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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
最終章『咲き誇れ、きざはしの七花』
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絶対必勝プランニング


『う、ううん……ここは……?』


「おや、おはよう神様。話し声で起こしちゃったかな?」


 最後の休憩に入ってからそろそろ二時間。

 一時的に着替えや食事で外出していた面々も、女神がスヤスヤ眠っている間に戻ってきて、今は何やら話し合いの時間を設けていたようです。



『おはようございます。気絶ではなく久々にちゃんと寝るとスッキリしますねぇ……ところで、今は何の時間だったので?』


「ああ、この後の戦いに向けての作戦会議みたいなものかな。言い出しっぺの私にもまだ相手の詳細までは分からないから、これが役に立つかどうかは不明瞭なんだけどね」



 レンリにすらも推定ラスボスがどんな相手なのか分からないというあたりに、そこそこ強めの不安感がありますが、分からないなら分からないなりに様々なパターンを事前に想定しておくこと自体は悪い考えではないはずです。もし実際に役に立つことがなくとも、最低でも心構えに関しては多少なりともマシになるのではないでしょうか。


 さて、そんな彼女らが実際にどのような作戦を立てていたのかというと……。



「まず砂粒みたいに細かくなった聖剣(ゴゴ)をわたしが撒いて、目潰し攻撃を仕掛けるんだったな。任せてくれ!」


『勇者のイメージ的にソレってどうなんでしょうねぇ? 実戦的かつ有効なアイデアであるのは認めますが』



 変幻自在の聖剣の特性を活用して、まずはユーシャによる目潰し攻撃。

 戦いが始まる前から砂状に細かくなったゴゴを一帯に散布しておき、不意打ちで視界を奪うという遊びがなさすぎる作戦です。余裕があるようなら敵の鼻や口から侵入し、ノドや肺の内側からチクチク痛めつけるのも効果的でしょう。


 この作戦の欠点としては、デビュー早々に卑怯な手で勝利したユーシャの世間的なイメージが悪化しかねない点ですが、そこは式典会場に居合わせたマスコミ関係者を買収なり洗脳なりすればどうとでもなるだろうというレンリのアイデアによって解決しました。多分、解決しているはずです。



『でも、そのボスの人が我たちみたいに痛みを感じないようにできるかもしれないの。だから目潰し作戦が成功しても失敗しても、そのまま透明になった我が後ろから頭をガツンとやってやるのよ!』



 普通に考えたら目潰しだけでも十分そうに思えますが、ここは油断せず念には念を入れていきます。具体的には、透明度の高いクラゲのような状態に変身したウルが背後から忍び寄り、無防備な後頭部をガツンと一発。


 本気で殴れば地球サイズの惑星をギャグ漫画みたいに割れる(なんとも恐ろしいことに、わざわざ試し割りのために生物が生息していない無人の異世界で実践済みだったりします)ウルのパンチを喰らえば、まず間違いなくただでは済まないでしょう。どちらかというと、殴られた相手が顔面から地面にメリ込んだ勢いで大地震が発生しないように気を配るほうが重要かもしれません。



『我としては、相手が可哀想で気が引けるんだけど……』


『まあまあ、ヒナ(ひーちゃん)。ここは女神様(あるじさま)のためと思って、心を鬼にする時なのです』



 可哀想な推定ラスボスへの仕打ちはまだ終わりではありません。

 目潰しと後頭部からの打撃で万が一にも生存していたら、今度はヒナによる水責めが待っています。身体の内外から世界最深の深海域のソレを遥かにこえる水圧で押し潰し、もし可能ならば相手の肉体そのものをドロドロの液状に。


 ついでに言えば、ここまでの全工程でモモが『強弱』による皆のサポートを行う予定でもあったりします。もはや戦闘というよりは一方的な処刑。ここまで念を押してなお生きているようなら、その時こそいよいよメンバー全員での友情戦法(フルボッコ)に移行し、それでもまだ厳しいようなら魔王にご足労願うという最終手段もあるわけで。


 もっと正々堂々とした戦いを希望するライムからの強い反対意見も出ましたし、他の面々だって本来は同じように真っ当なバトルを楽しみたい派ではあるのですが、女神の救済という大義の前には個人的な欲望の充足など些細なこと。最後には涙を呑んで、この元も子もなさすぎる作戦への協力を約束していました。


 皆が自分を救うために考えた、言い換えると救済対象のせいで皆が卑劣極まりない手段に手を染める覚悟を決めたことには、女神もすっかり感動し……。



『あのぅ、わたくしの為に考えていただいておいて注文を付けるのも申し訳ないのですが……もうちょっとですね、こう、倫理面に気を遣っていただけないかなーって』



 せっかく立てた作戦ではありましたが、母親的な立場としては娘達への悪影響を見過ごすこともできず、せっかくの作戦はお蔵入りとなりました。





 ◆◆◆





 作戦が白紙撤回されたところでタイムアップ。

 一堂は休憩を終えて毎度お馴染み演壇前まで戻ってきました。



「やれやれ、わざわざ好きこのんで勝率を下げるとは神様も物好きだね」


『うぅ、すみません……ですが、娘達が悪い考えに染まって非行に走ったりしても困りますし』



 一応、完全な撤回ではなく、まず普通に戦ってみて相手が手に負えなさそうなら先程のような卑怯な戦法を解禁する妥協案を採用。女神としても自分の救済が懸かっている以上は、多少のやらかしには目を瞑る方針でいるようです。 



「ははは、なんだか着慣れてない感がコスプレイベントみたいだね。行ったことないけど」



 式典の参加者達はレンリの指示を律儀に守って、限られた時間で可能な限りの武装をしてきたのでしょう。とはいえ、不幸にも今回の一件に居合わせた人々の多くは、政治家にしろ役人にしろ普段から戦ったり鍛えたりしていないインドア派が大多数。


 武器や防具に関しても大半は国許から持参したモノなどあるはずがなく、仕方ないので急遽学都の店で購入した品を着てきた人も多々いるようです。その不慣れを指して、よりにもよって準備をさせた張本人にコスプレ呼ばわりされては堪ったものではないでしょう。



『それで、レンリさん。皆さん集まったようですし、流石にそろそろ戦う相手が誰かくらいは教えていただいてもよろしいのでは?』



 女神の声に、集まった面々も「そうだそうだ」と首を縦に振って同意の意を示しています。別に一部の頭のおかしな連中と同じように好んで戦いたいわけではないけれど、ここまで頑張って準備したのにまったく意味がありませんでしたというのも面白くない。

 できれば痛かったり死んだりしない範囲で、安全圏から一方的に攻撃なり援護なりをして役に立った実感と達成感だけが欲しい。大の大人が口にするには余りにも情けないため誰も言いませんし言えませんが、戦いの自信がない彼ら彼女らの本音は大凡そんなところではないでしょうか。



「ははは、それではリクエストの声に応えようか。これから私達が戦うことになる敵の正体は……そこだっ!」


『ええと、わたくしを指差して何か……はっ!? ま、まさか、皆さんで寄ってたかってわたくしをイジめて、辛かったり苦しかったりするのが気持ち良くなってしまうまで調教するつもりとか!?』


「こらこら、何を言ってるんだね。そんな馬鹿なことが……いや、その手があったか! どうする? それなら戦わずに済むし、神様がそっちのほうが良いなら今からのプラン変更もできるけど?」


『その手があったか……じゃないですよ!? ナシです、ナシ! 是非とも、そのままのプラン据え置きでお願いします!』



 レンリが女神を指差したせいでアブノーマルなプランBが発生しかけてしまいましたが、女神の強い希望でプランBについてはなかったことに。上手いことやればそちらでも解決した可能性は否定できませんが、その真偽は永久に闇に葬られることになりました。



『で、話を戻しますけど、そのなんだかとっても可哀想な目に遭いそうなラスボスの方はいったいどちらにいらっしゃるので?』


「うん、それはね、神様の心の中にいるんだよ……いや、私も自分で言ってて胡散臭いと思ったけど、別にそういう精神論とかじゃなくてさ。神様の内面に積もりに積もった疲労感とか罪悪感とか、その他諸々のストレス全般ね。それに迷宮の皆の『奇跡』で形を与えて、物理的に殴って倒せるようにしようかなって」



 というわけで、突然ですが工作の時間です。

 新人の神様達は上手にラスボスを創ることができるのでしょうか。


来週からしばらく忙しくなりそうなので、ちょっと更新ペースが落ちるかもしれません。

今年中の完結を目指していますので、どうか気長にお待ちくださいませ。

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― 新着の感想 ―
ウルちゃん達がグレたようだ。 親御さんの顔が観てみたい。と○○○○が言っている。 やはり、友達は選んだ方がいいぞ。621 ここからが、本当のラスボス戦だ。
あ~負の感情やストレス、疲労等を具現化する事による敵か・・・ これ、一種のドッペルゲンガーを造る様なものだから神様と戦うのか 勝てるかな? 後、この戦いの後で良いから他の人でも自分の負の感情やトラウマ…
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