はじめてのおさんぽ
最近地元の駄菓子屋に入り浸るようになりました。
では三話目です。
目を開く。
ここはどこだ?
一面が花畑のようで草が生い茂っている。
「ーーーてっぺい」
誰だ?俺の名前を呼ぶのは?
振り返ってみる。
目の前に、見知らぬ少女。
「ーーー」
何か言っている。何かを言っている。
「ーーー!」
顔が近づき、そのまま唇が触れ・・・
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ぴちゃぴちゃ・・・
ん?
なんだ?
「キィ!」
目を開けると3D怪獣映画もビックリなトカゲさんが今度は文字通り目と鼻の先にいた。
「キュー!」
主人の目覚めを察したのか、再び舌を出して舐め始めるポタージュ。
なにこれぬるぬるして気持ちわる・・・。
いや・・・?
ーーーッ!?
これはッ!
中々ーーーどうしてッ!
気持ちいいじゃないか!!!
まるで実家の犬を思い出す。子供の頃に嫌というほど舐められて一時期トラウマになったが、帰省して舐める内にハマってしまった時のような!
「いいな、コレ」
顔をトカゲの唾液でびちょびちょにしながら思う。
「夏休みは実家に帰ろう」
もちろんポタージュも連れて。
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今日の朝飯はトーストだ。チョコクリームを塗っている。甘い。
「いただきます」
「キキャキャキキィ!」
今度は発音が良くなっているだとぉ!?
参ったな、ごほうびの煮干しを買い足さねば。
それにしてもポタージュは賢いって次元ではない。モノも良く覚えて、記憶のスピードが段違いだ。
「キィ~♪」
トーストのコゲをよけて食べるぐらい朝飯前だ。朝飯中だけど。
さて、今日は何をしようかな・・・。
大学の課題も無いし、散歩行こうかな。
そうだ、ついでに色々買い出しに行こう。
煮干しを買い足さねば、明日からの味噌汁が微妙になってしまう。俺は味噌の染みた煮干しを食べるのが好きなんだ。
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午前8時、出発。
ここから俺たちの戦いは始まーーー
るはずもなく、散歩でございます。
「キィっ♪キィっ♪」
このトカゲ、実にノリノリである。
なんやかんや有って散歩に来ました俺とポタージュ。
今回のはじめてのおさんぽは町内一周です。
俺はTシャツとジーパン、ポタージュは羽を畳んで四足歩行でお腹にタコ糸を巻いています。
タコ糸を巻くときに何も文句を言わず、いや鳴かず黙って巻かれて居たので楽だった。
「ど~れみふぁ~そ~らし~ど~♪」
ペタペタと小気味いい足音をならすトカゲ&謎の鼻歌を歌う大学生、商店街へと着きました。
「えーっと、乾物屋で煮干しを買って…晩御飯の魚を…」
買うものが意外とあった。
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「あらあら辰巳くんいらっしゃい」
「トミさん、煮干しとお味噌ちょーだい」
ここ、雑話商店街は魚屋肉屋八百屋は勿論、乾物屋やら米屋やらよくわからない物屋やらやら、色々揃ってる商店街である。
最近では店をやっている人がご年配の方ばかりで、跡継ぎ不足で寂れてい…そうでいない中途半端な商店街だったりする。
「はいお味噌と煮干し、あとこのワカメもさあびすしといてあげるよ」
「ありがとトミさん」
この乾物屋は俺が上京してから今までお世話になっている。
味も値段もお手頃で料理に困ったときは大体ここに来れば何品かは揃う。
そして、トミさんはこの商店街でなんと60年も乾物屋をやっているという。一体幾つなんだ。
「さて…つぎは魚屋行くか」
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『に…ぼ…し…』
「ん?」
何かが聞こえ、後ろを振り返ってみた。
しかし、なにもなかった。
なんかポタージュの鳴き声に似てたな…
「気のせいか…」
「キィ?」
「まさかな…」
魚屋…あんまり行きたくないんだよなぁ…
理由は色々とあるのだが…
「た・つ・み・さ・ん…来てくれたのネェ…」
この店主が苦手だからだ。
剛一さん、この魚屋を仕切るイイ漢。
名前に違わぬ鋼のボディを持つ魚屋さん。
ムキムキに鍛えられた二の腕は、鮪を素手で漁るというイカレタ噂が流れている。
だがおネェだ。
「アジの開き…ください…」
「はいはいわかったワァ」
妙に語尾が上がった返事でアジの開きを渡された。俺は何故かこの角刈りムキムキから気に入られてる。
さてこのアジ、角刈りのムキムキおネェから渡されていなければ、さぞかし旨そうに見えるだろう。
「また来てネー!ンチュッ!」
投げキッスされた。
あの投げキッスで人を文字通り撃ち殺せるんじゃ無かろうか。
「これ…食べて大丈夫かな…」
嫌な予想が頭を駆け巡るが、色んな意味で振り切って商店街を出た。
「はぁ…なんか疲れたな…」
なんやかんや有ってたった数十分で疲れた。
「キィ!キィ!」
ところがどっこい、このポタ公は「まだまだァ!」とでも言わんばかりに元気である。
仕方ない、少し先の公園で休憩するか…。
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「…よっこらせ…ふぅうう…」
「キィィ…」
ベンチに腰かけ深呼吸をする。いやー陽射しが気持ちいい。
朝早く出たせいか、まだまだお昼になったばかりである。
「ほら食べな、旨いぞ」
「キキャー」
商店街の弁当屋で買ったおにぎりと、魚屋で買ったつみれ団子を頬張る。
ポタージュにはトミさんがくれたペットフード。
「旨い、旨すぎる」
「キュー…」
腹が膨らんで満足し、眠気が襲ってくる。
六月の晴れた日の陽射しはここまで瞼を重くするのか…
「いいや…少し…寝よう」
ポタージュを膝に乗せて意識を手放す。
『おやすみ…』
ポテトフライはいいですね、薄いのに濃い味が後を引きます。
まだまだつづきますのでご愛好いただけたら幸いです。