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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
最終章『咲き誇れ、きざはしの七花』
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精力満点ゴッド食材


 魔王一家の不在。

 もう一つの歴史において女神の計画が成功した理由を考える上で、このポイントを外して考えることはできません。もし彼らが特に予定などなく式典に出席していたのなら、十中八九、女神の企ては阻止されていたはずです。



「ふむ、意外にあっさり肯定したね?」


『ええ、まあ。その部分については知られて困るわけでもないですし』



 一家の妻二人の妊娠・出産のタイミングが重なること自体は、確率としては低いながらも全くあり得ないとまでは言えないかもしれません。


 しかし、偶然が三つも重なることなどあり得るのか。

 出産日と式典のタイミングまでがピッタリ重なったとなると、そこには何者かの意図が介在したと考えるべきではないか……というのが、レンリの主張。そして女神もそれについては素直に認めてしまった形です。



「なんでもありの『奇跡』を使えば他人の肉体にそういった変化を及ぼしたり、胎児の成長度合いを都度調整してタイミングを重ねることも不可能ではないだろうけど。それって倫理的にちょっとどうなのかなとは感じるよ?」


『ああ、いえいえ。たしかに「奇跡」は使いましたけど、そういう倫理的に問題ありそうな手段は使ってませんよ? というか常人ならともかく、あの人達の肉体にそういう大きな影響を与えようとするの、コスト面が大きくなりすぎてちょっと現実的ではないですし』



 レンリにしては珍しく倫理面を気にしていますが、どうやら女神が『奇跡』パワーでアリスやリサのお腹に直接的に新しい命を宿したり、成長度合いのコントロールをしたわけではないようです。口ぶりからするに、どうやら『奇跡』自体は何かしらの形で行使したようなのですが……。



「ほほう、皆様面白そうな話題で盛り上がられておりますな。後学のために私もお聞きしてよろしいですか?」


『ひぇっ、あ、貴女は……!?』



 種明かしの前に、どこからともなく現れた追加ゲストが一名。

 特徴的な銀色の髪と瞳。

 威圧感すら覚えるほどに整った容姿。

 まあ別に長く引っ張るほどでもないので、さっさと正体を明かしてしまいますと。



「やあ、コスモスさん。いらっしゃい」


「はい、そんなワケでレンリ様よりご紹介に与りましたコスモスちゃんです」



 馬鹿(コスモス)が来ました。





 ◆◆◆





「こちらの事情については、そこはかとなく把握しておりますのでご安心を。なにしろ、さっきから病院ロビーで空間に穴を開けて、ヒマ潰しがてらにこちらの様子を盗み見ていましたので」


「それは話が早くて助かるよ。で、話題を元に戻すけど」



 ここからは新規ゲストを加えてトーク続行。

 一見ふざけているように見えて実際ふざけてはいるわけですが、コスモスにとっては家族に関係する重大事。女神が何をやったのかにもよりますが、事と次第によっては彼女が本気で怒るようなこともあるかもしれません。



『い、いえ、だからですね、倫理的には恐らくセーフな手段ですので……』


「それを判断するのは、そっちじゃなくて私達だからね。ほら、さっさと白状(ゲロ)った白状(ゲロ)った」


「ふふふ、ショートコント『取調室』……ほら、女神様。貴女がやったのでしょう? このカツ丼が食べたければ早く認めて楽におなりなさい」



 コスモスがハンカチを振ると、どこからともなく本物のカツ丼が出てきました。

 どうやら魔法ではなく手品の類のようです。こんなこともあろうかと、どこかにカツ丼を隠し持って来たのでしょう。意味不明なやり取りを見守っている人々も、見事なテクニックにうっかり拍手を送ってしまいました。



『まあ、せっかくなので頂きますが……もぐもぐ……というか、これについては最初から認めているのですが……ご馳走さまでした』


「ふふふ、甘いですね。実際に取調室で被疑者にカツ丼を奢ると、自白を強要するための利益供与と見做されて証言の証拠能力が失われてしまうのだとか。つまり、今の発言は無効! 女神さまがやったという言葉の信憑性は綺麗さっぱり失われてしまったわけですな」


『そもそも取調室じゃありませんが!? わたくしが正直に話すって言ってるんですから、それで良いじゃありませんか!』


「やれやれ、仕方ありません。今回は女神さまの顔を立てて再度発言の機会を差し上げましょう。いい大人なんですから、ワガママばっかり言ってはいけませんよ。おやおや、ところで『ありがとうございます』が聞こえませんねぇ?」


『……うぅ、非常に釈然としない気分ではありますが、ありがとうございます』



 苦虫を百匹ほど嚙み潰したような顔をしつつもお礼を言った女神は、今度こそいよいよ自分が何をやったかについて話し始めました。



『いや、でも本当に大したことではありませんよ。今からざっくり一年くらい前あたりからですかね、魔王さん家の皆さんに色々と食べ物のお裾分けをした時期があったのですが』


「ああ、はいはい。私はいつも家で食べるわけではないのですが、何度かお相伴に与った覚えがありますね。たしか貰い物が余ったとかどうとかで」


『ええ、まあ口実については適当な出任せなのですけど』



 ここまでは特におかしな部分はありません。



『ラインナップとしては、ウナギやスッポン、牡蠣に山芋にレバーに……といったあたりですね。実はあのお裾分けにはちょっとした仕込みがしてあったんですよ』


「ほほう? 何度かいただいた限りでは、普通に美味しい食材だったと思うのですが」


『ええ、味に関してはそうでしょうね。ただし、ちょっと神力を使ってですね……いわゆる精力増強の効果を大幅に増しておいたと申しますか。万が一、お店で一般のお客さんに提供したりすると困るので特定のヒトが口にした時だけ効力を発揮するという条件付きで』


「ははあ、ラインナップから薄々そんな気はしておりましたが。我が家のパパ上&ママ上ズは各種耐性が強すぎて、市販の精力剤とかいくら飲ませてもロクに効かずに私としてもつまらない気持ちがあったのですけれど、それらのゴッド食材なら見事にムラつくと?」


『ええ。直接的に「奇跡」で妊娠させるのは無理でも、そうやって間接的に影響を与えてですね、色々とこう……元気になっての自然な営みの結果であれば話は別というか』



 急に話題がおかしな方向に向かい始めました。



『わたくし的には本当はもっと長期的な計画として地道に続けていくつもりだったのですが、思ったより早いおめでたとなったのは、その……よっぽど頻繁かつ熱心に頑張られたのではないかと。妊娠のタイミングが重なったのも同じ理由でしょうねぇ』


「あ、ああ、『頑張る』ね……いやまあ、夫婦なんだから何もおかしくはないんだけどさ、なんていうか知り合いのそういう話って聞いてて気まずいものがあるよね……」



 レンリも照れがあるのか、さっきまでの勢いがありません。

 なにしろ知り合いの夜の生活がどうのこうのという話題です。

 そりゃあ、そうもなるでしょう。



『で、式典の日付けと重なったのに関しては考え方が逆ですね。未来予知でこの日が出産日だと確定したからこそ、無理をして式典の開催を今日に強行したわけです、強硬的に』


「ああ、ちょうど先月くらいに手紙で指定してきたんだったね。そういえば、そのせいで色々と予定が前倒しになって大変だったっけ」


『その節はどうも、急に無理を言ってすみませんでした』



 当初の計画ではもっと余裕があるスケジュールだったはずが、ちょうど先月あたりになって急に残り一か月という締切が設定されたのにはそんな理由があったようです。

 

 妊娠に関しては妻二人のどちらか一方だけ、あるいは多少の時間差があったとしても、結局は立ち合いのために一家丸々式典を欠席することにはなっていたでしょうし、二人重なったのは単なる偶然。あとは予知で確定した日取りに式典を持ってくれば、計画遂行のための最大の障害は穏便に排除できる……という寸法です。こちらの歴史においては、もう完全に台無しですが。



「なるほど、なるほど。そういった形での干渉であればコスモスちゃん的にもセーフです。なんなら、今後とも追加のおかわりをお願いしたいくらいですな。是非、今後も我が家の両親を適度にムラつかせてやっていただければと」


『いや、あの、お願いされても困るんですが……』



 ともあれ、魔王一家の不在理由については説明完了。

 これでまた一つ謎が解けたようです。


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