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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
最終章『咲き誇れ、きざはしの七花』

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残り半分の及第点


『なるほど、なるほど。無力な人間共が随分とまあ頑張ったものだ』


 自らの胸を貫く白刃を指先でつぅっと撫でながら、ラメンティアは特に怒るでもなく呟きました。その面持ちは感心半分、呆れ半分といったところでしょうか。



『たしかに遍在化による移動はできぬようだ。世界との合一そのものまで解かれたわけではないようだが……アレ、便利だったのだがなぁ。まあ、なくなってしまったモノがしょうがない』



 自らが自慢気に語っていた強さの根幹となるスキルを永久に失ったことにも、さしたる不安や感慨はなさそうです。そんなものがなくとも戦闘に勝利するには支障がないという余裕の顕れでしょうか。



『ふむ、見事だ。我ながら、悪ながら甘めの採点ではあるが……くくっ、ここは素直に見事だと認めてやろう人類よ。そもそもの事情もロクに知らず、特別な血筋やら能力やらにも恵まれぬ者共が協力し、これほどの偉業を成すとは。実によく頑張った』



 むしろ先程までより機嫌が上向いてすらいる様子。

 人類に対して試しを行っているらしい彼女にとって、学都の住民達が協力して自らに立ち向かってきた。その上で大きな戦果を挙げたという状況は、大きな加点対象となったようです。



『くかかっ、敵だろうが何だろうが認めるべきは認めるのも偉大なる者の器量というものよ。まあ、説明を聞いた感じ悪が期待してたのとはだいぶ違うというか、全体的にちょっと……すごく、滅茶苦茶ヘンな部分が多すぎたが』



 ふとラメンティアが視線を北に向ければ、今もなお各所で戦いが続いているであろう学都の街がよく見えました。先程タイムが放火した建物から延焼したのか、戦闘や避難誘導に手一杯で誰も消火活動に回る余裕がないせいか、どんどんと火の手が強まっているようです。

 まあ不幸中の幸いで大半の住人の避難は事前に済んでいましたし、火事による人的被害はそこまで心配しなくてもいいような気がしなくなくなくもないのではないでしょうか。


 そうして燃え盛る街の空には何百何千という数の悪魔が飛び回り、まるで地獄の蓋が開いたかのような光景です。というか、実際に地獄や天国から来ているわけですが。



『……悪が言うのもなんだが、いくらなんでも絵面が邪悪すぎんか?』


「そうかい? これくらい普通普通。全然よくある光景なんじゃないかな」



 ラメンティアの素朴な疑問を受けても、悪魔連中を恐怖で操っているレンリはこの状況になんの疑問も持っていない様子。今更ですが、どっちがワルモノか分かったものではありません。



『まあ、そのあたりの意見の相違はさておいてだ。要するに悪が言いたいのは、人類は思ったよりも見どころがあるのだなぁというか、追い詰められれば意外に根性をひねり出すらしいということだ。言っておくが皮肉とかでなく、ちゃんと褒めておるのだぞ? アイが与えたインチキ超能力というズルはあったが、まあそれについてはオマケして目を瞑ってやろう。学都の連中ほど正気が怪しくはないが、どうやら他の街や村でも最初の混乱から立ち直ってなかなか頑張っているようであるしな』


「ふっ、それほどでもあるさ。勝手に人類を代表してお褒めに与っておくとしよう。で、つまりラメンティア君は何が言いたいの?」


『うむ。こいつら思ったよりやるようだし、人間共に関しては合格ということにしてやってもよい。満点とはいかんが、まあギリ及第点だな。はいはい、お疲れ。もう魔物のおかわりはないから、今いるのを片付けられたら、さっさと家に帰って寝ていてよいぞ』


「そんな適当な。いや、ここで下手に突いてやっぱり満点じゃなきゃダメとか言い出されても困るから言わないけど。ええと……え? じゃあ、これで終わり? 私は別にそれでもいいんだけど、これでお開きって言われると、なんだか不完全燃焼感があるかなぁ」


『いやいや、安心せよレンリ。いくら悪が寛大とはいえ、流石にこれで終わりとはいかん』



 ルグや街の人々の頑張りが意外な形でも効いていたらしいのは好都合ですが、流石のラメンティアにもそれだけで全部終わりとするほどのサービス精神はなかったようです。



『なあ、神よ。神々よ。そなたらとて、このままでは腹の虫が治まらんだろう?』



 そう言うと、ラメンティアはウル達をギョロリとねめつけました。


 人類については、ひとまず合格。

 ですが、神々についての試しはまだ途中。この世界そのものを試すというなら、いくら人間達だけが認められても神様が赤点では格好が付かないというものです。



『能力が封じられはしたが、なに、ハンデと思えばちょうどよい。ほれほれ、遠慮なくかかってくるがよい』



 結局、荒事になるのは避けられないようです。

 先程までより有利な状況ではありますが、それでもラメンティアはパンチ一発で相手を遥か宇宙の彼方まで吹き飛ばすほどの実力者。真っ当な実力勝負で勝てるかどうかは危うい面もありますが、



「うむ、願ってもない。俺からもお相手願おう」


「ん!」



 シモン達としてもそれは望むところです。

 ラメンティアの声に応え、まず真っ先にシモンとライムが一歩前に出ました。

 シモンは修復完了した流星剣を中段に構え、ライムは緩く握った拳を顔の前に置きつつステップを踏み、そして今この瞬間にも先制の一撃を見舞おうと……。



『くくく……いや、だから神を試すと言っておろうが。ゴゴと二人でワンセット扱いのユーシャはともかく、そなたらに初手で来られると話題の主旨というかテーマがブレるのだが』



 一歩を踏み出すよりも前に相手方からクレームが飛んできましたが、まあ、そもそもの話をすれば試す云々はラメンティアが勝手に言っているだけ。単にやられた仕返しをしたいだけの二人が、その事情に付き合う義理などないわけで。



『む?』



 瞬間、まずライムの姿が霞の如くフッと消えました。

 空間転移と体術によるフットワークを組み合わせた得意の移動術でしょう。



『今更そんなものが通じるか。そこ!』



 無論、ラメンティアとてただで喰らってはくれません。

 遍在化こそ封じられたとはいえ、その優れた感覚には微塵の陰りもなし。

 ごく僅かな空間や大気の揺らぎを正確に察知して、ライムがいると思しき自身の背後に亜光速の裏拳を叩き込もうとしました、が。



『……ほう?』



 裏拳は空振り。

 代わりにライムがアッパーカット気味に突き上げた右拳が、ラメンティアの顎をぐしゃぐしゃに粉砕する形で突き刺さっていました。もちろん僅かな肉片からでも全身を復元できるほど優れた回復力を持つ彼女にとって、こんなのは一秒もかからずに全快する程度の軽傷ですが。



「ふふ。まず一発」



 先程の無様に地を這う惨敗ぶりが、あれから幾らも経たないうちにこの結果。

 ですが、本人も「まず」と言うように、この一撃は反撃の狼煙でしかありません。


 ライム達の逆襲はまだまだ始まったばかりです。



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