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第6話

 紅いシャ-ル・ヴィエルジュ、エクリクシスは重装甲であり全体的に鋭角的な印象であるが細部は丸みを持たせており威圧的にはならないように設計されている。

 重装甲のため支える腿や脛は太めではあるが決して不恰好ではなく他のシャ-ル・ヴィエルジュと比べても足をわずかに長くすることや胴体部分を一回り小さく見せることでバランスをとって美しく見せようとする設計者のこだわりが見える。


 セラス・アリスィアは第2世代型に共通するように操縦室を両足の付け根に移しているために胸周りは細めであるが胸に厚みを持たせている。

 全体的に丸みを帯びた流線型で従来のシャ-ル・ヴィエルジュと比べても手足が長めである。

 両肩には第2世代型の共通装備エポール・ブークリイェと呼ばれる盾が装備されている。

 長方形で中央が盛り上がり反ったスクトゥムと呼ばれる形の盾であり電磁力で固定されている。

 脛部分も太く足回りが装甲と共に強化されている。




 デイヴィッドのエクリクシスとヴォルカンのセラス・アリスィアが戦いを始めてそろそろ12時間が経ち既に陽も暮れて夜が訪れている。

 互いに剣のみの戦いでありヴィエルジュやシャ-ル・ヴィエルジュの能力は補佐以外には使用していない。

 純粋な剣の勝負を楽しんでいるそんな雰囲気である。

 アルドルとディレッタは互いに12時間後を第2戦目としてヴィエルジュやシャ-ル・ヴィエルジュの能力を戦闘にまわすことで決着をつけるつもりであろうと読んでいる。

 本気をだしていない訳では決して無いただ純粋に剣を交えることを喜び楽しんでいるのである。

 それだけに第2戦目は凄惨な殺し合いになるということがアルドルとディレッタには分かってしまう。




「ヴォルカンの奴18年間行方知れずであったが戦いから遠ざかっていた訳では無いようだな。

 以前よりも剣の速度が増しているようだ」


 デイヴィッドの呟きにヒルダが答える。


「ええ、以前デイヴィッド様と戦ったときよりも初速が速いです。

 これは経験による先読みが鋭くなっているからだと思います」

「なるほどな、それだけの戦場を渡り歩いてきたという訳だ。

 相変わらず楽しませてくれる、そうだなヒルダ」

「ウィ、私もまたアクロと戦えて嬉しいです」

「あと、どのくらいだヒルダ」

「あと、7分32秒です」

「では、殺し合うまでの残り7分を存分に楽しもうぞ」

「ウィ、モア・マ-テル」

 

 エクリクシスが鋭い突きを放ちセラス・アリスィアが左に避けるとそのまま横薙ぎに剣を払う。

 横から迫る剣を受け流しセラス・アリスィアが身を屈め下から膝を伸ばす勢いを含めて剣を突き上げる。

 下から迫る剣に対して1歩後に退がり身を反らすことでかわすとエクリクシスが横に払った剣を弧を描くように上へと持ち上げる。

 上からの大振の斬撃にセラス・アリスィアが突き上げた剣を撃ち下ろすとそのまま刃と刃が競り合う。


「デイヴィッドの奴、相変わらず力任せなのに全く芯がブレない良い太刀筋だ」


 ヴォルカンの呟きにアクロも同意する。


「身体の体感やバランスがどんなに動き回ってもブレないのはさすがですね」

「できればこのままデイヴィッドと剣を交えていたいところだな」

「私もヒルダと戦えるのは楽しいです、ヴォルカン様」

「そうだな私も楽しいよアクロ。

 これほど心躍る相手と剣を交えられるのは騎士として何よりも勝る喜びだ。

 だがお互いに老いたこれを最後の決着とせねばなるまい」


 セラス・アリスィアは両手で柄を握ると右下から剣を袈裟斬りに跳ね上げそこから弧を描き左下に剣を運ぶと袈裟斬りに跳ね上げそこから右下に剣を運ぶと裟斬りに跳ね上げる。

 下からの剣に意識を向けたと感じたところで左下から袈裟斬りに跳ね上げた剣を真上に運び鋭く撃ち下ろす。

 エクリクシスは身を沈め膝の反動で後に跳んで剣をかわす。

 セラス・アリスィアとエクリクシスはそのまま互いに距離をとって再び対峙する。

 試合と勝負は終わりを告げここからは戦場と殺し合いになる。




 アルドルとディレッタだけでなくリムニとオニロも気付いている。

 ここから先は確実にどちらかが死ぬかそれとも2人共に死ぬかどちらせよ死という結果が待っていることが。

 アルドルにとってヴォルカンは師でもあると同時に父親のような存在でありアクロも母親のように思っている。

 ディレッタにとっても両親が亡くなりデイヴィッドとヒルダは唯一の身内であり家族である。

 それでも止める事も叫ぶ事もできないのはアルドルとディレッタが騎士であり2人の願いを見届けることが弟子である自身の役目と心得ているからであり家族だからこそヴォルカンとデイヴィッドの想いが分かってしまうからである。

 柔らかなベッドの上で見送られることよりも孤独でも戦場で死ぬことを選んでしまうそんな騎士の性分(サガ)を誰よりもたまらなく分かってしまうのだ。

 だからこそ目を逸らすことなどできるはずもなくその想いと戦いの全てを見届けねばならないのだ。




 エクリクシスはセラス・アリスィアに向かって駆け走る。

 ここまでは先ほどと同じであるがその体が陽炎のように揺れると横並びに6体の分身となる。


「アウラを使えるのかッ」


 そのアルドルの叫びにディレッタも気付く知っているということはヴォルカンもおそらくはアルドルもアウラを使えるのだと。

 残像とは違い魂の力を分割するそれは全て実体となって相手に襲いかかるのだ。

 6体のエクリクシスはエペ・クウランの柄を両手で握ると右肩に担ぎ刃を巨大化させる。

 右肩から一斉に撃ち下ろされた刃から合計6本の衝撃波の斬撃がセラス・アリスィアに襲いかかる。

 微妙にタイミングをずらした回避不可能な斬撃に対してセラス・アリスィアも陽炎のように揺れると横並びに6体の分身となり斬撃を放つ。

 予測していた6体のエクリクシスは斬撃と共に駆けだしエペ・クウランから自身の放った斬撃に電撃を放つ。

 エクリクシスとセラス・アリスィアの斬撃がぶつかり合い衝撃波が爆風となって弾けるその刹那に電撃が撃たれ凄まじい大爆発を起こす。

 爆風はアルドルとディレッタそしてリムニとオニロのいる方にまで届く。

 爆風に晒されながらもセラス・アリスィアは油断無くあたりの気配を探る。


「お待ちください、この爆風で相手を見失いました。

 各センサーの回復まで時間を要します」


 アクロがそう告げるなかヴォルカンは感覚を研ぎ澄まして周囲の動きを感じ取る。

 刹那、わずかな揺らめきを捉える。

 6体のセラス・アリスィアに6体のエクリクシスがエペ・クウランで斬りかかる。

 それをエペ・クウランで受け止めると鍔迫り合いとなり6体のセラス・アリスィアと6体のエクリクシスが激しくぶつかり合う。


「お気をつけください、ブリュレ粒子です」


 アクロの叫びと同時にエクリクシスのエペ・クウランが電撃を放ち6体のエクリクシスとセラス・アリスィアそれぞれを中心に大爆発を起こす。




「まさかブリュレ粒子を散布しているのか」

「そうよ、エクリクシスの内部にはブリュレ粒子が内包されているの」


 アルドルに答えるとディレッタは上着から親指くらいの玉を取り出す。


「前にリムニに見せたこれの中身がブリュレ粒子よ。

 あなたこれを相手に光剣(ウィスパ-)でしかも光弾を撃ったのよ」


 それを聞いてリムニは顔を引きつらせる。


「それは幾らなんでも自殺行為だろう、ってか何で光剣(ウィスパ-)なんだ」


 オニロの疑問にディレッタが答える。


「リムニがちゃんと剣の鍛錬をしないからエペ・クウランを持たせてもらえなかったのよ」

「ああ、それでかあとで勉強も見てやるしかなさそうだな」

「そうね、ブリュレ粒子以外にも覚えなきゃいけない事は多いからね」

「っううぅ」


 ディレッタとオニロが本気で心配してくれているのはリムニにも分かる。

 しかし考えるより先に体が動くリムニには勉強は逃げ出したいほどの苦行であった。


 


 爆風がおさまると燃える物も無い荒野である煙も徐々に晴れていく。

 凄まじい爆発であったにも関わらずセラス・アリスィアとエクリクシスは無傷で対峙している。

 最初の斬撃の大爆発に紛れてセラス・アリスィアとエクリクシスはそれぞれにもう1体の分身を造っており爆発の直撃を受けた12体は全て分身であったのだ。

 それでも6体の分身を造ったヴォルカンとデイヴィッドの疲労はかなりのものである。

 セラス・アリスィアの仮面の裏のディエスアムが光輝く。

 同時にユテリュス(操縦室)でもヴォルカンのエペ・クウランとアクロのデゥセルヴォとビジュ(装飾品)が光り輝き互いに共鳴しあい音色を鳴り響かせる。

 アクロが唄うように定められた術式を唱える。

 セラス・アリスィアの周りにプラズマ球が幾つも生まれる。

 プラズマ球は次々と生まれエクリクシスに襲いかかる

 エクリクシスは大地に向けて剣を横薙ぎに払い炎に包まれた衝撃波の壁を大地に走らせる。

 プラズマ球と炎の衝撃波の壁がぶつかり合い爆発が幾つも起こる。

 エクリクシスが駆け走り体が陽炎のように揺らめくと揺らめきが先行するようにその前を加速する。

 やがて実体が消えると加速する揺らめきが実体化する。

 繰り返すたびにエクリクシスが加速してセラス・アリスィアも同様に加速する。

 加速するセラス・アリスィアとエクリクシスは互いにプラズマと炎を放ち合う。

 決定的なダメージには至らずとも互いに疲労は蓄積されていく。

 

「そろそろ決着だね」

「ああ、お互いにアウラを使いすぎているからな。

 限界は近いだろう」


 セラス・アリスィアとエクリクシスは互いに足を止めると再び向かい合って対峙する。

 ヴォルカンとデイヴィッドに決定的な差があるとすればシャ-ル・ヴィエルジュとその進化型であるアフェクシオン・ヴィルジニテである。

 アウラによる魂の疲弊は回復できずとも肉体的な疲弊はユテリュス(操縦室)に満たされた羊水で回復されるのである。

 そして・・・。

 

「ここまでだな、さらばだ強敵(とも)よ。

 奏でよアクロ光の旋律をっ」

「ウィ、モア・マ-テル」


 アクロの歌が高まりセラス・アリスィアが駆け走る。

 エクリクシスの腕の射出口からブリュレ粒子が放出されエペ・クウランが炎を帯びる。


「さらばだ強敵(とも)よ、ゆくぞヒルダッ!」

「ウィ、モア・マ-テル」


 両手でエペ・クウランの柄を握り上段に構えると亜空間に預けた質量が戻り巨大化する。

 腕の射出口から放たれるブリュレ粒子は新たに開発されたナノマシンによって指向性を帯びる。

 渦巻く巨大な火柱となったエペ・クウランが放たれる電撃によって更に加速する。

 セラス・アリスィアは全身にプラズマを纏いエペ・クウランが電撃と共に光を帯びる。

 迫るセラス・アリスィアに渦巻く巨大な火柱が振り下ろされると巨大な大爆発を巻き起こして大地を抉る。


(さようなら、ヒルダ・・・)


 アクロの歌声は止むことなく爆炎の中からエクリクシスに迫る光の刃がその操縦室を刺し貫く。

 デイヴィッドは満足気に微笑みヒルダと共に光の中へと消えていく。

 

「オジイサマアァァァーーーーーーッ」


 ディレッタの涙と叫びが爆風によって吹き荒ぶ風に流されて散っていく。




 工房からオニロに渡されたエスカルゴは最新型のものであり整備格納室も3台のシャ-ル・ヴィエルジュを並べられるだけの広さを有している。

 その上の居住区画のどの部屋も広くリビングは最上階を丸ごと占有しており壁から天井までを特殊強化ガラスで覆っており見晴らしも良く戦闘時には外装を装甲で覆うこともできる。

 整備格納室に真新しいシャ-ル・ヴィエルジュ正確にはその(アルミュール)プレスティールが運び込まれる。

 ディレッタとオニロからはいずれ譲るといわれているがリムニは以前のようにはしゃぐことは無く運び込まれるプレスティールを決意の目で見つめる。

 ヴォルカンとデイヴィッドの決闘から3日あれからリムニも自主的に剣の鍛錬を行っていた。

 ディレッタは騎士に墓は不要と言ってデイヴィッドの弔いを断った。

 オニロは回収したデイヴィッドのエクリクシスの損壊した操縦室を作業中のディレッタのエクリクシスと換装し3日間徹夜で修復と偽装をしてアマトゥールに換装させた。

 換装したエクリクシスにブリュレ粒子を補充すると共に指向性ナノマシンの解析サンプルを3長老と自分用に用意する。

 サンプルからの培養だけなら問題は無いとオニロはディレッタにアマトゥールを渡すと同時に伝え今はエスカルゴの自室で眠っている。

 必要な物を買い込んでリビングの下の倉庫に放り込み旅立ちの準備は間もなく終わる。

 リビングにはアルドル、メキル、リムニ、ディレッタ、リルル、が集っている。

 

「ひとまずここウェストゥ(西)地方からサントル(中央)地方に向かうことで決まったけどまずはヴォワ・ラクテを超えないとね」

 

 ヴォワ・ラクテは大陸を5つの地方に分断する巨大な大河であり水棲の魔物なども多く生息している。

 

「そうね、でもそれには準備も必要だからとりあえず東に行って準備できる町を捜しましょう」


 アルドルの言葉にディレッタが返事を返す。


「そうだね、オニロは寝ているけれど準備はできているって話だから」


 そこでアルドルはメキル、リムニ、ディレッタ、リルルを見渡して、


「じゃ、出発しようか」


 アルドルの言葉にメキルが遠隔操作でエスカルゴを操縦する。

 地面からわずかに浮上してエスカルゴは前進する。

 リビングの後から離れていくセレキアの町を眺めながらアルドル、メキル、リムニ、ディレッタ、リルル、そしてオニロは旅立っていく。





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