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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
最終章『咲き誇れ、きざはしの七花』
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絆の力と言い張れば大抵の無法は通る


 ともあれ、こうして最終ラウンドの布陣は整いました。

 そこまでの過程については極力忘れておきましょう。



『うおおお、我が正義の怒りをぶつけてやるの! 覚悟するのよ、お姉さん!』


「こらこら、ウル君。今は世界の存亡が懸かった大事な時なんだから、くだらない内輪揉めなんかで消耗してる場合じゃないだろう? もっと真面目にやってくれたまえ」


『ぐぬぬ、それはそうかもだけど釈然としなさすぎるの……!』



 レンリの献身的な働きによって、味方一同の士気は十分。

 ウルほど分かりやすくないだけで、あの手この手で挑発を受け続けた皆の怒りは噴火寸前といった有り様です。ちょっとしたキッカケさえあれば、今すぐにでも雪崩を打って襲い掛かりかねません。レンリに向けて。



「なあなあ、ゴゴ。レンリと何かあったのか? わたしは別にヘンなこと言われてないけどなぁ」


『ふ、ふふ……ええ、まあ過去のやらかし含めて色々と。内容的にユーシャの教育に悪そうなので、詳しい説明は控えさせてもらいますが』


「そうなのか? よく分からないけど分かったぞ」



 一応、内面が幼めなユーシャや反応が読めないネム、それからキチンと活躍していたアイに対しての挑発は控える節度がレンリにも存在していました。それ以上の節度はビックリするほどありませんでしたが。


 人並外れて優れた知性と知識を、惜しみなく嫌がらせに用いたのです。

 姉妹の中でもお利口さん側筆頭とも言えるゴゴですら怒り狂う寸前ですし、他の面々も似たようなもの。これまでの付き合いで各人の性格をよく把握していなければ、皆が我慢できる限界をうっかり踏み越えてしまい、今頃本当に仲間割れの危機を迎えていたかもしれません。



「つまり、皆のことをよく分かっている私だからこその名人芸ってワケだね! これまで培ってきた友情が為せる綱渡り。見たかい、ラメンティア君。これが私達の絆の力さ!」


『ここで悪に振られても困るのだけどなぁ。あと、その絆なんか薄汚くない?』


「そんなことはないさ。さあ、皆。私達の美しい絆の力を見せてやろうじゃあないか! うん、私かい? もちろん私は安全な所で見てるだけだよ? さあさあ、私を巻き添えにしないよう細心の注意を払いながらラメンティア君をフクロにしてあげたまえ! 大丈夫大丈夫、絆の力とか何とかそれっぽいことを言っておけば、一人を大勢でボコボコにしてもなんとなく正義っぽい雰囲気が出るものだから」


『絆を悪用するのに躊躇いがなさすぎる……いやまあ、悪は一斉に来られても別に構わんのだけどな。あいつら、揃いも揃ってめちゃくちゃ気が乗らなさそうな嫌な顔しとるけど本当に大丈夫か?』



 見た感じ、あまり大丈夫ではなさそうです。

 もちろん皆も世界を守るためにラメンティアを倒さないといけないのは重々承知しているのですが、下手をしたらそれよりも邪悪そうな横の(レンリ)を先にどうにかすべきなのではないか。なんなら事故を装って死なない程度に引っぱたいておこうかと、様々な雑念が湧いてきてしまったのでしょう。



「やれやれ、仕方ないなぁ。ねえ、ラメンティア君や。ちょっと死なない程度に皆を攻撃してみてくれない? 戦わないといけない状況にさえ持ち込めば、ウル君達だって反撃しないわけにはいかないだろうし。そうなれば後は流れで普通に戦う感じに持っていけるでしょ?」


『ううむ、それはそうかもしれんが流石の悪でもそれは正直引く……』


「ふはははは! さあ、行きたまえラメンティア君! うっかり殺さないよう注意しつつも、皆が危機感を覚えて対応せざるを得ないくらいの適度な力加減で!」


『注文が多い上に細かい……というか、レンリはどこのポジションから喋っておるのだ? もしこれが悪のやる気を萎えさせる方向で世界を平和にする作戦なら、ぶっちゃけちょっと成功しかけておるぞ。なんなら、こいつらが普通に戦って勝つよりはまだ可能性がありそうだ』


「おや? 皆も信仰パワーやら何やらでさっきより強くなったと思ってたけど、まだそんなに差がある感じなんだ? ほら、私ってば見ただけで他人の強さが分かるような変態じゃないからさ、そのへんの力関係はどうもピンと来なくてね」



 口ぶりからするにハッタリという風ではありません。

 この調子なら戦闘を始めさせるまではできそうですが、普通に戦っても先程の焼き直し。全世界から供給される信仰パワーで迷宮達がパワーアップしている分を加味しても、さっきより幾らか善戦するのが関の山でしょうか。



「へえ、皆も結構強くなったと思うんだけどね? 駄目元で聞いてみるけど、ラメンティア君って都合の良い弱点とかあったりしない?」


『そんなもん駄目元で聞くな聞くな。そもそもパーフェクトな悪に弱点なんぞないわ』


「ふぅん、じゃあ逆に強みならどうだい? これこれこういう理由で自分はこんなに強いんだぞ、って。そういうの自慢するの好きでしょ?」


『うむ、まあ、それなら語ってやらんでもない。単純なパワーやスピードはもちろんのこと、女神が不安を感じるうちは肉片からでも再生できる不死性だろ? 迷宮共の能力を受け継いだが故の多様なスキルだろう? くくっ、そのあたりも当然凄まじくはあるのだが……』


「おっ、その口ぶりからするに『これぞ』って秘訣があるのかな?」


『くかかっ、この聞き上手め。ならば仕方ない、教えてやろう!』



 これはいったい何の時間なんだろう?

 この様子を見聞きしている世界の誰しもが疑問に思ってはいたのですが、果たして何が状況を打破するカギになるか分かりません。倒すべき相手がせっかく強さの秘訣を教えてくれると言っているわけですし、人類皆で大人しく拝聴する姿勢でおりました。



『圧倒的強さの理由は色々あるが、その中でも特に……名付けるなら遍在化とでも言うかな? この世界のどこにでもいるがどこにもいない。悪の主観的にはノーコストノーリスクノーモーションで連発可能な瞬間移動という感じだがな、コレめっちゃ便利』


「へえ? 普通の空間転移ならライムさん達も使えるけど、そんなに違うのかな?」


『うむ、魔法の転移であれば発生する魔力の流れもないし、なにしろ最初からどこにでもおるわけだから空間や周辺の大気の揺らぎで移動先を察知される心配もない。常人にとっては同じようなもんだろうが、そいつらレベルの達人になれば大違いだろうよ』



 この惑星のどこにでも在ってどこにもいない。

 世界との合一を果たし、世界中に遍在している神性だからこその反則級の移動術というわけです。他のスキルや基本スペック差だけならまだ経験差や数の差で対抗もできるかもしれませんが、完全に移動時間ゼロで回避にも攻撃にも応用可能なこの権能ばかりはどうしようもありません。なので。



「へえ、それはすごいね! そんなのが使えるなら強いはずだよ。よっ、悪のカリスマ!」


『くかかかっ、それほどでもあるぞ! さあ、他にもっとないか? 褒めろ褒めろ!』


「うん、それじゃあもう一つ……ごめんね?」


『む?』



 唐突な謝罪の意味を問うよりも早く、それは起きました。

 レンリと話していたラメンティアの胸元から生える真っ白い剣先。

 ラメンティアの背中から起死回生の一刺しを見舞ったのは……。



「……いや、なんか本当すまん。この状況で謝るのも違うかもしれないけど」


『ふはははっ、時間稼ぎ&聞き出しご苦労だったね。流石は私!』



 権能殺しの白刃、剣のレンリこと運命剣を握り締めているのは、非常に申し訳なさそうな顔をしつつも見事に不意討ちを成功させたルグ。もちろん、いくら彼が普段から地道に修行を重ねているとはいえ、なおかつ未来から来た相棒の悪知恵があるとはいえ、それだけでは簡単に接近に気付かれていたのでしょうけれど。



「ふふふ、お見事です、ルグさま。まるで任侠映画の若い鉄砲玉(チンピラ)が抗争相手を短刀(ドス)でドスッといくが如き見事な刺しっぷり。この私も所属する怪盗団のボスから借りパクしてきた怪盗七つ道具『影潜りの衣』を提供した甲斐があるというものです」


「パクるなよ!? 可哀想だから後でちゃんと返してやれよ!? それはそうと、コスモスさん協力感謝(あざ)っした!」



 ルグと、あとついでに出てきたコスモスの身体は、まるで何もない地面から上半身だけがいきなり生えてきたような格好です。

 この世界ならぬ異空間から接近して背後から急に飛び出す形で、なおかつレンリの軽快なトークで気が散っている状況であれば、いくら実力に天と地ほどの差があっても不意討ちを成功させるのは不可能ではなかったということなのでしょう。


 もちろん急に生えてきた都合の良いアイテムを借りてくるまでの僅か数分の道程には、それはそれは並々ならぬ苦労があったのですが……。



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