疑心暗鬼のフェアプレー
運命剣の真意は一旦さておいて、トークバトルもいよいよ三回表。
女神が何を質問するのかに皆の注目が集まります。
『そうですねぇ、何を聞かせていただきましょうか……あっ』
女神としても色々な腹案はあったようなのですが、ここで『あっ』が出ました。
色々とやるべきことを抱えて頭と手足とを必死で動かしているうちに、多々あるやるべきことの中でも重要度の高い案件を存在ごとうっかり忘れていた事実に、だいぶ後から遅れて気付いてしまった時に思わず出る『あっ』。読者諸氏にも覚えがあるのではないでしょうか。覚えがない方はそのままで、覚えがある方は今度から気を付けましょう。
なんにせよ、女神は本来もっと早くに聞くべき重要な質問を思い出したようです。なまじ普段は未来が見えているせいで、そうしたことに気が回りにくくなっていたのかもしれません。
『あのぅ……コレ、いつまで続けるんでしょう?』
「うん? コレというと、このターン制の質問バトル自体で合ってる?」
『ええ、それですそれです。最初に確認しなかったわたくしも悪かったというか、迂闊だったのは認めますけど。流石にこちらが根負けするまでエンドレスで続ける気とかではないですよね?』
そこに気付いたのは二回裏で無意味な野球ネタが無意味に擦られたせいでしょうか。
野球であれば同点延長やコールドゲームを除けば基本的に九回で終わりですが、今現在やっているこのターン制チキチキトークバトルには特にそういったルールは設けてありません。
「ちぃっ、そこに気付いたか。もちろん、そっちが音を上げるか緊張が途切れてボロを出すまで何十回でも何百回でも延々続ける気だったけど」
どうやら、ルールの不備は意図的に残したものだった様子。
まったく油断も隙もあったものではありません。
ですが、こうして気付かれた以上は当初の方針を貫くのも難しい。下手に女神が頑なになってだんまりを決め込まれたりしたら、実質的にレンリの敗北みたいなものなのです。
『はっはっは、まあ、こうなっては仕方ない。明確に回数の区切りを設けて、そこまでに口を割らせることができなければ私達の負けだと潔く認めて以降の追求を諦める。そんなルールを改めて設けるのがフェアな姿勢なんじゃあないかな』
「こらっ、剣の私! なんてことを言うんだい。私のクセに公正なフェアプレー精神を発揮するとは見損なったよ! ほら、神様だってそう思うでしょ?」
『えっ、ええと……わたくしはどう返せばいいんですかね?』
もちろん女神としては運命剣の提案に乗るべきなのでしょう。
人間のほうのレンリが見苦しく不満を垂れているように、レンリのクセに自分からフェアな改定案を持ち出してきたこと自体に、なんとも言い知れぬ不気味さはありますが。
「やれやれ、仕方ない。それで百回と千回のどっちにする?」
『多いですって!? いったい何十日これを続けるつもりなんですか?』
渋々ルールの変更を認めたら認めたで、またもやレンリが妙なところで粘ってきます。たったの三回だけでも結構な時間を食ったというのに、千回ともなれば食事や睡眠込みで一年近い時間を要しかねません。
『せ、せめて一桁回数でお願いしたいのですが! そうですね、さっきの野球の例に倣って九回までとかどうでしょう?』
「こっちの言った百回から値切りすぎでしょ。せめて間を取って五十とか六十とかさ……ふふふ、強気で行けば五回か十回くらいはオマケしてくれるかもしれないもんね!」
『わたくし、そんな気前の良い八百屋さんかお肉屋さんみたいなシステムは採用してないんですが……』
「なぁに、それなら今から導入すればいいだけの話さ! 大丈夫、キミならできるって信じてるとも! それに時には気前の良さをアピールするのも、神様の印象を良くするには効果的なんじゃないかな?」
『そんな風に強く言われるとなんだかそんな気も……はっ、危ない!? 危うくレンリさんの口車に乗ってしまうところでした』
「ちっ、そのまま流されてくれれば良かったものを。ほらほら、剣の私もサボってないでなんとか言ってやりたまえ!」
粘り勝ったほうが有利な勝利条件を獲得できるだけに、レンリも女神も必死です。仮にも人類代表と神との交渉にしては、何故だか昔ながらの八百屋さんの店先の如き牧歌的な雰囲気がありますが。
さて、そんな状況で人間のレンリに助力を乞われた運命剣は。
『三回』
「おっ、千回だって! ほらほら、剣の私だってこう言ってるし、ここは多数決で千回勝負ってことに」
『ええっ、そんなぁ……』
『いいや、若い私。センじゃなくてサン。スリー。三回。つまりは、この回の裏で真相を言い当てるか口を滑らせられなければそれで決着。そう言ったんだけど』
二回に続き、またもや妙な宣言を繰り出したのです。