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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
最終章『咲き誇れ、きざはしの七花』
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己が格好よく在る為に


 勇者&聖剣とラメンティアとの戦いは、先程とはまた違う展開を見せていました。

 無駄に腕ばかりを増やしても使いこなせそうにない。

 慣れない剣に関してもまた同様。

 『奈落』の性質を乗せているため殺傷力だけはありますが、ユーシャの剣の技量はシモンと比べても決して見劣りするものではありません。剣術勝負をする限りは、さっきの流れの焼き直しにしかならないでしょう。



「おっ? なあ、ゴゴ。アイツ、今ヘンな動きしなかったか?」


『ええ、魔法の空間転移とは感じが違いましたね。多分ですけど自分の立ち位置や姿勢を「復元」して、避けられそうにない攻撃を強引に回避したんじゃないかと。ネムは積極的に戦いたがりませんし、こういう応用は新鮮ですねぇ』



 そこでラメンティアが選択したのが、素手素足を振り回しての格闘戦。

 素手の格闘技術の練度が特別に高いわけではないのですが、無駄な重りにしかなっていなかった武器を手放したことで身軽になったおかげか、剣を持っていた時よりは幾分マシというものです。


 更にはオリジナルのネムも見せたことがないような『復元』の応用法をも。

 一切の前動作なしに自身の姿勢を数瞬前の状態に引き戻すことで、疑似的な瞬間移動のような芸当まで見せていました。そのおかげで必中を確信していたはずのユーシャの攻撃が外れることも何度かあったほどです。これは予想以上の健闘と称えられて然るべきではないでしょうか。



『くかかっ、どうだビックリしただろう?』



 ラメンティアも生首の状態で地面に転がったまま、首無しの身体で胸を張るという器用な真似をしておりました。未知の『復元』法で神業的な攻撃回避を決めたのは嘘ではないのですけれど、なにしろ相手は伸縮変形自由自在の聖剣です。

 斬撃が空振ったと認識した次の瞬間には刀身が四方八方に無数に枝分かれした上で勢いよく伸び、避けたと思って油断していた首をストンと落としたワケでして。


 まあ、今までの戦いを見ても分かる通りラメンティアの不死性はかなりのもの。

 自分の首を拾って斬られた切断面をくっ付けるなり、新品の頭部を傷口から生やすなり、本来であれば簡単に対処してしまうのでしょうが……。



『むむ、なにやら上手くくっ付かんな? そなたら何かしたか?』


「ああ、斬った時にちゃんとゴゴを塗っておいたからな!」


『もう少し詳しく説明しますと我が液体金属みたいな状態に変身しまして、その一部を斬撃のタイミングに合わせてそちらの傷口に残してきたような具合ですね。切断面が異物で覆われているわけですから接合や再生をしにくくなる、と。単純な手ですけど効果的でしょう?』



 今度は自慢の再生力も上手く発揮できないようです。

 相手の出血も止めてしまうため状況によっては逆効果にもなりかねない小技ですが、どれだけ切り刻んでも平気で手足やら頭やらを生やしてくる不死身自慢に用いる分には実に有効。

 斬られた首をくっ付けようとしばらくは自分の頭部をガシガシ叩きつけていたラメンティアも、再生を諦めたのか飽きたのか、首無しボディの指先で自分の頭をまるでバスケットボールか何かのように器用にクルクル回しています。



『これは流石に勝負ありでしょうか? 降参は……されても困るというか、結局は女神様(あるじさま)の状態が良くなるまで攻撃を続けないといけなかったりするんでしょうかね? 正直、勇者のパブリックイメージ的には、そういう動けない相手を一方的にいたぶるようなのは遠慮したいところなのですけど』


『かかっ、勇者も人気商売的な側面があるゆえ大変だな。善玉(ベビーフェイス)だからこその苦労というやつか』



 単に勝敗を決めるだけなら勝負あり。

 ですが、ゴゴ達としてはラメンティアが白旗を上げたからといって手を止めるわけにもいかず。あくまで女神の体感頼りなので曖昧な部分はありますが、ここまでの戦いで解消されたストレス量はざっくり数万年分相当。僅か数十分で成し遂げられたという点を考えれば驚異的な高効率ですが、まだまだ百万年分の一割にも届きません。


 お手軽に済ませるならゴゴが鎖か何かに変身した上でラメンティアが身動きできないよう縛り上げ、あとは拘束が解けないようにだけ気を付けながら一方的に殴り続けるのが簡単ではあるのですが、新人神々やら新人勇者やらがこれから本格デビューを迎えるにあたり、人前でそうした行為に及ぶというのは如何なものか。



『あと、流石の悪もそれはあまり面白そうではないなぁ』



 心情面での抵抗感を薄めるべく、またもやラメンティアを自由の身にして再度暴れてもらうべきか。人々が怪我をしたり建物が壊れるリスクはあるものの、結局はそれがマシなのではないか。


 七迷宮の能力を掛け合わせて未知の応用法を見せてくるのは厄介ではあるけれども、ここまで戦った限りだと彼女の強さは迷宮の誰か一人と同じかちょっと落ちる程度。

 凄まじいまでの潜在能力(ポテンシャル)を秘めているのは間違いないのでしょうが、やはり生まれてから間もないがゆえの経験の浅さが響いているのでしょう。不意討ち騙し討ちに頼って一撃か二撃を入れるくらいはできますが、そんなのは何度も続くものではありません。


 将来的に修行や実戦経験を重ねれば分かりませんが、少なくとも現時点では然程の脅威ではない。なにしろ同等以上の戦力が十人近くもいるわけですから、そうした見立ては大きく外れていないはず。

 例えるなら、ストーリーの本筋をほったらかしてイベント消化や収集要素の回収がてらレベル上げをした結果、うっかり強くなりすぎてラスボス戦が単なる消化試合になってしまったRPG終盤の如し。勝てないよりはマシですが、過度に圧勝しすぎてしまうというのも、これはこれで案外悩ましいもののようです。



『ううむ、悪としてもそなたらを一方的に蹂躙してやりたいのは山々なのだがな。ここいらで一気にパワーアップしてからの大逆転ができそうなご都合ギミックなど無いものか?』



 ただ腕の数を増やすなど表面的な形態変化では意味がない。

 もっと根本的なスペックの大幅増加ができなければ、このまま再生からの再戦を繰り返しつつダラダラ戦うだけのラスボス戦になってしまうでしょう。ラメンティアは別に世界の支配や滅亡に興味があるわけではありませんが、そんな格好の悪い在り方はとても彼女の美意識に適うものではないのです。


 しいて言うなら己が格好よく在る為に。

 生まれて間もない悪の大ボスは、そんな唯一の目的らしい目的を果たすべく、都合の良いパワーアップ手段を求めてギョロリギョロリと生首の視線を右に左に動かして――――。



『お? くかかっ、なんだあるではないか!』



 今や廃墟同然に荒れ果てた界港から見て北に数キロ。

 学都の街の中心部に突き立つ聖杖を見て邪悪な笑みを浮かべました。


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柱をゲット 〉君は、一体それを柱だと何時から錯覚していたんだい? と言われそうなボス 柱を手にしたとたん 使っちゃうんだよな~これはが
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