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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
最終章『咲き誇れ、きざはしの七花』
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悪世界


 文字通り、世界を震わす呵々大笑。

 夜とはいえ寝るには早い時間帯だった学都辺りはまだマシですが、時差の関係で深夜や早朝にこんなものを聞かされた国の人々にはいい迷惑でしょう。世界中の決して少なくない数の人間が、ビックリして寝床から飛び起きてくる羽目になりました。



「バカヤローッ! 今何時だと思ってやがる!」


「明日早いんだから勘弁してくれよ……」



 迷惑な笑い声への反応で全人類の心が今ひとつに。有史以来、これほど見事に人々の想いが統一されたのは初めてのことに違いありません。


 ですが、ここに至るまでの事情をまるで知らない人々には想像もできなかったでしょう。

 空気を読まない大声で安眠を妨害されるなど、ほんの序の口。

 急な大声に迷惑している彼らが、すなわち、この世界に生けとし生ける全人類が本格的に迷惑を被るのはここからが本番だったのです。



「あれ? なんだ、あの空の……」


「あっ、オレ知ってるぞ。あれはG国の学都だよ! 旅行で行ったことあるから間違いない。空に遠くの景色が映し出されてるのか……なんで?」



 朝の、昼の、夜の、世界中のあらゆる国の空に異様な光景が広がっていました。

 どんな僻地のド田舎も例外ではありません。上映会ならば学都の界港でも数時間ほど前にやったばかりですが、今回は規模の桁が違います。なにしろスクリーンになっているのは全世界の空すべて。晴天だろうが荒天だろうがお構いなし。


 また地底のドワーフ国では地下の岩壁のあちこちに、海底の人魚の国では海底の砂地や水面に……等々、すぐに空を見上げられる場所にいなくとも問題ないよう、様々な土地柄お国柄に合わせてスクリーン化する対象を変更する細やかな心遣いが感じられました。



「へえ、学都ってあんなに大きい街なんだ。いつか旅行するのもいいかも」


「うんうん、行ったことあるけどメシは美味いし遊ぶとこも多いし良い場所で……じゃなくて! なんで、学都の景色が空に映し出されてるんだ?」



 あちこちの上空に遠く離れた学都の光景が映し出されているのは、なにも旅行先の候補として世界中の人々にアピールする新手の広報活動のためではありません。


 事実、最初は上空から学都を見下ろす形で映していたカメラは……無論、これは物の例えであり実際に機械式のカメラを利用しているわけではないのでしょうが……このあたりから南側の街外れ、すなわち今回の事件の最前線たる界港に焦点を合わせてズームアップしてきました。



「なあ、あそこ誰か倒れてないか?」


「誰かと誰かが戦ってる……いや、知ってるぞ。ほら、あれって例の『使途様』達じゃないか? ほら、この前買った手乗り像とそっくりだし間違いない」



 遠隔地に学都の光景を映し出している目的をあえて言葉にするのなら、自らの強さを誇示して自己顕示欲を満たすため。ついでに神の遣いとしての知名度がある迷宮達や、武術大会のチャンピオンとして世間的に名が通っているシモンがなす術もなく倒れる姿を見せつけて、彼ら彼女らを知る世界中の人々を絶望させて反応を愉しむためでしょうか。



「あっ、皆さんご覧になって! あれはシモン様ではありませんこと?」


「きゃっ!? なんて酷いお怪我を……」



 学都から遥か南方。

 G国の首都在住の令嬢達が、窓から見上げた光景に揃って悲鳴を上げました。

 彼女達が見上げる夜空には、全身血に塗れたシモンが剣を杖代わりに辛うじて自分の身を支える姿が映っていました。素人目にも満身創痍なのは明らか。いつ倒れてもおかしくはないコンディションに思えます。


 そんなシモンは、自分の姿が世界中の人々に見られているのに気付いているのかどうか。いずれにせよ今は目の前の敵以外の何かに気を配る余裕などないのでしょう。


 大量出血と複数箇所の骨折で今にも意識を失いそうな状態で、それでも目の前の敵を、今やこの世界そのものとなったラメンティアを睨みつけ――。



「シモン様が、き、消え……?」


「いったい何が!? あの折れた剣はシモン様の物では?」



 あまりにも動きが速すぎて、遠隔地の人々はその瞬間を見ていても何ひとつ理解できなかったのでしょう。最後の力を振り絞ったシモンがラメンティアに斬りかかり……しかし、それを凌駕する速度でもって流星剣を刀身の半ばから叩き折られて、軽く虫でも払うかのような気軽さで遥か遠くまで弾き飛ばされてしまった。


 卓越した受け技の技量とラメンティアの手加減ゆえに即死こそ免れたものの、異常な速度の平手打ちを喰らった彼は、瞬時にして惑星の重力を振り切って宇宙空間まで吹っ飛ばされてしまったのです。


 追いついて救助しようにも、戦える迷宮達やライムやユーシャは彼と同じく惑星外にまで叩き出されて場外負けか、あるいは半死半生の重傷を負って地に倒れ伏しているか。とても他人のフォローに回れる余裕はありません。



『くくっ、かかかか! いわゆる、お礼参りとはこういうものか? 悪は心が広いからな。さっきやられた分はこれでチャラにしてやろう』



 ラメンティアが聖杖『アカデミア』の機能を利用して世界との合一化を果たしてから、ほんの数分。なんともふざけた状況ではありますが、世界は今まさに過去イチの危機を迎えておりました。


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