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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
最終章『咲き誇れ、きざはしの七花』
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宇宙がヤバい


 魔王の本気。全力。限界。天井。

 それがどの程度のモノなのか、実のところ魔王本人ですら知りません。

 少なくとも彼が自覚している限りにおいて、これまで一度も本気で戦うような機会がなかったからです。この世の誰にとっても幸いなことに。



「あれ、二人は?」



 ラメンティアが安易な思いつきでライン越えの挑発をした直後、レンリや他の皆が気付かぬ間に魔王とラスボスはその場から姿を消していました。それだけを見れば、魔法的な空間転移でどこか暴れても問題ない場所に移動したようにも思えます。



「なんだか空に映ってたやつも消えちゃったし……は? は、えっ!?」



 つい先程まではラメンティアの能力により全世界の空がスクリーンと化し、ここ学都でのあれやこれやが全世界に無修正ライブ配信されていたわけですが……ついでに、人に知られたらマズそうな発言が少なからず世界の皆さんにお届けされてしまった気もしましたが、今はそれどころではありません。


 謎の力でスクリーン化していた空の映像が消えている。

 これについては別に問題ありません。


 真に問題とすべきはスクリーンの奥側、更なる高みにありました。

 具体的には、地表から見て三十八万キロメートルとちょっとのあたりに。



「ちょっ、月見て!? 月が壊れてる!」



 月に風穴が開いていました。

 空気のない月面でも風穴と表現すべきかはさておいて、月の中心付近の風通しがすっかりよくなってしまっています。地上から見上げたら歪なドーナツ状にも見えるでしょう。


 以前の破壊神の時にも魔王は敵を月まで殴り飛ばしていましたが、今思えばあれでも相当に手加減していたのが分かります。

 動きが見えなかったレンリ達には推測することしかできませんが、恐らくは魔王がラメンティアを殴り飛ばしたか蹴り上げたか、あるいは胸倉を掴んで叩きつけたか。何かしらの攻撃を加えたら、威力が高すぎて月を貫通してしまったのでしょう。



「いやもう何をどう驚けばいいのやらだね……あれ? あの壊れた月、ちょっとずつ大きくなってない?」



 破壊力云々に関しては一旦置いておくとして。

 惑星と衛星との位置関係というのは、互いの引力や遠心力によって自然と絶妙のバランスが取られているわけです。常人の肉眼でもハッキリ見えるほどの大穴が月に開いて質量が減ってしまったら、そのバランス関係は果たしてどうなってしまうのか。



「月が落ちてくる!」



 そりゃあ当然そうなります。

 角度的に月が見える範囲に位置する国々では大パニックが発生しました。

 急激に質量を減らした上に、もしかしたら自転や公転といった回転運動までもが異常な衝撃を受けた影響で止まっていたのかもしれません。ごくごく自然な物理法則に従って、穴開きの月が惑星の引力に引かれて落っこちてきました。


 このまま放っておいたら墜落した月が大量の土砂を巻き上げて、世界中が暗雲に覆われて氷河期に。いえ、その前に大地震や津波や火山の噴火で生物の大絶滅が起きるのが先でしょうか。



「わ、わわっ……えい!」


「お、止まった。ナイスだ、ルカ君! そのまま元の位置まで戻せる? あとネム君は月直して、それから余力があったら戦える皆の治療もお願いね」


『はい、承りましたわ。このままでは二度とお月見ができなくなってしまいますもの』



 まあ、幸いにも最悪の事態はどうにか避けられました。

 巨大恒星をも動かせるルカの『星を掴む』力にかかれば、落ちてくる月を押し戻す程度は軽いもの。自転やら公転やらの回転コントロールに関しても、後で慎重に調節しながらスピンを加えればいいでしょう。ルカ投手の制球力に期待がかかります。


 更に、先程までの戦闘には参加していなかったが故にラメンティアに倒されることもなく余力を残していたネムも『復元』を行使して、早くも月の風穴は塞がりつつありました。



「ああ、ビックリした。どうにかなって良かったけど、地上への迷惑を考えないのは魔王さんらしくないというか。流石にさっきのは笑って流せる範囲を越えてたからねぇ」



 好意的に解釈すれば、今ルカ達がやったように残った皆を信じていたからこそ後始末を任せようと考えただけとも受け取れます。しかし、結果的に無事だったとしても無闇に人々を怯えさせるのは如何にも普段の魔王らしくない。その点からも彼の現在の怒りの程が窺えようというものです。



「でもまあ、宇宙空間にまで飛び出して行ったなら、余波でこっちに危険がどうこうってのはもう無い感じかな? あとはもう全部丸投げすればオーケーだったり?」



 レンリがそう考えるのも無理はありません。

 あとは何もせずに、魔王がラメンティアをボコボコに叩きのめすのを待っていれば万事解決。もしそうだとしたら何とも締まらない、ぐだぐだ感極まる決着ではありますが、形はどうあれ今現在抱えている問題の大半には片が付くはず。


 つまらないオチではあるけれど、まあ、世の中って意外とこんな風だよね……なんて、呑気に構えていられた時間はそう長くありませんでした。



「あれ? 月……じゃなくて、そのもっと向こう。あそこ何か変じゃない?」



 早くも穴が塞がりつつある月は、まあ異常といえば異常ですが理解の範疇にある異常です。あと何分か何十分かのうちには普段の見慣れた月に戻るでしょう。


 本当に異常なのは月の更に奥。

 無数の星々が輝く夜空のほうにありました。



「何か、こう……キラキラした線みたいな? 夜空の端から端まで、こうビャッと。流れ星がそう見えてるだけってワケじゃあなさそうだけど。神様は心当たりない? 剣の私はどう?」


『さ、さあ、わたくしも初めて見ましたけど……』


『うーん、なんだか久しぶりに喋った気がする私にも心当たりはないね。未来の世界でも知る限り聞いたことがない未知の天文現象……いや、いやいや? もしかしたら、アレはつまりそういうことなのかな? だけど証拠があるわけでもないし、確証が得られるまでは私の胸の内に秘めておこうか』


「こらこら、剣の私。ミステリ作品でこれから殺される重要情報抱え落ち被害者みたいな意味深セリフを吐くんじゃあないよ。ていうか、私はあの手の作品では仮説段階だろうが証拠不十分だろうが考えがあるなら何でもかんでも周囲にドンドン共有していくべきだと考えてるからね。もちろん誰かと二人きりじゃない複数人いる状況で……ああいや、それは今関係ないんだけどホラ考えがあるなら早く言った言った!」



 運命剣がしばらく黙っていたのは、レンリ同士が喋ると双方がひたすらボケ倒して話題が一向に進まない反省からだったのかもしれません。いえ、それは今はどうでもいいのですが、運命剣が思い付いた夜空に走った線についての仮説とはつまり……。



『アレね、多分なんだけど世界の外側が見えてるんじゃないかな? ほら、この時代のシモン君もたまにやるでしょ。世界を斬るやつ。アレの規模が超大きい版なんじゃないかなって。あ、また増えた』



 こうして無駄なお喋りに興じている間にも、夜空の線は更に二本三本、十本二十本と景気よく増えていきます。線同士が交差して、まるで空そのものがヒビ割れているかのようです。いったい何光年の彼方まで影響が及んでいるのか見当も付きません。



『お、やっぱりね。スケール感が大きすぎて距離感が掴みにくいけど、あの線の周りに見えてる星がドンドン近くのヒビに吸い込まれていってるでしょ? ヒビ割れそのものも次第に太く広がってるのかな? このままだと宇宙全部が世界の外側に落ちるというか、内外の区別がなくなるまで壊れかねないというか』


「ふむふむ、剣の私。つまり一言で表すと?」



 このまま魔王が暴れ続けたらどうなってしまうのか。

 運命剣は極めて分かりやすくまとめました。



『宇宙がヤバい』



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― 新着の感想 ―
あ、一線越えちまったなぁ。 〉みんな死ぬしかないじゃない! 〉何をしてもムダだ、どうせみんなシンジマウ ヤバい、ジム神様を連れて来るんだ!そうすればみんな助かるよね?
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