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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
最終章『咲き誇れ、きざはしの七花』
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一蹴逆転生首シュート


 長くこの世界を見守ってきた女神を救うための一大決戦。

 そんな字面だけを見るなら一応それなりにシリアスな場面であるはずなのですが。



『あぁ~……効きますねぇ。なんと申しますか、心身の奥底に頑固にへばりついたヘドロが剥がれて浄化されていく感じみたいな?』


「なんだか過酷なストレス社会で疲れ切ったOLが、たまの連休に奮発してエステとかマッサージに行ったみたいな感想だね」


『ああ、はいはい。それの疲労度と回復度合いを共に何万倍かに増幅したような具合かもですねぇ。多分、心のリンパがどばどば流れまくってます』


「それだけ聞くと胡散臭いエセ医学みたいだなぁ」



 当の女神はというと、ふにゃりと表情を緩ませた状態で椅子に腰かけ、もう完全にリラックスしておりました。今はレンリを相手にお喋りしつつ、戦いたがりの皆とラメンティアとの戦闘を遠目に見物しているような具合です。



「順調なのは結構だけど、ラメンティア君は正直思ったほど強くはない感じなのかな? あくまで他の皆と比べて相対的にはって前置きはあるけどね」


『ええ、レンリさんがラスボスだなんて煽るものだから最初はちょっと怖かったですけど。でも、ラメンティアさんだって生後間もない身にしてはまあまあ頑張ってらっしゃるわけですし、あまり厳しい評価をするのも可哀想ですからね』


「うんうん、期待外れなりに割と良いほうの期待外れではあるんじゃないかな? あんまり手応えがなさすぎて戦ってる皆のモチベーションが落ちても困るし、このまま頑張って欲しいよね。期待外れなりに」



 ラメンティア誕生の発端となった一人と一柱にも関わらず、なんとも酷い言いようです。実際にはそこまで極端に弱いわけではないですし、現に相手をしている皆は油断も慢心もしていないのですが、戦いの素人である彼女達にはそういった戦闘の機微を読み取れていないのでしょう。


 単に目の前の結果だけを見て、仲間達が圧勝しているものと素直に思い込んでいる。事態はもうほぼほぼ自分達の手を離れ、あとは何もせずボンヤリ眺めているだけでも勝手に解決するだろうと呑気に構えているのでしょう。

 現在の戦況を見る限りでは必ずしもそれが間違いとは言い切れませんが、実に恐るべき無責任。恐るべき煽りっぷりです。



「おや? あれはラメンティア君が自分の生首を持って……ユーシャ君とは別の明後日の方向を向いてるね。今度はどんな隠し芸を見せてくれるのかな?」


『ふむふむ、北側……学都の街のほうを向いて、脚を引いて? なんだかサッカーみたいですねぇ』



 そんな戦況が大きく動くことになりました。

 斬られた頭を首無しの胴体で持っていたラメンティアが、すぐ隣で聖剣を構えるユーシャに目をくれず、北の方角へと方向転換。そして……。



「へえ、自分の頭をボールみたいに蹴り出すつもりなのかな? 本当にサッカーみたいだ。一般的に脚力は腕力の三倍だか五倍だかあるとも言うし、蹴飛ばした頭が誰かに当たれば結構ダメージあるかもね、ダイナミック頭突き。ツノが生えてるから刺さりやすそうだし」


『でも、攻撃のためなら誰もいない方向を向くのは変じゃ……あのぅ、レンリさん? わたくし、なんだか嫌な予感がですね』



 どうやら、ラメンティアは誰も敵がいない北の方角に向けて自分自身の頭部を強く蹴り飛ばすつもりのようです。しかし、目的は攻撃のためにあらず。



「嫌な予感? ふむ、ラメンティア君の性格上、自分の頭を蹴り出す理由が単なる逃走のためってことはないだろうね。だとするなら、今やろうとしてるコレもあくまで勝利のための行動であるわけで。なおかつ北の方角に意味があるとすると……聖杖?」



 学都の街中のみならず、近隣地域のどこからでも見える聖杖『アカデミア』。

 ただでさえ二千メートルを超えるサイズがあるのに加え、夜間であっても仄かな魔力光でぼんやり光っているため、直線距離で数キロも離れているにも関わらず非常に目立っておりました。



「そういえば、剣の私がやった上映会だと神様がアレでウル君達を完全な神様にするとかやってたっけ。あの時はまだラメンティア君は生まれてなかったわけだけど、神様や迷宮の皆から引き継いだ知識で知ってた……のは、まあ良いとして」



 聖杖『アカデミア』に秘された機能。

 この世界と隣接した異空間たる神造迷宮を、この惑星へと浸透させ合一化させる。

 それにより不完全な神たる迷宮達はこの世界を統べる完全なる神となり、あとついでに全体的にパワーアップしたりといった特典も付いてくる、と。

 運命剣が来た歴史ならぬこちらの歴史だと、色々ありすぎてそれどころではなかったせいもあり、迷宮達は未だにそのイベントを経ていない不完全体であるわけです。


 その聖杖の機能に目を付けたラメンティアが、それを利用してのパワーアップを目論んだ。たしかに考え方の筋は通っているように思えます。

 どの程度の強化幅があるのかとか、それ以前に迷宮ならぬラスボスにも世界との合一云々ができるのか。そもそも神器たる聖杖の機能を扱えるのかという疑問も多々ありますが。



『ええと……どうなんでしょう? 聖杖に関しては、本来わたくし以外には扱えないように創ったはずなんですけど。でも、ほら、ラメンティアさんて元々はわたくしの一部だったわけですし?』


「ああ、神器側が誤認してセキュリティが正常に働かない可能性はあるかもね。ついでに言うと、彼女は迷宮の皆の要素も受け継いでるわけだから世界との合一どうこうについても同じく。要は、試してみるまで出来るとも出来ないとも言い切れないってだけなんだけどさ」



 疑問について考えている間にも、自分自身に蹴り飛ばされた生首は一直線に聖杖へと突き進んでいます。これで神器の操作やら何やらができなければ、猛スピードで頑丈な聖杖に衝突したラメンティアの頭部が潰れて地面に落ちて、事情を知らない街の人々が猟奇殺人事件だと愉快な勘違いをして終わることにもなりかねません、が。



「ねえねえ、神様。なんだか、聖杖がやけに光ってない?」


『そ、そんな! あの、それそのものには特にこれといった効果がない光のエフェクトは!?』



 まさに上映会で観た内容の焼き直し。

 巨杖の発光現象そのものは単なる見栄えのための演出ですが、そういった演出機能が働いているということはすなわちラメンティアの作戦が成功してしまったということなのでしょう。



『く、くく、かかかかかっ!』



 いったい、どのような手段で発声をしているのか。

 まるで空や海や大地そのものが笑ったかのようです。


 最早、事態は界港の敷地内だけに収まりそうもありません。邪悪なる哄笑は学都近辺のみならず、この惑星のありとあらゆる場所で高らかに響き渡りました。



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― 新着の感想 ―
サッカーしょうぜ ボールはこの世界な? な感覚でやらかすんだよ 女神の疲れははトキ兄さんに任せればすぐにとれるはず
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