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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
最終章『咲き誇れ、きざはしの七花』
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無限十四刀流


 奈落剣。

 対象の硬度も強度も無視して、触れた一切をどことも知れぬ異空間へと飛ばしてしまう。本来ならば物理攻撃が通じないヒナを驚かせたあたり、大した能力ではあるのでしょう。



『発見。返却。おや、本当にあった。もう、うっかり落とすんじゃあないよ』


『我だって別に落としたくて落としたわけじゃないわよ、お腹……うん、ちゃんと元通りくっ付いた。ありがとね、ヨミ』


『安価。御用。なぁに、お安い御用だとも。それにしても、(ひと)の迷宮にポイ捨てとかやめて欲しいよね』



 その気になれば失った腹部を新たに生やすこともできたのですが、そこは敵の能力検証を兼ねて一旦ストップ。ラメンティアの言う『奈落』が第六迷宮のソレと同義なのか、はたまた名前が同じなだけの違う異空間なのかを調べるために、わざわざヨミが自分の迷宮内を探してヒナのお腹を見つけ出したという状況です。


 その検証結果については彼女達の言った通り。

 ラメンティアの『奈落剣』は、平たく言えば第六迷宮への直通ワープみたいなものなのでしょう。その事実が現在の戦況にとって何かプラスになるわけではないですが。



『関心。感心。まあ我々みたいな体質でもなければ普通は即死技みたいになっちゃうんだろうし、互いの立場や倫理面を一旦抜きにして考えればなかなか良い技ではあるんじゃないかな。彼女自身は悪い技と言われたほうが喜びそうではあるけどね』


『不意討ちだったとはいえ、我も一回喰らっちゃったしね。そこは素直に反省するわ』


『交代。申請? じゃあ、リベンジのためにも代わってもらったらどうだい?』



 あるいは、単に勝つことだけを優先するなら、恥も外聞もなく全員でラメンティアを袋叩きにするのが合理的なのかもしれませんが、現在はまだそうなってはいませんでした。


 刃先に触れたモノを奈落送りにする剣を元気にブンブン振り回している自称悪の大ボスは、まあ確かに厄介な相手ではあるのでしょう。モモ譲りの『強弱』も併用して身体能力を底上げしているらしく、パワーもスピードもまったく油断できるものではありません。



『技術。驚愕。いや、それにしても極まった剣技というのは凄まじいものがあるよね。知ってはいたつもりでも、ちょっと目を離すと桁違いにキレが増してるし』


『うんうん、我も水を噴出させてのウォーターカッターとか時々やるけど、やっぱり本物の刃物とか剣術とは方向性が違っちゃうものね。下手に声をかけて邪魔するのもなんだし、今はこのまま見学して勉強させてもらうとするわ』



 ◆◆◆



 現在、ラメンティアと戦っているのは一人だけ。

 彼女自身は多勢が相手だろうと一切の不平や不満がなさそうなのですが、だからといって「はい、そうですか」と割り切れる者だけではないのです。



『くかかっ、次は両手に剣を持っての二刀流だ! これは捌けるかな?』



 凄まじい剛力で振るわれる、人の背丈よりも大きな巨大剣。

 しかも、その剣の切っ先に触れた物体は問答無用で第六迷宮送りになってしまうわけですから、下手に鍔迫り合いなど仕掛けることもできません。



「うむ。まあ、問題あるまい」



 そんな奈落剣の二刀流を、シモンは難なくいなしておりました。

 大剣の刃先に触れたら、いかに再生力に優れる流星剣(ステラ)といえども即座の修復は難しいかもしれませんが、そんなことはまるで問題にもなりません。


 力いっぱいに二本の剣を振り回していたラメンティアが、攻撃を受けたわけでもないのに急に地面に転がったのです。特に転倒によるダメージなどはなさそうですが、自分が何をどうされて地に倒れたのか理解できなかったらしく、仰向けに寝転んだ姿勢でキョトンとした顔をしています。



『お、おお? 今のどうやったのだ?』


「どうと言われてもな。そちらの剣の腹を突いて力の流れを捻じ曲げた形だな。武術だと(やわら)とか合気とか言われる技を、素手ではなく剣越しに仕掛けた感じだ」


『くっ、かかか! 面白い技があるのだな。よいぞ、もっと見せてみろ』



 ラメンティアは意気揚々と攻めかかるも、この調子でコロンコロンと転がされるばかり。ヒナやヨミが呑気に雑談などしていられたのも、この余裕があればこそでしょう。

 身体能力こそ同等以上ではありますが、剣の技術も何もなく力任せに振るばかりでは、これほどの技量を有するシモンに勝てるはずもありません。



『二刀流では足りぬか。ならば、こんなのはどうだ?』



 ラメンティアは更にウル譲りの能力を発動。

 自身の両脇、両肩、脇腹と背中からは上中下の三対も。

 なんと自分の身長の何倍も長い腕を新たに十二本も生やして、全ての掌中に剣を生成。元々の二本と合わせた十四刀流で攻めてきたのです。



『これぞ無限十四刀流! くくく、上下左右正面背後! あらゆる角度から無数の刃がそなたを切り刻む! 流石にこの無限攻撃はかわせまい!』


「いや、そういう手が沢山生えてる奴はちょっと前に相手したばかりで慣れ……うおっ!? 手の数に慣れておらんのに全力で振り回すものだから、自分で自分の手首を斬っておるではないか!」



 とはいえ、文字通りの手数で攻める戦法の有効性については大きな疑問が。

 普通の二刀流でさえ要求される腕力と技術力が高すぎて使い手は多くないのに、これだけ数が増えても無闇に混乱するばかりでしょう。


 ただただ目いっぱい振り回す素人剣法にそんな手数が組み合わさった結果、せっかく増やした腕の半分は自分で斬り落としてしまっていました。もちろんシモン相手に有効打など与えられるはずもありません。



『こら、シモンよ。今の隙に悪の指でも手首でも斬り落とすくらいできたであろう? やれやれ、悪は構わんと言っておるのに根性のない男だのぅ』


「いや、そう言われてもな……」


『いやいや、そう言わずに。ちょっと生やしすぎちゃったからお裾分け的にな? 生まれたてゆえ実際にそういう作品を読んだ経験はないのだが、マンションのお隣さんがうっかり作り過ぎた料理を持ってくるのとかと大体同じ感じの展開(シチュ)だな、多分。ほれ、助けると思ってバッサリやらぬか』


「お裾分けにしては物騒すぎる!? ご近所さんがそんな風に言って来たら、怖すぎて俺は泣くぞ!」



 ですが、この期に及んでラメンティアからは容赦のないダメ出しが。

 剣の勝負を続ける限りシモンの勝ちは揺るぎそうにもないですが、リクエスト通りに女性の身体を切り刻むというのは抵抗が大きい様子。実に常識的かつ良識的な感性です。


 とはいえ、こうして転がしているだけではいつまで経っても決着がつきそうにない。今回の一件の主旨を考えると、誰かしらがラメンティアの肉体に少なからずダメージを与え続けないと、いくら技量で圧倒しようが意味はないのです。


 なので。



『お?』


「んなっ!?」



 困り顔のシモンの目の前で、ラメンティアの胴から生える十四腕が残らず根本から落とされました。更に両足と胴体と、通算三度目になる首までも。モザイク無しではとてもお茶の間で流せそうもない、見事なまでのバラバラ死体です。いえ、当然のように生きていますが。



「はっはっは、まったく仕方がないなシモンは! ヒトが勧めてくるのを遠慮しすぎるのは、かえって失礼になるらしいぞ?」


『ええと、はい、そういうことで……急に割り込むみたいになってしまって、(うち)の勇者がすみませんねぇ。この子、大人しく見学するのとか苦手でして』



 不意討ちを仕掛けてきたのは金色に輝く聖剣(ゴゴ)を手にした勇者(ユーシャ)

 本人曰く、世にも恐ろしい手指のお裾分けを頑なに遠慮するシモンの代わりに受け取っておいたつもりなのだとか。これも魔王のレストランで従業員として働く中で得た学びが(異様な方向に事故的に)発揮された形でしょうか。常日頃からのゴゴの苦労が目に見えるかのようです。



『かかっ、よいよい。その容赦なさは悪の好みだ。シモンよ、そなたもユーシャの手本を見て精進するがよいぞ』


「ううむ、俺が間違っているのだろうか……?」



 生首だけのラメンティアもこの調子。


 というわけで、またもや選手交代。

 今度はユーシャとゴゴのコンビが立ち向かう流れになったようです。


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― 新着の感想 ―
それだけ腕が有れば指圧でたべて行けますね ぶそうなご近所? それなら、腐れ縁のコスモスさんが隣の良物権がありますね ただし、挨拶は天井にへばりつきながら
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