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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
最終章『咲き誇れ、きざはしの七花』
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未来予知能力についての考察


 未来予知の能力が十全に発揮されない。

 当の能力者にとっては、これは大変な異常事態でしょう。



「だからこそ、無様に刺されちゃったワケだしね」


『ぶ、無様……!?』


「いくら神様が鈍臭くても、いつどこに攻撃が来るか事前に分かってれば流石に避けるくらいはできるだろうし」


『ど、どんくさ……っ』


「あとは神様が今の人類社会から支持されてる理由としては、予知した災害やら疫病やらを未然に食い止めてる実益があるからって面は決して無視できないだろう? もし能力自体を喪失してたりしたら、今後はもう人類からそっぽを向かれて箸にも棒にも掛からなくなっちゃうかもしれないね」


『それは大変困るので是非とも理由をお教え願いたいのですけどっ! できれば、なるべくわたくしが傷つかない言葉を選んでいただく方向で!』



 事実なだけに反論しにくいようですが、数々の言葉のナイフで滅多刺しにされながらも、女神は一人と一本のレンリ達に質問しました。厳密には正確な回答を知っているのは運命剣だけで、人間のほうのレンリは予知が機能不全を起こした原因について仮説を持っているだけなのですが、理由さえ分かるならこの際どちらが答えようとも大した違いはないでしょう。



「はいはい、それならこっちの私がまず仮説を披露してもいいかな? いきなり答えだけを聞くよりもクイズみたいで面白そうだし」


『ああ、こっちの私は構わないよ。例によって、どこまで知識を開陳できるかは自分でもイマイチ分からないんだけど、当たりか外れか言うくらいならギリ大丈夫なような気がしなくもないし』



 そんな具合で、まずは人間のほうのレンリが仮説を披露することに。

 運命剣がいきなり正しい答えを教えるほうが時間の短縮になるのでしょうが、何かとタイパやコスパが重視されがちな昨今。慌ただしい毎日の中で、時にはあえて効率性に逆行するような選択をして、心のゆとりを大事にするゆったりとした時間を取るのも大事なような気がしなくなくもありません。



「じゃあ、私の考えを言おうか。まず前提の確認だけど……神様、そのご自慢の予知能力は今もまだ正常に働いていないのかな?」


『正常に……え、ええ、はい。さっきから何度も試してはいるのですけど』


「ふむふむ、つまりは肯定ということだね。そして今の神様の発言には重要なポイントがある。分かった人は挙手をしてくれたまえ……はい、モモ君早かった!」



 姉妹のお利口さんチーム。ゴゴとモモとヨミがやや時間差を付けつつも手を挙げたのですが、今回はモモが僅かに早かったようです。

 ついでに言うなら、実はドワーフ国のお偉いさんの随行員としてこの場にいたレンリの祖父が後ろのほうの席で一番最初に手を挙げてもいたのですが、身内贔屓を嫌ったのか、それとも手柄を横取りされかねないと思ったのか、今回は見なかったことにしていました。



『はいはい、ちょっと疑問なのですけど、能力そのものが使えなくなってるなら「正常に働いていない」みたいに言われて即座にハイと言うのは違和感があるのです。ということは、つまり、「正常」でない形で働いている。「異常」な形では機能しているのではないのです?』


「うん、ちょうど私もそんな風に疑問を持っていたんだよ。で、どうなんだい神様?」


『ええ、一応見えることは見えるのですけど、いつもみたいに上手くいかないと申しますか……』



 未来予知が使えなくなってはいるが、それは能力の発動自体が封じられているわけではない。発動そのものはしているのに、本来見えるべき光景が見られない……といったあたりでしょうか。



「さて、ここでまた神様の発言に注目だ。彼女は今『見える』と言ったね。単なる言葉の綾かもしれないし、注ぎ込むコスト次第では他の感覚での予知の余地もあるのかもしれないけど。そのまま素直に解釈するのなら、神様流の未来予知とは視覚的な要素が大きいものなのではないかな?」


『ええ、その通りです。やろうと思えば未来の情報を聞いたり嗅いだりもできますけど、情報量という面では視覚由来のモノが一番多くて確実ですし。基本的には視覚の予知を使って、誰かの細かい会話を聞く必要がある時だけ追加コストを支払って聴覚情報もプラスして、みたいな』



 女神が爪に火を点すようにコツコツ貯めている神力を少なからず消費してまで見たい未来の情報といえば、放っておいたら人類社会に大きな被害が出るであろう天災、疫病の蔓延、経済市場の大変動あたり。

 それがいつどこで起きるかを事前に察知し、適切に対応することで被害を未然に防ぐ、あるいは最小限の犠牲に留めることで、この世界の人類はどうにかこうにか存続してきたわけです。



「しかし、それが今はどういうワケか機能不全を起こしている。一応見えることは見えるけど何か変なモノが見えてるし、見た光景が実際のこの場の出来事と食い違うって感じかな」


『補足しておくと、こっちの私が刺さったことで一部の権能が封じられたのとは別の現象だね。たしかに私は神様の権能を一刺しで封じられるほどの名剣だけど、一度に封じられるのは一種類だけだから。他に何種類も封じたいなら追加で何回か滅多刺しにしないと』


「だってさ。もうちょい追加で刺されておくかい?」


『おきませんよ!? 怖いので気軽にオススメしないで下さい!』



 更に言うなら、運命剣によって未来予知の権能が封じられたのなら、能力の発動そのものが完全にできなくなっていたはずです。見えることは見えるけれど、実際に起こる出来事とは違う未来が見えている。ならば、考えられる可能性は自然と絞られます。



「まあ神様自身も薄々気付いてるだろうし、もう言っちゃうけど、多分それは剣の私が来たほうの歴史を見てるんだろうね」


『ええ、はい、それは恐らく。ただ、それだけではなく……』


「まあまあ、それはちょっとだけ置いといて。もちろん見ているモノの違いにはすぐ気付いて、今のこっちの歴史における未来を見ようと頑張ってみたけど上手くいかない。そうだね?」


『その通りです。なんだか視界がグチャグチャで。こんなことは初めてでして、正直何が何やら……』



 もし予知能力の不調が一時的なものではなく、このままずっと治らなければ、仮に諸々の問題を解決して女神が生き残ったとしても、とても心穏やかには過ごせそうもありません。



「安心したまえ、私の考えなら多分それは一時的なものだと思うから」


『ほ、本当ですかっ!?』


「そう言われたら、なんだか自信がなくなってきたなぁ。もしかしたら間違いかもしれないから、話半分くらいで聞いてくれたまえ。うん、駄目で元々さ」


『そこは自信満々に言い切ってくださいよぅ……』



 無意味に精神を擦り減らされている女神ですが、レンリもそろそろ同じ話題に飽きてきた様子。今度は特に引っ張らずに肝心な部分だけを言いました。



「不調の原因として思い当たるのは、やはり未来からの干渉だね。それで歴史が元々の流れと分岐して複数に分かたれたワケだけど……多分、それは二つだけじゃない。もちろん神ならぬ人間には認識できないし、もしかしたら神様でも簡単じゃないかもしれないけど。十か百か、千か万か、もしかしたらもっと沢山の無限に近い歴史の流れが発生してて、その全部がいっぺんに見えちゃってるんじゃないかなって」


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