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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
最終章『咲き誇れ、きざはしの七花』
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最後の質問


 というわけで、今更ながらにルール決定。

 このトークバトルは三回の裏で終わりということになってしまいました。



「こらっ! 勝手に何をしてくれてるんだね、このナマクラは!」


『ははは、気にしない気にしない。それに多数決を先に主張したのは若い私のほうだろう? こっちの私と神様が賛成してるんだから、ここは素直に認めるのが道理ってものじゃないかな』


『そ、そうですね。正直、怪しいこと甚だしくはあるのですが、わたくしとしても剣のレンリさんの意見に賛成票を投じたいなぁ……って』



 もちろん人間のほうのレンリは不満たらたらなのですが、運命剣も指摘したように勝手に多数決ルールを持ち出してきたのは彼女自身であるわけで。渋々ではありますが、この回の裏で決着をつけざるを得ない流れになってしまったようです。



『ほら、こうして座ってお喋りしてるだけって流れが長く続くと、映像()的な変化がなくて見てる人を退屈させちゃうからね。私としてもちょっと飽きてきたし』


「いやいや、私のクセにオーディエンスの皆さんの心情を(おもんぱか)ってるんじゃあないよ。世の中にはそんなモノよりも大事なことがあるとは思わないのかい? 具体的には私の利益とか。あと私の精神的愉悦とか」


『それならキミと私は大元が一緒なわけだし、それでこっちの私が好き勝手やったわけだし、結果的に一貫性はありすぎるくらいなんじゃない?』


「それもそうか! 我ながらブレなさすぎるね。流石は私!」



 運命剣が早期決着を図った理由は未だ不明。

 単純に飽きてきたという言も完全に嘘ではないにせよ、流石に女神もそれをそのまま信じたりはしません。とはいえ、表面的には運命剣がレンリを裏切って味方してくれたような状況ですし、三回打ち切りへの賛成票を投じざるを得なかったわけですが。



『じゃあ、あと一回だけ質問を伺って、それで何もなければこのままお開きということで。色々とご迷惑をおかけしてしまいましたが、わたくしも心を入れ替えてこれからもキチンと神様業をやらせていただきますので』



 真意が分からない不気味さはありつつも、あと一回の質問を何事もなくやり過ごせばそれでおしまい。その有利から女神にも心の余裕が生まれつつあるようです。


 あと一度きりの質問で女神が自身の消滅を望んだ理由を言い当てる。

 果たして、そのようなことが……。



「……できる、ってこと?」



 ここまでの無茶振りをされて、レンリの脳細胞も普段以上の猛回転を始めたようです。

 運命剣があと一度の質問に限ったのは、もうそれだけで十分だから?

 逆に、ダラダラとどうでもいい問いで時間を浪費していたら、かえって答えから遠ざかってしまいかねないとでも思ったのか。それならば先に何かに気付いているらしい運命剣がさっさと答えを言っても良さそうなものですが、そこは若い自分自身を甘やかさず鍛える好機だとでも思っているのかもしれません。



「そういえば」



 先程、レンリも何かに引っ掛かりを覚えました。

 あれは何の話題でのことだったでしょうか。

 


「今もまた言ってたよね。心を入れ替えて神様でい続けるって」



 女神を思い留まらせ、引き続きこの世界の神として存続させる。

 そこがレンリ側のゴールではあるのですが、何かがおかしい。

 いったい、それの何がおかしいのか?



「そもそも、だ。彼女はどんな大層な目的で消えようと思ったのか」



 最初、レンリは漠然と何かやむを得ない事情があるのだろうと想像しました。

 たとえば、女神がその存在を犠牲にしなければ世界の存続そのものが危ぶまれる。幼神達や勇者や魔王ですら歯が立たない巨悪がどこからともなく到来するはずが、女神が消えたことで何かしらの歯車が切り替わって未然に防がれるというような。


 頑なに理由を口にしようとしないのも同じ。

 その動機面を誰かに語ることでも、同様の破滅的な災厄が降りかかる。

 だからこそ語りたくても語ることができない。

 そういったジレンマに苦しめられているのだろうと、そんな風に考えていたのです。



「まさか、何もない?」



 しかし、そもそもの可能性としてそんなにも凄まじい災厄などあり得るのか。

 まだ見ぬ異世界には、それは当然とんでもなく強い未知の存在もいるのでしょうが、この世界の面々がそう簡単に負けるとも思えません。むしろ強敵がやってきたら嬉々として襲い掛かり、たちまち食料なり修行相手なりとして更なる力を得る糧にしてしまいそうです。


 その未知の脅威が姿形を持つ敵ではなく、大災害や疫病だとしても同じこと。いったい、どんな災害なら迷宮達プラスαが守る世界に破滅的な被害を与えられるというのか。最早、想像することすら難しいでしょう。


 付け加えるなら、女神が心変わりをして消えるのを延期すれば、そういった脅威までもが都合よく予定を延期してくれるなどというのも明らかに無理がある。



 ならば、考える方向性そのものが間違っているのでは。

 女神がその身を犠牲にしてまで防ぐべき脅威など、最初から存在しないのではないか。


 レンリの思考は更に前へ前へと進みます。



「さっき剣の私が言った質問。それから……たしか、昨日の夜にも」



 運命剣が代打を買って出てまで問うた言葉の意味とは。

 加えて、昨夜の伯爵邸でのパーティーでレンリと女神が二人で話した時にも、先程の回答と同じような意味の言葉を口にしていました。


 眠れない。

 ずっと起き続けている。


 自前の肉体を持たない以上、別に睡眠不足で体内の老廃物が溜まったり、お肌や内臓への悪影響がどうのこうのということはないはずです。しかし、だからといって一切の疲弊がないと言い切れるのか。結局のところ、生身の肉体を有するレンリには想像することしかできませんが。


 いったい、女神がどうして消えようと思ったのか。

 三度目にして最後となるレンリからの問いは……。



「疲れた、から……?」


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まさかの燃え尽き症候群に近い状況だった! とりあえず、焔の妖精?精霊だったかな?にメンタル鍛えて貰わねば! 〉諦めんなよ!諦めんなよ!まだ、やれるぞ! 〉諦めたら、そこで試合終了しますよ? 女神〉もう…
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