冒険者筆頭のタヌキ寝入り
カティアとデートをしたその日、俺達は南の丘陵地帯で昼食を摂った。
満腹になって眠気を催したカティアが、横になって寝息を立てはじめた。
三〇分が経過した頃、気持ち良さそうに寝ているので忍びないが、そろそろ起こすことにした。
「カティア、カティア?」
そっと囁き掛けるが、目を覚ましそうにない。
肩を揺すろうと手を伸ばしかけたが、触れる寸前でためらう。
「おーい、カティア、起きろー朝だぞー」
触れる代わりに声を大きめにしたが、ダメだった。
仮にも魔物が徘徊する領域で、これ以上の大声ははばかられる。
困り果てた俺は、彼女の耳元に唇を寄せた。
「カティア、頼む、起きてくれよ」
「…」
カティアはピクリとも動かない、しぶといなコイツ!
いいだろう、俺の本気を見せてやる!!
「愛しい眠り姫様、御目覚めを。さもなくば」
「…」
「貴女の美しい唇にイタズラしますよ?」
禁忌を犯した反動は、凄まじかった。
身体中がむず痒くなり、その場にうずくまって全身を掻きむしった。
いわれなき罪悪感に苛まれ、ごめんなさいごめんなさいと、胸中でご先祖様に懺悔しまくった。
これほどの代償を払ったというのに、カティアは目を覚まさない。
諦めた俺は、彼女の隣に座って景色を眺めた。彼女もいろいろ疲れているのだろう。
「分かったよ、もうすこし寝てるといい」
「……………………………………………………………………………………………………」
それからさらに三〇分後、彼女はようやく目を覚ました。
寝起きで不機嫌な彼女をなだめながら、俺達は街に戻った。