臭い ニオイ
足のにおいがくさい
そう娘に言われて
仕方なく、僕は、仕事帰りに駅前の靴屋に、いた
店内は、ごちゃごちゃと、靴が積み上げられて
昔の映画に出てくる河童のミイラでも探せば出てくるんじゃないかと言う市役所のようだった
「あのーすいません」
店の一番奥にあるレジカウンターで
横に、白くて丸い大型のストーブがある席に座って
新聞を読んでいる店主に聞いた
「すいませんが、消臭効果のある下敷きは、ありますか」
「ああ、インソールね、最近は、そう言うの下敷きの事
内には、無いけど、この店の裏にあるあの店ならあるかもしれないよ」
そう言うと店主は、立ち上がり、彼の横ののれんを、開いた
どう言う事なのだろうか
「どうしたの、早く入りなよ」
僕は、急がないとまずい雰囲気を感じ
つい、流されるままに、カウンターを、苦労して、商品をよけながら入ると
彼の横を入る
のれんの向こう側は
昔の家のように
下は、木でも石でもなく
硬く踏みつけられた土であり
前方に、明かりが見え
その一本道の両脇には、彼の住居なのだろうか
いくつも木のとびらがあり
黒くてわからなかったが
壁は白土のようだ
「失礼します」
僕は、何とかなるだろうと
道を進み、明かりのある出口を、くぐった
そこには、何件も長屋のような家が並び
その中に、明らかに、店と言う風体をしている
マッサージ店があったが、それ以外は、家の中から明かりさえないような
民家だった
仕方なく、僕は、興味で、マッサージ店に、入る事にした
「すいません、ここらへんに、インソールを売っている店があると聞いて
前の靴屋からやってきたのでが」
「それなら家だよ、でも、インソールと言うか、うちは、毒抜き
デトックスだよ、どうせあれだろ、あんた、足が臭うんだろ
よくるんだよ、さあどうぞ」
偉い事になった、この店は、あの靴やとぐるで、足の臭い人間が、インソールを買いに来るたびに
この店に案内しているのだきっと
そうなると、裏で金のやり取りがあるかもしれないし
そうなると料金も割高に違いない
そうだ、きっとそうに違いない
足が寒いと言えば、インソールで、この店を
背を高いようにしたいと言えば、インソールと言って
いや、それなら、ハイヒールか
いや、やはりわからないぞ
「どうしました、うちは、脱臭効果抜群のデトックス毒抜きをやっています、心配なさらず」
いよいよ心配になってきたが、ここまで来たら、行って見るのも、一きょうかと
僕は、オレンジ色が、空中に浮いていそうな、温かい店内に、足を踏み入れた
店の中は、どう言う訳かとにかく臭く
一体どんなことをすれば、こんなことになるのかと言うありさまだった
「どうぞこちらに」
ある一室に入ると
普通のベッドに、その上には、普通の白いベッドカバー
何処までもふつうだ
「どうしましかた」
店員は、首をかしげて、僕を見た
「いえ、ただ、この臭いは何なのでしょうか」
「相殺香です、聞いたことはありませんか、ある一定の音には、ある一定の音を
流すことにより、相殺されて、音が消えると
これはその臭いバージョンです」
「僕の足は、こんなにもくさいのですか」
「ええ、娘さんも、大変でしょう」
「娘をご存じで」
「ええ、私の娘も、同じ幼稚園に通っているのですよ」
僕は、この時、少し疑問を感じた
娘が保育園で、私の悪口を言っているのは置いておくとして
彼女が通っているのは保育園だ
それに私は、彼を見たことが無い
確かに、彼の奥さんや、お手伝いさんが、お迎え授業参観」などにきているのであれば
話は別だろうし、私自身、それほど、迎えに行くことなどない
「さあ、どうぞ」
言われるままに、私は、ベッドに横になろうとすると
「違います、何やっているんですか、逆立ちですよ、逆立ち
臭いけしはこれに限ります」
「どうしてですか」
あっけにとられて聞き返す
「煙は元来上の方に上ります
足を上にあげなければ、臭いが落ちるわけがないでしょう」
「そうですか」
私はその時、おかしいと感じながらも、納得している自分もいた
それに、もし本当なら、やって損はない
私は、その時、ようやく、ベッドの下から、何やらいくつも金や銀や銅や黒いろの細い何かが
天井に向けて、煙を黙々とあげている光景を、目撃した
「やはり帰ります」
私は気持ちが悪くなり、急いで、家に帰る
「お待ちください、まだ、まだ、途中なのです、酷い事になりますよ」
私は、その酷い事が少し気になったが
こんな良く分からない店にいるよりっも
足が臭い方が、まだましな気がして、部屋を飛び出すと
靴を履いて、寒い中、また、先ほどの靴屋に入り
あの長いトンネルを抜け
店に出た
驚くべきことに、店内は、汚くもなく
そこは、いわゆる白一色
ご婦人方が、白い椅子に、よっかかるように、座り
手に、何かしてもらっている
どうやら、はやりのマニキュアとでもいうやつらしい
「あああ」
私は、言葉が出ず、すいませんと
言いながら、店を出た
急いでいたせいで、店を間違えたのだろう
その確証に、何時もよく知る駅前の道に出た
そのまま家に帰り
私は、娘から、ある一言を、言われてしまうのだった
「パパ、ぜんしんがくちゃい」
どうやら、足が、多少臭いが薄れた代わりに
その他の部位に、臭いがしみ込んだらしい
どうも、世の中上手くはいかない
あれ以来靴屋はもちろんマッサージ屋が見つからないのは
やはり僕のせいだろうか