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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
最終章『咲き誇れ、きざはしの七花』

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というお話だったのさ


 種族、身分、年齢、性別、果ては生死の境すら乗り越えて共に戦う英雄達。

 彼ら彼女らによる感動的なまでの献身によって、とうとう目的は果たされました。



「やぁやぁ、コスモスさん。これが依頼のブツで合ってたかなぁ?」


「ええ、ラックさま。たしかに受け取りました。ふふふ、こいつは上物ですな。では、お約束の報酬に関しましては事態が落ち着き次第すぐにでも」



 魔物を掃討してスペースが開いた門前広場に、四人を乗せたロノが悠々と着陸。ラックの手により本作戦のキーアイテムである『影潜りの衣』がコスモスへと渡ったのです。


 何やら非合法な物品の取引現場のようなセリフが交わされていますが、正義と平和のために奮闘する彼らがそんな真似をするはずもありません。度重なる心労で目から光が失われた怪盗少女も、きっと同意してくれることでしょう。



「おや、雨も上がったようですな。では、ルグさま。時間もありませんし、界港に戻りがてら作戦の打ち合わせと参りましょうか」


「あ、ああ、そういえばそんな話だったっけ……」


「ほら、早速こうして影の中の空間に入りまして。こうすれば魔物も気にせず進めますし」



 どうやら、界港のほうには迷宮達やシモンやライムが戻ってきた頃合い。

 それと同時に不気味な赤い空が打ち砕かれて、無限の怪物を生み出す雨もとまりました。

 雨が上がっても今いる魔物が消えるわけではなさそうですが、これ以上の敵の増援がないというだけでもメリットは計り知れません。大勢の勇士が奮戦する学都は元より、やたらに数が多い悪魔が救援に向かった世界各地の人里でも戦況が引っくり返ってくれそうです。



「しばらくはレンリさまが自慢のトーク力で場を繋いでくれそうですが、それにも限度はあるでしょうし。今はウルさま達との仲間割れを装って場を温めているようですが」


「ああ、大丈夫。俺にも見えてるというか聞こえてるというか、なんとなく状況が伝わってくるんで。まだ全然慣れないし、コスモスさんやレンほど使いこなせそうもないっすけど」



 ともあれ、必要な道具を入手するのは単なる前提条件。

 それをキチンと活用できなければ世界がなんやかんや大変なことになって、ラック達への報酬やバーネット嬢やその他大勢の苦労の甲斐も全てがパァ。全部が水の泡になってしまうかどうかは、ここからのルグ達の双肩に懸かっているというわけです。



「まず察してはおられるでしょうが、カギとなるのはルグさまに持ってきて頂いた剣のレンリさま、未来の国からはるばる飛んでこられた運命剣さまなわけですが」


『お、やっと私の出番かい? なかなか口を開くタイミングが来ないもんだから、忘れられてるのかと思ったよ』


「ははは、そんなまさか、ははは」



 先程、ルグが界港から街まで走ってくる時のこと。

 コスモスの指示を受けた彼はこっそりと運命剣を持ち出してきていました。

 未来の謎技術によってレンリの人格を宿したというこの剣は、刃物としての切れ味や攻撃力はそこらのペーパーナイフ以下。豆腐を切ることもできないナマクラではありますが、ある一点においてだけは驚くべき性能を有しているのです。



「いわゆる、神様特効的なやつという理解で合ってます?」


『うん、合ってる合ってる。大体それ的なやつ』



 運命剣が影響を及ぼすのは神やそれに類するモノに対してのみ。しかし、仮に刺したり斬ったりしても殺すどころか怪我をすることもない。痛みを感じることすらないでしょう。


 運動神経が鈍めの女神は刺さった剣の重さでバランスを崩して、滑って転んで頭を打って目を回していましたが、アレは剣そのもののダメージではないのでノーカンです。



『より正確には神様の権能に対する特効だね。知っての通り神様って連中は反則的な能力をあれこれ持ってるのがデフォみたいな感じだけど、それをできなくしちゃうわけだね。言っておくけど一時的な封印とかじゃあないよ? 私がザックリ刺さったら、それまで普通にできてたことがもう二度とできなくなっちゃう』



 実際、それによって女神は迷宮達に仕込んでいた緊急停止をもう二度と使えなくなってしまったわけです。時間を置けば将来的に回復するということもなし。


 ただ神を殺し得るというだけの神殺しの武器であれば、数多の異世界の中にはそれなりになくもないのですが、果てしない時を生きる神々にとっては今できることが二度とできなくなる権能殺しのほうがある意味よっぽど恐ろしく感じられるかもしれません。



『ただ、まあそれなりに制限や限度もある。できることと言っても、頭の中の思考そのものを止めて生きる屍みたいにするとか、足を刺して歩けなくするとかは無理。そういう普通の人間にもできるような考えたり動いたりじゃなくて、いわゆる特殊能力的なやつだけが対象になる感じだね』



 たとえば人間へ危害を与えるような思考や行動全般を封じて、ラメンティアを強制的に平和主義者に転換させるような真似はできないわけです。それが可能なら一刺しだけで一気に決着まで持っていけるところでしたが、無理なものは仕方がありません。



『加えて言うなら、一刺しごとに封じられる権能の種類は一種類だけ。一度引き抜いてちょっと時間を置いてからまた刺せば複数の能力を殺せるけど、そう何度も同じ手に引っ掛かってくれる相手じゃなさそうだし。私を使った作戦が有効なのは最初の一回きりと思っておいたほうがいいだろうね』



 チャンスは一回きり。その一回でラメンティアの何を封じるかによって、この戦いの結末が左右されるのは間違いないでしょう。


 とはいえ、果たしてラメンティアの何を斬ったものか。

 ただでさえ七迷宮の能力を受け継いだ上に、それらを器用に組み合わせて様々な応用を見せてくる多芸ぶり。一見ふざけているように見えて事実ふざけてはいるのですが、その実力は本物です。


 近くで戦いを見てはいたものの、なにしろ超光速だの亜光速だので動く連中の動きなど、ルグには全然見えていませんでした。強さのキモを見極めるなど到底無理な話です。本質的にバトル村の住民ではないコスモスも、そういった戦闘勘がものを言うような分野には明るくありません。


 実際に手合わせしたウル達なら何か掴んでいるかもしれませんが、そもそもの前提として彼女達は一度手も足も出ず負けているわけでして。残酷かもしれませんが、敗者側の言い分を元に大きな賭けをするというのは少なからず不安が残ります。



「うん、何か悩み事かいルー君。ふむふむ、何の能力を封じるか迷ってるんだ? ああ、ちなみに私は人間のほうのレンリだけど」


「お、おお……便利だけど目の前にいない奴が急に割り込んでくると驚くなコレ」



 ですが、ご安心ください。

 ここで人間のほうのレンリは名案を出してくれました。


 まあ、とっくのとうに既出の名案ではあるのですが。



「駄目元で聞いてみるけど、ラメンティア君って都合の良い弱点とかあったりしない?」


本気(マジ)か……正気(マジ)か、コイツ……」



 人間のほうのレンリが敵当人にストレートすぎる質問をした裏には、そんな意図が隠されていたわけです。あまりにも直接的すぎる名案には、影空間の中にいるルグも感嘆の念を隠せません。



「おっと、残念。弱点はないんだってさ。話しぶりからするに、本当は弱みがあるのに虚勢で言ってる風でもなさそうだし」



 が、知っての通りラメンティアに分かりやすい弱点はありません。

 一応、存在がリンクしている女神が死ねば一緒に消えるかもしれませんが、女神だけが死んでラメンティアはノーダメージという可能性だって否定できませんし、そもそもリスクが大きすぎて駄目元で試すわけにもいかないでしょう。



「まあまあ、レンリさま。では、ここは発想を切り替えてストロングポイントをお尋ねするというのはどうでしょう?」


「お、コスモスさん冴えてるね! ラメンティア君の性格上、そういう自慢っぽいのはノリノリで乗ってきそうだし」



 というわけで、今度は強みについて聞きました。

 すると拍子抜けするほどあっさり教えてくれました。



『ふむふむ、遍在化? どこにでもいてどこにもいないことができる能力だっけ』


「あれ便利そうだよね。それが二度と使えなくなっちゃうのは可哀想だけど」


『ま、仕方ないさ。じゃ、ルー君の準備はいいかい?』


「おう、もうどうにでもなれだ」



 影の中を延々進んできたルグ達は、もうラメンティアの背後約1メートルの位置にまで迫っていました。この世界そのものと同化している敵にとっても、この世ならざる異空間は探知の範囲外となるようで、まるで警戒する素振りがありません。



「それじゃ私が注意を逸らした隙に頼んだ、親友」


「ああ、任せろ親友」



 その直後。

 レンリの発言に気を取られた隙を突いて、ルグが付き出した運命剣がラメンティアの胸部を貫通。以上が一発逆転大作戦の全貌だったというわけでして――――。





 ◆◆◆





『いや、長いわ!? コスモスの奴が説明を始めたもんだから、刺された姿勢のままつい全部聞いてしまった悪も悪だが!』


「ははは、これは恐縮です」


 こうして、ようやく時は現在に。

 無闇に長い回想も多分これで打ち止めでしょう。



 さあさあ、大変長らくお待たせいたしました。

 いざ、最終ラウンドのはじまりはじまり。 



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