当していました。ちなみにラックはロクに働かずにつまみ食いばかりするので、尻を蹴飛ばされて追い出され、今は昼寝中です。



「なんか、この肉柔らかくない?」


「俺、熊の匂いダメなんだけど、これなら食える」


「高い肉使ってる?」


「いや、なんでも摩り下ろしたタマネギだの香草だのと一緒に肉を漬け込んでおいたとか」


「ほう、たいしたものですね」


「付け合せの野菜もイケるな」


「しかも、複数の野菜類も添えて栄養バランスもいい」


「おかわり欲しいなぁ」



 元々、家族プラス二十人近い子分の食事を日常的に作っていたリンの家事能力はかなりのモノです。慣れない厨房設備も、二度三度と使う間に完全にモノにしていました。

 単純な味という面ではプロの料理人が作る美食には敵わないかもしれませんが、味の方向性が家庭料理寄り、言い換えるといわゆる「おふくろの味」で、それが故郷を離れて日夜厳しい訓練や任務に明け暮れている兵や騎士のツボに入ったのでしょう。



「あの子ら、騎士団うちに欲しいっすね」


「おいおい、一応容疑者だぞ」


「ああ、あまり気を許すなよ」


 

 最初のうちは容疑者ということで「いいのか?」と、疑問顔だった者達も、



「女の子の手料理、いいよね……?」


「わかる……」


「いい……」



 今ではこのザマ。

 完全に胃袋を握られていました。

 最高責任者のシモンも、兵の士気向上に繋がっているからと現状を黙認しているせいもあり、もう完全に存在を受け入れられていました。すでに調理中の見張りすら付いていません。



 その影響は次第に食事以外にも広がりを見せ、



「もう、ダメじゃない。ちゃんと普段から掃除しないと」


「「「はーい」」」



 普段からおざなりだった本部内の清掃や、



「洗濯物あるなら名前書いたカゴに分けて出しときなさい。いくら忙しいからって汚れたの着っぱなしじゃダメよ?」


「「「はーい」」」



 忙しくて溜まる一方だった衣類の洗濯にまで見かねて手を出すようになり、もう完全に飼い慣らされていました。

 家事が、というか根本的に世話好きなのでしょう。

 自然と行動範囲が本部近くの宿舎にまで広がっていましたが、騎士団員たちも容疑者一同も誰一人として現状に疑問を持っていません(一応、ライムが常に気配をマークしており、逃亡が不可能だという理由はありますが)。



 結果だけ見れば万全の状態で業務に集中できる態勢ができ、団員の士気向上にも繋がり、良い事ずくめだったのですが、



「うぅ……母ちゃん……」


「オレ、この事件が解決したら休暇取って母さんに会いに行くんだ」


「私も久々にママに手紙でも書こうかな」



 やたらと里心がついた者が増えてしまい、



「なんでかしら、何か釈然としないものを感じるんだけど……?」



 根っからのカーチャン気質ではあれど、決してそう見られることを望んではいないリンは複雑な表情を浮かべていました。



リンのイラストもそのうちちゃんと描いてイメージ固めたいですね。

初期から出てるのにイマイチ活躍の機会が少ないですし。

ちなみに身長はルカより低めですが、オパーイ大きめのトランジスタグラマー体型。


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