第5話
ヴォルカンは用事があるからと市庁舎にへと出かける。
残ったアルドル、リムニ、ディレッタはオニロとともに町の地下の工房にエスカルゴごとフランム・ドラゴンを運び入れる。
エスカルゴはヴィルジニテのアクロが動かしているので4人は整備格納室でフランム・ドラゴンと一緒にいる。
「傷も大した事ないから買取のは問題ないけれど中古の鎧は今うちにあるのは400年前に造られたアネモスと300年前のプレスティールがお勧めかな。
どれも製造から80年以内って代物だぜ」
「それならプレスティールになるのかな以前の鎧がフルトゥーナだったから」
オニロの言葉にリムニが返事を返す。
「フルトゥーナの発展型がプレスティールだからな、確かにその方が扱いやすいだろうな」
鎧に関しては王都の鎧は聖地からの支給になり市場に出ることは無いが中身は2000年間でさほど変化は無い。
たまに王の専用機として異常な能力を持った鎧もあるがまず出会うことは無いと言っていいだろう。
聖地以外で独自に一から鎧が開発されて完成したのが800年前でそれから300年前でほぼ頭打ちになっている。
これはそれまで開発を行っていた大規模な工房が全て王都に壊滅させられ以後も度重なる襲撃で新規の開発が困難になっているからである。
「まあ選ぶのは親父になるだろうからフランム・ドラゴンを運び込んでから、またあとで話し合うことになるのかな」
「ああそうか、じゃその件は今はまだ保留だな。
ところで町にはしばらく居ることになるのかい」
「あたしは親父達がこの町に雇われればしばらくは居ることになると思うけれど」
そこでリムニはアルドルに視線を向ける。
「僕はここで師匠と別れて1人で武者修行の旅をすることになるから、そんなに長くは居ないかもね」
「本当なの、それっ」
初めて聞いた話にリムニは驚いてアルドルに尋ねる。
「師匠も僕には一通りの事は教えたから、この先は自分の剣を見つけろって言われたからね」
「私もアルドルについて行こうかしら。
お爺様にも自立しろって言われてるし」
ディレッタがそう言うとリムニが目を吊り上げて叫ぶ。
「なんで、そうなるのよ」
「だって、か弱い女の1人旅は危ないから」
「人の腕を斬り落とそうとしてどこがか弱いのよ」
「あら、じゃ先の勝負の負けは認めるのね」
「っうぅ・・・」
リムニが言いよどんで静かになったのを見計らってオニロが、
「そうか残念だな、フランム・ドラゴンを倒す腕なら闘技大会でも勝ち進めるかもと思ったんだが」
「ああ、そういえば今参加選手を集めているんだっけ。
正直に言えば高価なシャ-ル・ヴィエルジュを見世物にする理由が分からないわね。
壊れて失ったらこの先どうするつもりなのよ」
ディレッタの疑問にオニロが、
「俺もその辺は疑問なんだよな。
正直そんなに熱心に参加選手を集めているようにも思えないからな」
「何それっ、本当に意味が分からないじゃない」
「町と工房の上の方で決まったことだからな。
俺みたいな末端には分からないことだらけさ」
「あら、でもアルシミ-なんでしょう」
「ああ、でも今この街には3人の爺さんのアルシミ-がいるんだ。
俺は手伝いをしながら色々学ばせてもらっているんだ」
「それで末端ね、納得したわ」
そこでアクロが車内の拡声器から間もなくの到着を告げてくる。
「前方の映像をこっちのモニターにまわしてくれるかな」
アルドルの言葉に整備格納室のモニターに映像が映る。
幾つかある巨大な扉のうちオニロに指定された扉の前でとまる。
外に出るとオニロが扉の脇の壁に備え付けられた操作盤から扉を開けて中に入るように指示をする。
そのままエスカルゴが中に入るとオニロも後に続いて内側から扉を閉める。
ヴォルカンが市庁舎の前に着くとそこで1人の男が女を相手に何かを喚きながら頬を叩いているのに出会う。
「関心しないな騎士ならば己のヴィルジニテに敬意を持って接するべきではないのかね」
ヴォルカンの言葉に男が振り向く年は30前後か身長は2メートルのヴォルカンとさほど変わらない。
「お爺ちゃん悪いけど今は取り込み中でね。
見逃してあげるからさっさと帰ってヴィルジニテにオムツでも替えてもらいな」
異質な雰囲気を持っている騎士である。
強いのは分かるが根本がどこか他の騎士とずれているように感じる。
「なるほどアンビュスカか珍しいな」
その言葉に男の雰囲気が変わる。
「気が変わちゃったな、お爺ちゃんに興味がでてきちゃったよ」
男の姿がかき消えた刹那ヴォルカンの後に現われて首を刎ねる。
「ふんっ、この程度か。
何かあると思ったのは気・・・」
男は不意に声が出せなくなり身体が金縛りに縛られる。
目の前のヴォルカンの首と身体が霧散していくのが見えた刹那。
視界が斜めに傾く否、右肩から袈裟斬りに両断された体がズレ落ちているのだ。
斬られると同時に金縛りも解け口から呻き声を漏らす。
「悪く思うなよ最初に剣を振ったのはお主なのだからな」
そこにヴォルカンが立っている。
「っけぇ、騎士が1対1で剣を交えたんだ怨んだりするものか」
ヴィルジニテが男の傍に膝をつくとその左手を握りしめる。
「泣くなよガキの頃に会ったときからお互いに覚悟をしていただろう。
一緒に死んでやれなくて悪かったな・・・」
男は静かに目を閉じて、
「爺さん悪いが介錯を頼むわ」
「名を聞こうか、騎士殿」
「不要だ、俺達に墓は要らない」
ヴォルカンがその首を刎ねるとヴィルジニテがその身体を炭も灰も残さずに焼き尽くす。
「お主はこれからどうするのだ」
ヴォルカンがヴィルジニテ尋ねると。
「新たなマーテルを捜します、それが私の役目なので」
「名前を聞いてもいいかな」
「アイ・・・、いえメキルです」
「ではメキル、新たなマーテルに出会うまで一緒に行くか。
ヴィルジニテ1人で行動するのは危ないからな」
メキルは静かに頷きヴォルカンの申し出を承諾する。
夕刻過ぎにヴォルカンとバルンガ、ナイティス、シルキーがアルドル達に合流する。
カルロムとアリエラは傭兵団の本拠の町に既に自身のヴィエルジュと共に向かっている。
雇われることが決まったので全員をセレキアの町に集める事にしたのだ。
報酬には製造したばかりの鎧プレスティールを13体これはバルンガの傭兵団の今いるヴィエルジュ全員分となる。
ヴィエルジュを失った騎士3人にもアマトゥールが貸し与えられる。
これは護衛の期間のみの貸与になる。
期間内の非戦闘員を含めた食事も保障される。
破格の条件になったのはバルンガの傭兵団の人柄が伝わっていたことも大きかった。
内容は町の護衛ではなく町を離れる工房の護衛である。
工房ではオニロも知らされていなかったが既に移動の準備が進められていた。
ヴォルカン、バルンガ、工房の3長老にアルドル、リムニ、ディレッタ、オニロが集って今後の話がされていた。
まずヴォルカンがアルドルに幾つかの個人的な話をする。
「明日、アルドルに騎士としての最後の教えを授ける。
その後は兼ねてから話していた通りここで分かれることにしよう。
私はセレキアの町に残る事にするがアルドルは旅立つように。
先ほど話した私が決闘で倒した騎士のヴィエルジュ彼女メキルを同行させてやってくれ良きマーテルに巡り合えるようにな」
「分かりました、師匠」
3長老の1人がそこで口を挟む。
「それならこのオニロも同行させてやってくれないかな。
そろそろ見聞を広めるために旅立たせようと思っていたのでな」
「俺がですか、移動の件といい聞いてないことばかりですよ」
「僕は構いませんがオニロはどうなの一緒に行くかい」
「俺も構わないぜ、確かに工房に籠もっていたんじゃ分からない事もあるからな」
「ではエスカルゴを1台渡そう。
オニロへのワシ達からの選別だ」
「ありがとうございます、爺ちゃん達」
オニロは3長老に頭を下げて礼を言う。
ヴォルカンがディレッタを振り向き、
「明日の朝早くになるがアルドルだけでなくディレッタ殿にも同行してもらおう。
デイヴィッドにも関わる事なのでな」
「分かりました、あと私もアルドルの旅に同行したいのですがよろしいでしょうか」
「それは構わんよ、明日デイヴィッドにも話をするのを忘れないようにな」
「ありがとうございます、お爺様にも明日お伝えします」
「私も行きます」
リムニがそう言うとヴォルカンはバルンガに振り向く。
「アルドルが構わないというなら俺からもお願いします。
グライアには俺から話しておこう」
「僕は構いませんよ」
「じゃ、決まりだね」
「ただし剣の鍛錬だけはサボらないようにな。
ヴォルカン殿の話を聞いていただろう。
リムニだってディレッタさんに斬られていてもおかしくなかったのだからな」
バルンガとしても不安はあるがこのまま一緒にいても甘やかし続けるだけだと思っての苦渋の決断である。
「分かっているよ、ちゃんと反省してるよ」
リムニもバルンガにこっぴどく説教をされただけでなく心配をかけたことを本気で反省していた。
バルンガはディレッタに顔を向けると、
「申しわけありませんがときどき剣の鍛錬に付き合ってやってもらえますか」
そう言うとバルンガは深くディレッタに頭を下げる。
ディレッタは突然のことに驚き慌てながらもそれを了承する。
「分かりましたリムニのことはお任せください」
そこまで話し終わるとアルドル、リムニ、ディレッタ、オニロは席を外してヴォルカン、バルンガ、工房の3長老達で仕事の詳細が話し合われる。
ディレッタはオニロを呼び止めると2人で工房の整備室に向かう。
「これなんだけど、ここで出していいかしら」
ディレッタは上着から紅い琥珀に包まれたアマトゥールを取りだす。
「ああ、そこで頼むわ。
こっちは準備してるんで待っててくれよ」
オニロはそう言うと大型モニターのある操作盤の前に座り準備を始める。
ディレッタは指定された場所で亜空間からシャ-ル・ヴィエルジュを呼び出す。
重装甲の紅いシャ-ル・ヴィエルジュが2体その姿を現す。
「うひゃははっ」
オニロがそれを見て奇声に似た歓喜の声をあげる。
「王都で新しく開発されたエクリクシスよ」
「分かった、だがいいのかい無断でこんなことをしてもよ」
「大丈夫よ、王都といっても私は入ったことがないから。
お爺様も私に預けた時点で外部に漏れるのは承諾済みよ」
「まあ、そっちの事情が問題ないなら構わないさ。
1体を新造の鎧プレスティールに換装してもう1体を偽装すればいいんだな」
「ええ、さすがにリムニにこれを渡すわけにはいかないものね。
お礼は換装したエクリクシス1体よ」
「それならアマトゥールと鎧を切り離してもう1体の偽装を優先するか。
リムニにはすぐには渡さないんだろう」
「ええ、今のリムニに渡すのは危なっかしいものね。
それで構わないわ」
「分かった、プレスティールは爺ちゃん達からもらうエスカルゴに乗せてアマトゥールへの換装は出発後の作業にしよう。
先にディレッタのエクリクシスの偽装を優先させよう。
エクリクシスの名前も変えたほうがいいなエクリクスィでいいかな」
「それでお願いするわ」
「分かった、じゃあとは任せてくれ」
作業に没頭し始めたオニロを残してディレッタは部屋をあとにする。
翌朝ヴォルカン、アクロ、アルドル、リムニ、ディレッタ、オニロはセレキアの町の外に向かう。
着いた場所には既にデイヴィッドと彼のヴィエルジュのヒルダが待っていた。
デイヴィッドの肩からリルルがディレッタの肩にへと飛び移る。
「ありがとうね、リルル」
ディレッタがリルルに礼を言う。
ヴォルカンが距離を取りデイヴィッドと対峙する。
「久しぶりだな、デイヴィッド再会の約束を今こそ果たそう。
こちらの立会人は私の弟子のアルドルだ」
「本当に久しぶりだ、ヴォルカン。
こちらの立会人は私の弟子のディレッタだ」
ヴォルカンがアルドルに振り返り叫ぶ、
「アルドル、これが私からの騎士としての最後の教えだ。
よく見ておくのだ騎士の決闘がどのようなものであるのかを」
デイヴィッドのヴィエルジュのヒルダがそのブラウスのボタンを外すと胸の鎖骨の間の少し下の紅い宝石デゥセルヴォが現われて光り輝く。
ヒルダの体を中心にクリスタルフィールドが形成されると亜空間に圧縮されていた紅いシャ-ル・ヴィエルジュがクリスタルフィールドごとヒルダをその胸に収めるように現われる。
エクリクシスは膝をつくと右手をデイヴィッドに差し出し胸の操縦室に導く。
アクロの全身のビジュ(装飾品)頭、耳、首、腰、腕、足が輝きを放つ。
ブラウスのボタンを外し胸の鎖骨の間の少し下の乳白色の宝石デゥセルヴォが現われ光り輝く。
胸のデゥセルヴォとビジュ(装飾品)にはめ込まれたディエスアムが互いに共鳴しあい音色が鳴り響く。
ヴォルカンとアクロを包み込むようにディエスアムから光の粒子が溢れると2人の身体を宙に浮かべる。
ヴォルカンとアクロを中心に亜空間から召還された白いアフェクシオン・ヴィルジニテが実体化する。
ユテリュス(操縦室)に羊水が流れ込むとヴォルカンとアクロを瞬くまに飲みこむ。
ヴォルカンは魔法陣の上に立ちアクロはその後で羊水に座るように浮いている。
ユテリュス(操縦室)の上下にあるディエスアムが光り輝いて室内を照らすと共にアフェクシオン・ヴィルジニテが目覚める。
アフェクシオン・ヴィルジニテの仮面の裏のディエスアムが光り輝くとその視界をヴォルカンと共有して兜の左右から面頰が現われ仮面の目から下を覆う。
シャ-ル・ヴィエルジュの進化系第2世代型アフェクシオン・ヴィルジニテであり聖地や王都に対して極秘に開発された者である。
セラス・アリスィアというのがその名である。
ヴォルカンが腰のエペ・クウランを抜き放つとセラス・アリスィアも同時にエペ・クウランを抜き放つ。
アルドル、リムニ、ディレッタ、オニロが見守るなかセラス・アリスィアとエクリクシスが対峙する。