メイク・ミラクル・メイク
ラスボスを創る。
レンリの大言壮語もいよいよ極まってきた感があります。もっとも、言い出しっぺの彼女はただ見ているだけで、実際にそれをやるのは『奇跡』を行使できる幼女神達なのですが。
『まったく、お姉さんにも困ったものなの!』
「ははは、ウル君達のお手並み拝見といかせてもらおうか」
敵は女神のメンタルに根深く染み付いた疲労感や罪悪感やその他諸々のストレス全般。
これが人間であれば、ぐっすり眠ったり栄養を摂ったりし娯楽に触れたり医師のカウンセリングによって気長に解決すべきなのでしょう。
ですが、今回の相手はざっくり百万年分も積もりに積もった大敵です。普通の人間相手にやるような気長な方法を選んだら、解決までに何万年かかるか分かったものではありません。
『でも、我としては意外に悪くないアイデアなんじゃないかと思いますよ。我々やシモンさんがやるような概念斬りを、概念のほうを実体化することで誰でも斬れるようにできる感じですかね』
「ちなみに聞かれる前に答えておくが、俺達が今の段階でストレスを斬ってどうにかするのは試してみたが無理だった。俺達と同じく概念斬りができるリサが落ち着くまで待ってから頼むか、あるいは何年か修行に専念させてもらえば何とかできるかもしれぬがな」
ゴゴとユーシャの協力技として、もしくはシモンが独力で用いた概念斬りでは、残念ながらマイナス方向に振り切れた女神の精神面をどうにかするには残念ながら力不足。
今のままの伸び率を維持しつつ数年ほど修行すれば、バトルパートをスキップしてこの件を終わらせることもできたかもしれませんが、無理なものは仕方なし。早さを求めるなら、やはりレンリのアイデア通りにストレスを誰でも殴れるよう姿形を与えてしまうのが良さそうです。
『心の一部分だけの具現化ね。うーん……まあ、やってできなくはないかしら?』
『エンタメ系の読み物とかでたまにある感じのやつですね。味方キャラの心の闇が独立して動き出したりとか、あとはその人の精神の形を反映したヒト型の像が殴り合う超能力バトル作品とかも軽く引っ掛かりそうなのです。それなら女神様にダメージのフィードバックが来ないような仕様にしとかないとですね』
突拍子もないアイデアにも思えますが、ヒナやモモの見立てによると恐らく可能。
ネックとなり得るのは神力のコストがどれだけ嵩むかという点ですが、今の迷宮達の力量だって相当なモノ。いざとなれば不足分を補うために、どこかの異世界の可哀想な悪神に因縁を付けて神力のカツアゲをして回る手もありますが、そんな手間をかけるまでもないでしょう。
『くすくす。そのラスボス様という方は、どのようなお姿なのでしょうね?』
『重要。要件定義。まだ生まれてもいないのに姿も何もないけれど、まったくのノーアイデアで創り出そうとするとコストが無駄に膨れ上がりそうだからね。大まかにでも、どんな感じの姿にしたいかを考えてから神力を使ったほうが良さそうだ』
『あい!』
どんな願いも叶えられる便利な『奇跡』ですが、具体的に何をどう叶えるかという詳細をしっかり考えておかねば神力を無闇に浪費するばかり。簡単なイメージ程度であれ、事前に相談して共有することで成功率は大きく上がるはずです。
「どんな形にするかだけど、まず、公序良俗に反するようなグロ系のバケモノみたいのは避けておきたいよね。無難にカッコいい系の動物とかドラゴンをモチーフにするのも悪くないけど、ここはキミ達と同じヒト型にするのが妥当かな?」
『うふふ、なんだか迷宮の皆をデザインしてた頃を思い出しますねぇ。ちなみに、彼女達全員が女の子なのは実は女神たるわたくしをモデルにした影響だったという裏設定がですね』
「ふぅん、まあ、そのあたりは別にどっちでもいいんだけど。あえて男性型にする意味もないし、今回の素材になるストレスだって元々は神様の一部なわけだしね。特に意識せずとも自然と女性的な形に寄るんじゃないかな?」
要望を出したところでキチンと反映されるかは不明瞭ですが、一応の方針としてはヒト型かつ女性。過度に露出が多くて目のやり場に困ったり、ゾンビの如く肉体が腐乱していたりしても強さ比べとは別の部分で無駄に苦労させられそうなので、鮮度ピチピチのフレッシュな健康体でいてもらうのが無難でしょうか。
「ストレスの化身が健康的っていうのも変な感じだけど、元気がないのを一方的にボコボコにするよりは適度に抵抗してくれたほうが心情的に殴りやすいでしょ? じゃ、ざっくりそんな感じの方向で頼むよ」
レンリが相当に邪悪なことを言っていますが、実際これから倒す相手ではあるわけで。
よくよく考えると生まれて早々に討滅させられる為だけの生命体を誕生させるなど、それ自体が非道かつ人道的に問題ありそうな気もするのですが、それはつまりよくよく考えなければ何も問題ないのです。
『……と、とりあえず、さっさとやっちゃうの!』
色々と怪しい部分はありますが、女神が救われて欲しいという気持ちそのものにウソはありません。様々な疑問点には一旦フタをして、さっさとこの件を終わらせる方向で迷宮達も意見を統一したようです。
『じゃあ、皆。タイミングを合わせて神力を一気にドワーッてやるのよ? アイも上手にできるかしら?』
『どあー……? あいっ!』
『姉さんの言うドワーッはよく分かりませんが、分かりました。アイはよく分かりませんけど、できれば我々がやるのと同じ感じでお願いしますね』
まあ、この方法で失敗してもレンリの面目が潰れるだけ。数か月か数年かは分かりませんが、時間さえ費やせば他にも解決できそうな手段が色々ありそうにも思えます。
駄目で元々。
成功したら儲けもの。
そんな風な心の余裕が良い方向に働いたのでしょうか。
『では、僭越ながら我が合図を出しますね。カウントダウン、三、二、一……零!』
ゴゴによる3カウントの後。
激しい閃光が収まると、そこには見慣れぬ人影が……。




