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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
最終章『咲き誇れ、きざはしの七花』
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バッド・インスピレーション


 眩いばかりの光。

 そして静寂。


 ヒナが直上に向け撃ち放った『神涙』は、無尽蔵の怪物を生み出し続けていた血玉を跡形なく消し飛ばしておりました。

 あの一射にどれほどのエネルギーが込められていたのやら。サポート役のモモが射線上の物理法則を現世から隔絶させていたにも関わらず、水の弾丸が直撃した際に発生した閃光が見渡す限りの空と大地とを染め上げ、ごく短い時間ながらも夜の青空なる珍しい光景が広がったほどです。



『……ふっ、勝負あったみたいね?』



 余程自信があったのでしょう。

 生真面目な性格のヒナにしては珍しく、堂々たる勝利宣言まで飛び出てきました。

 なお、『ふっ』の前にちょっと溜めを作って格好つけている点には、気付いていてもあえて触れないであげるのが優しさというものです。


 宙に浮かべた血の塊から、自らの思い通りに動くバケモノをほとんど無限に生み出し続ける。ラメンティアの能力は非常に厄介な恐るべきものではありました。モノが液体だけに通常の物理攻撃や魔法では大元を排除するのも難しいのでしょうが、それも今やこの通り。


 ヒナも大技を放って多少消耗してはいる様子ですが、別にバテバテのグロッキー状態というほどではありません。むしろ、自然な流れでお披露目した新必殺技が格好よく決まったおかげもあって意気軒高。ここから新たな血玉を出しても先程と同じく『神涙』で消し飛ばされるだけでしょう。



『ふふっ、我にかかればこんなものよ。さあ、そろそろ本気を出してもいいんじゃないかしら? まさか、さっきまでのが本気だったわけじゃないでしょ?』



 ここまで余裕の姿勢を崩さなかったラメンティアも、頼みの戦術及び能力が封じられては流石に気持ちを切り替えて真面目に戦おうとするのではないか。そんな考えに至るのも当然でしょう。

 いえ、ヒナ達の立場からすると、やる気なさげに遊び半分くらいの力加減でやってくれたほうが良いのかもしれませんが。なんで敵が本気を出してくれるようお願いする形になっているのか、正直言っているヒナ自身にもよく分かってはいないのですが、それについては明確な論理がどうこうよりも場の雰囲気とノリでしかありません。



『く、かかっ! ヒナよ、今の必殺技は良かったぞ。特に技名に(ティア)が入っているセンスが悪と似ていて加点ポイントだ。褒めてやろう』


『あ、うん、ありがと。ま、まあ? 実は我も結構イケてるんじゃないかって思ってたり?』



 そして、ノリの良さという点ではラメンティアも相当なもの。

 自身の能力が事実上封じられたことなど意にも介さず、ぱちぱちと拍手を打ってヒナの必殺技を絶賛しています。あまりフレンドリーに接してこられると、殴ったり蹴ったりしにくくなるという例の問題がまたもや立ち上がってきそうではありますが……。



『かかっ、では次はこんなのはどうだ?』



 そこは流石の純粋悪。

 親愛はあっても、それはそれ。

 別にヒナの油断を誘うために褒めたのではないのでしょうが、特に葛藤などする様子もなく次なる悪意を繰り出してきたのです。





 ◆◆◆






 椅子に腰かけていたラメンティアが、立ち上がり様に斬撃一閃。

 いつの間にか自身の体躯に迫るほどの赤黒い大剣を手にしていた……のは、まあ特に問題にすべきほどの謎ではなし。聖剣に匹敵するほどの性能かまでは不明ですが、ゴゴの能力も引き継いでいるのなら武器の生成程度は難なくこなして然るべきでしょう。



『……え、あれ?』



 問題はヒナが腰から身体を両断されたこと……でもありません。

 褒められて良い気分になったせいでうっかり油断した……さっきの活躍が帳消しになりかねない失態ではありますが、これも大問題というほどではありません。


 なにしろ自分自身を瞬時に液体化させられるヒナにとって、どれほどの名剣が相手だろうと本来はダメージなど受けるはずがないのです。武器も拳も他の多くの物理攻撃も、ほとんど抵抗なく肉体をすり抜けてそれでおしまい。


 だからこそ必死になって防御や回避をしようという意識が薄れがちなのが、彼女の数少ない弱点でしょうか。とはいえ、並大抵の相手であればその弱点が弱点として成立することすらないはずなのです。

 ごく僅かな例外として、シモンの概念斬りのような技術や同様の効果を及ぼす特殊な武器ならば、液体に変化してもダメージを通せる可能性はありますが。


 ですが、実はラメンティアにシモン並かそれ以上の剣の技量があったのかというと、それは否。単純な速度こそなかなかのものでしたが技術と呼べるほどのものはなく、ただ力任せに振っただけ。目に見えない概念を斬るなど到底不可能でしょう。


 だから斬られたヒナ自身も自分の現状がよく理解できず、上下真っ二つになった状態のまま怒るでも怯えるでもなく、ただただ戸惑っていました。



『ええっ、我のお腹……どこに行っちゃったの!?』



 大きな刀身が腹部を通過した。

 それはいい。


 不覚にも油断して一撃をもらってしまった。

 それも、愉快ではないけれど納得はできる。


 問題は、ラメンティアの持つ大剣に触れたあたりの腹部付近がごっそり消え去り、影も形も見えなくなってしまったこと。液体操作を応用して残った上半身の胸から上と足を動かせば移動や戦闘にさしたる影響はないとはいえ、剣で斬られたはずが肉体の一部が消滅したというのは明らかな異常事態です。



『かかっ! どうだ、悪の必殺技は?』



 本来ならばここから謎めいた技の正体を皆で頑張って推理したりするのでしょうが、承認欲求がめっぽう強い上に親切なんだか意地悪なんだか分からないラスボスは、むしろ自分から自慢を兼ねて教えてくれました。



『技の名前は、そうだな……そのまんまではあるが「奈落剣」というのが妥当か?』


『奈落……って、もしかして!?』


『いかにも! デザイン優先で適当に創ったナマクラの剣でもだな、こうして刃先に細長ぁ~く「奈落」を展開して振ってやれば、元の切れ味も対象の強度・硬度も関係なく触れた部分がどこか知らん所へ行ってしまうという寸法よ。どうだ、格好いいだろう!』



 理屈はそう複雑なものでもありません。

 ゴゴとヨミの能力を掛け合わせたようなもの。

 七迷宮の能力を引き継いだラメンティアには、そんな芸当も可能なのでしょう。


 一つ一つの能力の出力そのものは、ここまで見た限りでは恐らくオリジナルの迷宮達に軍配が上がります。例えば純粋な力業の要素が大きいヒナの『神涙』を、ラメンティアが発動するのはハッキリ不可能。


 ですが、他の姉妹の能力を複数掛け合わせて未知の応用法を見せてくるとなれば、これはオリジナルの能力を有する迷宮にも生半には実現できそうにありません。

 姉妹間での連携訓練をじっくりやれば将来的には同じことを出来るようになるかもしれませんが、いくら彼女達の戦闘センスといえども今夜中に真似するのはまず無理です。



『よしよし、なにやら興が乗ってきたぞ。そなたら、せいぜい死力を振り絞って悪に新鮮なインスピレーションを与えるがよいわ!』



 恐らくは誕生時点から七姉妹の影響を色濃く受けているがゆえに、そうした能力の掛け合わせを自然体で楽々こなせるラメンティア。この調子だと時間が経つにつれて、新しく思いついた技が次々飛び出してきそうです。


 言動こそふざけてはいますが、その実力については紛れもなく本物。

 油断も隙もあるくせに、まったく油断できるものではないのでしょう。


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― 新着の感想 ―
神は言っている、ここで1ダウンする定め出はないと と時間を巻き戻せば影響無いね! まるでレンリの性格みたいだ。
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