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今宵の夢は奥ゆかし

作者:

旧友と会い呑んだくれた帰り道、地面に縮こまる少女に会った。

何事かと不審に思い、私はその少女に声をかけた。


「靴紐が」少女が言った。「靴紐がうまく結べないの」


「見せてごらん」

私はそう言って、少女の履いている靴を覗き込んだ。


その靴紐は少し変わっていた。靴紐というよりはリボンなのだ。

鮮やかな赤が映える太く平たい布だった。


私は少女の代わりにそのリボンのような靴紐を結んでやった。


すると、少女が言った。

「だめよ、これじゃ可愛くない」

「そうかい? でも、もう夜も遅いから早くおうちに帰りなよ」

「だめよ。これじゃだめなの。可愛くないもの」

今にも泣き出しそうな少女の顔に私は負けて、今度は出来る限り丁寧に形を整えて結んでやった。


少女の顔が一瞬にして華やいだ。

「これよ! これこれ! 蝶々みたいなこの形!」

少女は立ち上がると、その場で跳ねるように踊りだした。


私は少女が何やら元気になってくれたようで安堵した。

「蝶々! 蝶々! 蝶かわいい!」

少女が歌い跳ねる。跳ねる。跳ねる。

少女の跳ねるのが次第に大きくなっていく。


「じゃあね、おじさん! ありがとね!」

少女はそのまま暗い空の向こうへ消えていった。


今思うと私はありえないものを見てしまったのでは無いのではないかと思う。

ありえないとされているもの。到底、事実とは思えない出来事。

だが、それもいい。こんなにも気分がいいのだから。


今宵の夢は奥ゆかし。

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