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オリゾン・ドゥ・クレプスキュール ~白き極光のアルドル~  作者: 戎・オマール
第二章 明日への麦秋 ~La saison de récolte d'orge pour suivre demain~
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第8話

登場人物


 アルドル・ル-ク・ソラリス 18才 騎士 本編主人公 明るい茶色の髪、身長180cm

 リムニ・アニマー  15才 騎士 肩まである茶色ぽっい黒髪 自称身長150cm

 オニロ・エルピス  19才 アルシミ- 首まである金髪、身長169cm

 ディレッタ・マーレル 20才 騎士 腰まである赤い髪を編んでいる 身長178cm

 ル・リルル 年齢不詳 フェアリーの少女 淡いピンク色の髪 身長10cm

 メキル 年齢不詳 ヴィルジニテ 肩より長い黒髪 身長170cm

 荒野の真ん中に幾つもの幕舎が張られて騎士の一団が駐留している。

 その幕舎の1つでギルスは包帯を巻き終えたばかりの右手をイラつきも隠さずに見つめている。


「ここではその程度の治療が精一杯です。

 王都に戻ればキレイに治せますので」


 頭を下げる老爺にギルスはケガをした右手で思いっきり殴る。


「痛ってえぇぇぇっ」

「きゃっはははっ」

「そりゃ、その手で殴れば痛いでしょうバカなの」

「ウルせえぇぇぇっ」


 ディジーとルルカを怒鳴りつけるとギルスは地面でうずくまる老爺を踏みつける。


「ったっくよおぉぉぉ、あの野郎のせいでロクなこったぁねえ」


 幕舎の入り口の布がめくられナルクスとジニファが入ってくる。


「ご機嫌斜めだね、ギルス」

「他の奴らにも声はかけておいたぜ。

 明日この辺りにレ・ジュー・ヴォラン(各種センサーを内臓した自動飛行監視機)を飛ばせば直ぐに見つかるさ」


 ギルスはナルクスとジニファに振り向き。


「おお、ありがとうなナルクス。

 あいつらこの落とし前は必ずつけてやるからな」

「ねえぇ、アタイお腹減ったよ。

 早くご飯にしようよギルス」

「アタシもギルス、ご飯ご飯ご飯」


 ディジーとルルカに振り向くとギルスは、


「ああ、分かったよ。

 ほらお前が早く仕度しないからだろうがよ」


 ギルスはそう言うと地面に伏している老爺に蹴りを入れる。

 

「さっさとしないかよ」


 体を引き摺るように起こすと老爺はよろけながらも幕舎の外へと出る。


「ねえぇ、あのお爺ちゃんそろそろいらないんじゃない」

「今度、新しい奴隷に変えてもらおうよ」

「っつってもお袋がな」

「そうだっ、せっかくだからさ殺しちゃえばいいんじゃない。

 ここならその辺に捨てればいいんだしさ」

「そうだな、帰るときにそうするか」

「でしょ、でしょ、アタイ頭いいでしょう」


 ギルス達がそんな話をしていると入り口の幕がめくられて数人の老いた男女が料理を運びこんでくる。

 テーブルに並べられる料理を見てディジーがその皿の1つを手に取り、


「アタイ、これ嫌いなんだよね」


 そう言って地面に投げ捨てる。


「ああぁっ」


 地面に撒き散らされる料理を見て女の1人が思わず声を漏らす。


「あれ、おばちゃんこれ好きだった。

 何なら拾ってもいいよ」

「っいいえ、そのような訳ではなくって」

「いいから、食べろって旨いぜ。

 ディジーは好き嫌いが激しいだけだからな気にしなくていいぜ」

「食べろ、食べろ、食べろ、・・・」


 動揺する女の肩に老爺が手を置き退がるように言いつけ外に出させる。

 ギルス達の機嫌が悪くなる前に老爺は地面に膝をついて、


「では私が頂かせていただきます」


 そう言って口だけを使い撒き散らされた料理を食べる。

 

「きゃっはははっ、本当に食べているよ」

「お爺ちゃん、犬みたい可笑しい」


 ギルス達の笑いが響く中で老爺は地面に撒き散らされた料理を食べ続ける。




 オニロは朝早めに目を覚ますと医務室へと足を向ける。

 運び込まれた男の顔色は昨日と比べると幾分か良くなっている。

 リビングに向かうとティーポットにお茶を入れてカップと一緒に医務室に戻る。

 点滴の交換を終えるともう1度体の隅々まで検査する。

 昨日に異常が無いとはいえ叩かれた場所に寄れば症状が出るのに時間がかかることもあるあるからである。

 ひととおりの検査を終えると念のため脳のほうも調べてみる。

 頭は叩かれていなかったようであるが長い旅暮らしである何があってもおかしくはないと考えたからだ。

 全ての検査を終えるとメキルが朝食の準備を終えたことをエスカルゴの拡声器で知らせるのが聞こえてくる。

 幾つか操作のあと部屋の明かりを消してオニロもリビングに向かう。




 男が目を覚ますのはメキルの作ってくれた朝食が済み全員でリビングで歓談をしていた頃である。

 医務室で予め男が目覚めるとリビングにも呼び出し音がなるように設定していたのでオニロとアルドルはすぐに医務室に向かう。

 

「おっちゃん、気分はどうだ、しっかり見えているか」


 オニロは若干困惑気味の男に話しかけながら容態を確かめる。

 落ち着きを取り戻し男の意識がしっかりしたのを確認すると、


「俺はオニロ、こっちはアルドルだ。

 昨日アルドルがおっちゃんを運んできたんだが覚えているかい」

「ええ、すみません助けて頂いたのにお礼も言えなくて」

「まあ仕方ないさ、それよりも名前を聞かせてもらってもいいかな」

「グランと申します、すみません名乗るのが遅れてしまい。

 それと申しわけありませんが直ぐに戻らないとあの場所に・・・。

 種が、種が、みんながあの種を待っているんです」

「落ち着きなって、種なら昨日このアルドルが拾って一緒に運んでくれたからさ。

 悪いが病室には持ち込めなかったがあそこの窓から見えるだろう」


 グランがオニロの指差す方に目を向けると確かに窓の向こうに種を入れた箱が置かれていた。


「すみません、できる限り拾い集めたのですが。

 砂に流されて全てを拾うことはできませんでした」


 そう言って頭を下げるアルドルにグランは涙を流しながら静かに首を振る。


「いえ、ありがとうございます。

 ありがとうございます。

 ありがとうございます」


 何度も礼を言うグランに落ち着くように言うとオニロは今は体を休めるように言うが、


「ありがとうございます、しかしあの種を一刻も早く村に届けなければいけないんです」

「分かっちゃいるんだけどよ、グランさんが倒れちゃ本末転倒だぜ。

 いったい誰があの種を運ぶっていうんだ」


 押し黙るグランにオニロは丁寧に話しかける。


「ところであれだけの種をよく集めたもんだよな」

「13年かかりました、種の手に入る場所を探して分けて貰うためにガムシャラに働いて。

 その間に畑の作り方や種の育て方も教わることができました」

「そうかい、ところで村はここから近いのかい。

 村の仲間が待っているんだろう」

「ええ、あと少しなんです。

 ですが、あれから13年も経ちました。

 正直、不安もあります村が無事なのかと」

「大丈夫さ、家族だって居るんだろう。

 みんなグランさんの帰りを待っているさ」

「・・・妻と娘を残してきてしまいました。

 幼かった娘はもう私の顔さえも覚えていないでしょうね」

「でも家族なんだろう、不安になるより会えることを喜んでやりなよ」

「そうですね、ありがとうございます」

「村はあの場所からどっちの方角になるんだい」

「西南のほうにな・・・」


 やがて麻酔が効いてグランが眠ったのを確認するとオニロはアルドルと病室をでる。


「ありがとう、オニロ。

 僕じゃあそこまで上手く話せなかったよ」

「気にすんなって患者を安心させるのも医者の務めさ。

 それよりもだ、助けた場所を詳しく教えてくれよな。

 少しでもグランさんの村の近くまで送ってやろうぜ」

「ああ、そうだね」


 リビングに戻るとアルドルがグランと会った場所を指示しそこから西南にへと進路をとる。


「おっとぉ、謝るのは無しだぜ。

 みんなアルドルと同じ気持ちなんだからな」

「そうだよ、仲間なんでしょうアタシ達」

「結局、みんなお人好しってことよアルドル」


 オニロ、リムニ、ディレッタの言葉にアルドルは笑顔で礼を言う。


「ありがとう、オニロ、リムニ、ディレッタ」




 昼をまわった頃にアルドル、オニロ、リムニ、ディレッタ、リルルはリビングに集って昨日の出来事の情報の整理を行う。


「レブランカの王都って言ったわけね、その男は」

「ああ、ディレッタはウェストゥ地方の王都には詳しいんだよね」

「詳しいってほどじゃ無いわよ。

 お爺様の仕事に3年ほど連いて歩いてただけだから。

 でもレブランカなら分かるは確かまだ30年くらいしか経っていない王都よ」

「場所はこの辺りになるのかい」

「だいぶ北になるわね。

 この辺りまで出てくる理由まではさすがに分からないわ」

「5人だけで若かったんでしょう。

 王都とかと関係ないんじゃないかな」


 ディレッタはリムニを振り向き。


「豊かな王都を出てわざわざ荒野に遊びに出かけたって思っているの」

「そっちの方がありえないか」

「となるとだ、何か王都で起こっているのか。

 それとも王都が気にしなければいけない事態がこの荒野のどこかで起こっているのかだな」


 オニロがそう結論付ける。


「どちらにせよ、今の僕達ではそれを知る術は無いっていうことか」

「そうなるわね、警戒だけは怠らないようにしましょう」


 ディレッタが言葉に全員が頷くとメキルにエスカルゴの警戒レベルを上げるように指示をする。




 グランが体を動かせるようになったのは目覚めた翌日の朝であった。

 グランはアルドルとオニロに礼を言うとすぐに村に向かうと言いオニロも大丈夫だろうと判断したことでエスカルゴから降りることになる。

 アルドル、オニロ、リムニ、ディレッタ、は村まで送ろうかと尋ねるがそこまでは甘えられないとグランは言って丁重に断られる。


「グランさん、お気をつけて」

「あんまり無理しないようにな。

 村についてもしばらくは奥さんと娘さんに甘えなよ」

「そうね焦る気持ちもあるだろうけどグランさんしか種の育て方は分からないでしょうから。

 村のためにも無理はしないでくださいね」

「グランさんならたくさん麦や野菜が育つよ。

 奥さんや娘さんにもよろしくね」

「ありがとうございました、みなさん」


 見送るアルドル、オニロ、ディレッタ、リムニに何度も頭を下げてグランは背中に種の入った荷物を背負いエスカルゴから遠ざかっていく。

 



 幕舎の入り口の布をめくってナルクスとジニファが入ってくる。


「見つかったぜぇ、ギルス」

「って言ってもおっさん1人だけだけどね」


 その声にギルスは立ち上がり振り向く。


「何だよ、おっさんしか見つからなかったのかよ」

「いいんじゃない、おっさんが居所を知っているかも知れないし」

「じゃ、拷問だっ」

「それなら暇つぶしにはなるか。

 よしっ全員に声をかけろ出発だっ」


 ギルスはそう言うと入り口の幕を開けて外に出てナルクス、ジニファ、ディジー、ルルカが続く。




 グランはようやく村をその目で確認して思わず立ちすくんでしまう。

 13年ぶりに遠目から見る村の様子はまぶたの裏に焼きついたあの頃のままであった。


(ティレア、セレアル・・・)


 13年前村に置いていくことになった妻と娘の顔が想いだされる。

 勇気を振り絞って1歩前に足を踏み出したそのときグランの背後から砂煙を巻き上げて数台の車が迫ってくる。

 その音に気付いて振り返って思わず立ちすくむグランを取り囲むように車が次々と停まる。

 それぞれの車から数人の男女が降りてくる。

 その中には先日グランを襲ったギルス、ナルクス、ジニファ、ディジー、ルルカの顔もある。

 

「よおぉ、おっさん俺達を覚えているよな」

「何のようだ、お前達」

「何だおっさん、喋れるんじゃねえか。

 あの時は無視してくれたことは今はまあっいいや。

 アイツはどこにいるんだよ」

「あの若者のことなら知らん、あのあとすぐに分かれてそれきりだからな」

「ふ~ん、まあいいや。

 どのみち拷問決定だからな一緒に来てもらうぜ」

「私は村に帰らなければならないんだ、家族や仲間が待っているんだ」

「空気読めよな、おっさん。

 俺達がわざわざおっさんのためにここまで来てやったんだぜ。

 また無視をするのかよ」

「何を言ってるんだ、私は村に帰るんだと・・・」

「ねえっ、早くしようよ拷問」

「ディジー今俺が話してんだからよ・・・」


 ギルスが振り返ると同時に後から剣が投げつけられてグランの胸に突き刺さる。


「やったあぁっ!大当たり」

「じゃっねえだろうが、俺に当たったらどうするんだよ」

「え~っ、だって遅いんだもん」

「ねえ、それよりヤバくない。

 おっさん死にかけてるんじゃない」

「ディジーが剣投げたくらいじゃ死なないって」


 そう言うとギルスはグランに顔を向ける。

 胸から血を吹き流してグランは痙攣を起こしている。


「何だこれっ!ディジーに殺されるってどんだけ脆いんだ」

「ああっ!こいつ騎士じゃないんだ。

 奴隷と同じなんだよ」

「何だよそれっ!だったら首輪くらいつけておけよな」


 ギルスは文句を言って血を流すグランに蹴りを入れる。

 グランはそれでも村に向かって手を伸ばし続けるがその手をギルスが踏みつける。

 顔を上げて村を見つめる。

 

(ティレア、セレアル・・・)

「・・・帰らなければ・・・約束・・・いっし・・・らせる明日を・・・」


 その顔を蹴られてグランの意識は闇に沈む。



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