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第24話

反響があまり無いので一挙、総集編でお送りしています。

 内海を取り巻くように展開される軍勢。

 彼らアフェクシオン・ヴィルジニテの手には荷電粒子砲が抱えられノンブリル島を取り囲む聖地の守護者ガルディアンへと向けられる。

 ガルディアンは下半身の代わりに獅子の体を持ち自在に空を駆けている。

 両肩からは蛇、胸には猿の顔、頭には鷲を象った兜、異形の黄金の機械巨人である。

 迫るガルディアンに次々と荷電粒子砲から光の柱が伸びてガルディアンを飲みこむ。

 ガルディアン達も次々と天空に魔法陣を描き巨大な岩を空気との摩擦で赤く燃える速度で落とす。

 荷電粒子砲は強力であるがエネルギーの充填に時間がかかる。

 解放軍は5つの隊に分けて波状攻撃を仕掛けるが間断なく落とされる岩に迎撃が追いついていない。


「やや、こちらが不利かな」


 そう呟くヴォルカン・エーポスにアイシェラは振り向くことなく答える。


「当然だろうな、所詮こちらの技術は聖地の複製品でしかないのだから。

 どんなに驕り高ぶろうがオリジナルに劣るのは否めまい。

 まあ、それでも必要な戦闘データが手に入れば問題はない。

 あとは適当にユリアンに付き合ってやるさ」


 戦闘が進むにつれ解放軍の隊列にも大きな崩れが出てくる。

 それを見てユリアン、スヴェン、ネリーはほくそ笑む。


「まあ彼らのアフェクシオン・ヴィルジニテは確かにシャ-ル・ヴィエルジュ以上ですが。 

 親衛隊のノワール・エクリプスには劣る(アルミュール)ですからね」

「はははっ、自分達がバカにされていることも知らないで一生懸命に戦っているんだもんね」

 

 スヴェン、ネリーの言葉にユリアンは振り向き。


「さて、それじゃ英雄の登場といこうじゃないか。

 親衛隊、出撃だ」


 その言葉が終わらぬうちに空の一点が光輝きそれはやってくる。

 白い光に包まれたドラゴンがガルディアンの軍勢に突っ込むと次々とその体を包む光で薙ぎ倒していく。

 

「何だアレはっ!」


 光のドラゴンは瞬くまにガルディアンを倒すと聖地から新たなガルディアンが次々に姿を現す。

 

「っちぃ、スヴェン、ネリー行くぞ」

「っきゃぁぁぁ」


 ユリアンの叫びに悲鳴が答える。

 振り向くと赤い全身鎧を着た騎士が次々とヴィルジニテに襲いかかっている。


「早く止めろッ!」


 いち早く事態を察してスヴェンが叫ぶ。

 ヴィルジニテが殺されればアフェクシオン・ヴィルジニテが使えなくなるのだ。


「何をしているの周りから囲い込みなさい」


 ネリーの言葉に親衛隊がようやく連携して動きだす。

 元々ユリアンに疑念を抱いたりしないように指示をされなければ自分で考えることもできない人間ばかりを集めていたのが仇になる。

 普通にユリアン達の指揮下での戦闘では従順に動くので都合が良いが不意打ちや予想外のことには反応が鈍くなるのだ。

 不意に赤騎士が地面に伏せる気付いたのはスヴェンだ。


「ブリュレ粒子だっ!散れぇぇぇ」


 その言葉と同時に大爆発が巻き起こる。

 近くにいたヴィルジニテは全滅である。

 騎士達もほとんどが殺されてしまった。


「おのれぇ、自殺志願者か」

「そうでもないみたいよ」


 ユリアンを抱きかかえ助け出したアイシェラが指差す先で煙から赤騎士が現れる。


「バカなッ!爆心地の真ん中だろう」

「そうね、でも炎の巫女でもある彼女に炎で傷つけることはできないわ」

「知っているのか」

「それよりも今はあのドラゴンを止めるわよ」


 そう言うとアイシェラはアフェクシオン・ヴィルジニテ=エクリプス・グラヴィリィオンを亜空間から召喚する。

 赤騎士が珠を取り出すと亜空間から鳥型のアフェクシオン・ヴィルジニテ=フェニックス・ブリュレが現れる。




 ドラゴンが空中で静止すると鋼鉄の体があらわになりその姿を人型のアフェクシオン・ヴィルジニテ=オーブ・フュテュールに変える。

 アルドルは現れた黒騎士に目を向けるが炎をまとった鳥に阻まれてこちらにくる気配はない。

 あらためて聖地に目を向けるとあらたなガルディアンが隊列を組んで向かってくる。

 オーブ・フュテュールの両肩の盾から分離した6枚の盾が目の前で円を描くように並ぶと展開して内部のの蒼い水晶球があらわになる。

 背中の翼を大きく広げると羽の1枚1枚が光子エネルギーを収束して輝く。

 胸の装甲が展開し輝く水晶球があらわになり6枚の盾の水晶球も呼応するように輝きだす。

 

「ソレイユ・ルゥゥゥヴァァァァーーーンッ!」


 7つの水晶球から放たれる光がガルディアンを全て消滅させながら伸びていく。




「何故だっ、この黒騎士と同等に戦えるアフェクシオン・ヴィルジニテなどいるわけが」

「まだ気付いてないのね。

 所詮、あなたはエクリプス(蝕)ただの隠れ蓑にしかすぎないわ」

「どういう意味だ」


 エクリプス・グラヴィリィオンが作りだしたマイクロ・ブラックホールにフェニックス・ブリュレが放った珠が飲み込まれ消滅する。

 フェニックス・ブリュレが炎に包まれエクリプス・グラヴィリィオンにぶつかり地上に落とし土砂を巻き上げる。





 聖地に向かうアルドル=オーブ・フュテュールの前にヴォルカン・エーポス=セラス・アリスィアが立ちはだかる。


「ほう、気付いていたのかね」

「師匠がアフェクシオン・ヴィルジニテの開発に黒騎士のヴィルジニテ=アイシェラと共に携わっていたことをリムニが教えてくれたので」

「よかろう、ならば見せてやろう真の黒騎士の力を」


 ユテリュス(操縦室)の内部で上下にあるディエスアムが一際強く光り輝くと羊水が泡立ちヴォルカンの体に変化が生じる。

 顔の皺が消え髪の色が黒くなると腰まで伸びて10代の瑞々しい体へと若返る。

 セラス・アリスィアが黒く変質するとその体から金属が液体のよう溢れだしてその姿を変える。

 半身半馬の人の上半身の背中に鷲の翼を持ち馬を象った兜の額からは1本の角が伸びている。

 アリスィア・グラヴィリィオンがその姿をあらわす。




「300年前ヴォルカンはアフェクシオン・ヴィルジニテの開発時に3体のエクリプス・グラヴィリィオンを造りだし3人のアイシェラの分身をも生みだした。

 そうすることで黒騎士システムにより多くの戦闘データを与えるとともに自身の自由を得たのよ。

 あなたもその黒騎士の隠れ蓑にしかすぎなかったのよ」

「ッ黙れ、ならば奴も倒し俺が真の黒騎士になるまでだ」


 フェニックス・ブリュレがその姿を人型に変えて女性的で細身の体が現れる。

 剣が亜空間から質量を戻し蛇腹状に伸びてムチのようにエクリプス・グラヴィリィオンへと迫る。

 変則的な太刀筋に対処できずに斬り焼き刻まれていく中でその右腕が斬り落とされる。

 

「くそヴィルジニテも無いのに何故こんなに動けるんだ」


 ユリアンの言葉にアイシェラがクスクスと笑いだす。


「最初はお母さまをないがしろにさせたヴィルジニテを怨んでいたあなたがまさかそんなことを言うなんてね。

 あのアフェクシオン・ヴィルジニテは鬼を封じて幾つもの魔術式を組み合わせることでヴィルジニテを必要としていないだけよ。

 どうやらここまでね、できれば聖地の封印を解いて更なる戦いの時代を呼び起こしたかったけれど」

「何を言ってるんだ。

 さっさとこの状況をなんとかしろ」

「本当に1人じゃ何もできないのね。

 いいわ、あなたはおとなしく見ていなさい」


 エクリプス・グラヴィリィオンの体が膨れ上がり失った右腕が急速な自己修復で再生される。

 重装甲となったエクリプス・グラヴィリィオンは剣を斧に持ち替えてフェニックス・ブリュレに駆け迫る。




 アリスィア・グラヴィリィオンが振り下ろす刃が空間ごと断ち斬ろうと迫りオーブ・フュテュールの光の剣が空間を揺らめかせて剣をそらせる。

 オーブ・フュテュールの光がマイクロ・ブラックホールを突き破りアリスィア・グラヴィリィオンを撃つ。

 オーブ・フュテュールとアリスィア・グラヴィリィオンが6体に分身して乱戦が繰り広げられる。




「たった1人で騎士とヴィルジニテ相手によく戦うけれどここまでね。

 愛する者を持たない孤独なお前では結局何も得ることはできないのよ」


 エクリプス・グラヴィリィオンの斧がフェニックス・ブリュレの胸に喰いこむ。


「私を知っているということはお前こそ愛を知らないのではないのか。

 それとも誰かに愛されたくなったのか、2番目のアイシェラッ!」


 両肩から分離した盾がフェニックス・ブリュレとエクリプス・グラヴィリィオンを取り囲み結界をはる。

 閉じられた空間内で解放された炎の鬼がブリュレ粒子を巻き込み破壊の爆風と炎を渦巻かせる。

 

「このくらいの炎でッ!」


 叫ぶアイシェラに操縦室の装甲を突き破り鋼鉄の杭が撃ちこまれる。

 

「炎は目くらましよ、油断したわね」


 アイシェラは胸から下を引きちぎられ口からは血が溢れ出ている。


鬼姫(きき)、誰も愛せないお前がなぜこれほどの力を」


 赤騎士の砕けた仮面からまとめていた紅い髪が零れ落ちる。

 

「愛せない訳じゃないわ。

 この2000年と318年、私はたった1つの恋心だけにすがって生きてきたわ。

 そうでなければ正気を保てなかったから。

 この想いだけを灯火に私はこの世界を愛して生きてきたのよ」

「そうか、本当に愛を知らないのは私だったのか・・・」


 そう言うとアイシェラは静かに目を閉じる。

 破られた装甲から羊水が零れ落ち炎が入り込む。

 沸騰する羊水と炎にその身を巻かれユリアンの断末魔が響く。




 アリスィア・グラヴィリィオンの振り下ろす漆黒の剣にオーブ・フュテュールが両断され落ちていく。


「ここまでだったな、アルドル」

「まだだ、師匠ッ」

 

 両断されたオーブ・フュテュールの全身から光が溢れるとドラゴンへとその姿を変えて空間を越えてアリスィア・グラヴィリィオンへと迫ってその腹を砕いて両断する。

 人の姿に変えたオーブ・フュテュールには斬られたあとはない。

 残されたアリスィア・グラヴィリィオンの上半身が剣を構える。

 

「まだだよ、まだ私は戦えるぞ。

 アルドルッ!」


 オーブ・フュテュールの仮面が輝き背中の翼が大きく広げられて光り輝く。

 光が収束されて輝く剣を振り下ろすとアリスィア・グラヴィリィオンが光の粒子となって消え去っていく。

 光の中でヴォルカンとアクロは互いの手を取り合い微笑みながら消えていく。




 聖地の上空に入るとリュミエールがアルドルに話しかける。


「アルドル、私はここまでしか見送れないわ。

 この先はあの人と2人で行って」

「リュミエール・・・」

「短い間だったけれど私アルドルと一緒にいられて幸せだったよ。

 これからはずっと1人にしていた分もあの人を愛してあげてアルドル。

 また会いましょう。

 だから、さよならは無しね」

「ああ、また必ず会おうリュミエール」


 オーブ・フュテュールの操縦室から光に包まれたアルドルが空へと転送され眼下の聖地にゆっくりと下りていく。

 アルドルは真っ直ぐと聖地に立つディレッタへとその腕を伸ばす。

 ディレッタもゆっくりとその腕をアルドルに向けて伸ばす。

 ディレッタの手が触れるとアルドルはゆっくりと聖地に足を下ろす。

 しばらく手を握り見つめ合いやがてアルドルは優しくディレッタを抱き寄せる。

 互いの存在をその手に感じながら抱きしめあうと静かにアルドルとディレッタの唇が触れあう。




 番兵に守られたその中心に軌道エレベーターと聖地の中枢は存在する。

 深手を負いながらもアルドルとディレッタはようやく中枢のその部屋にたどり着く。

 ディレッタは中枢部のメインコンピューターのプログラムを用意していたプログラムへと書き換える。

 全てのプログラムを書き換えると聖地の中心にアルドルとディレッタは立つ。

 

「この真下に彼はいるわ。

 聖地のシステムに組み込まれても尚抗う意志を持って。

 今こそ契約を果たすわユグドラシル」


 アルドルとディレッタが柄に手を添えて水晶の剣を突き刺すとノンブリル島全体が鳴動する。

 軌道エレベータが途中でへし折れるとノンブリル島全体が静かに沈み始める。

 刀身の種が脈打ちやがて聖地の中心に根をおろすとノンブリル島全体に根を広げていく。

 種はその場でクズ折れるアルドルとディレッタを飲み込みながらも枝分かれをして螺旋を描きながら縁りあわされて巨木となって天井を突き破る。

 やがてノンブリル島全体が内海に沈み巨木はなおも枝を寄り合わせながら伸びていきへし折れた軌道エレベータへと絡みつく。

 枝を横に広げながらも葉を芽吹かせて巨木は軌道エレベータを絡めながらも伸びていく。

 宇宙にでた巨木はその先のオービタル・リングをも絡めとっていく。

 オービタル・リング全体を飲み込んで花を芽吹かせるとシステムを支配し起動させる。

 オービタル・リングと衛星システムを掌握すると精製されたエネルギーを巨木が吸収し始める。

 エネルギーを受け取り巨木の根がノンブリル島全体から大陸全体へと伸びていき大陸全体が鳴動する。

 海の位置まで下がると大陸中に張り巡らされた根から大地にへとエネルギーが精霊力へと変換されて流れ込む。




「それでも自然が回復するのにはまだ長い時間を要することになるわ。

 そしてこれもまた古神(いにしえがみ)達との戦いへの時間稼ぎでしかない。

 いずれ起こるそのときまで心穏やかにおやすみなさいリュミエール」


 リュミエールはオーブ・フュテュールのユテリュス(操縦室)でそのお腹の子供と共に眠りにつく。

 クリスティーネはオーブ・フュテュールの生命維持だけを残して全ての力を封印するとその棺の蓋を閉めてシステムを起動させる。

 空へと打ち上がるオーブ・フュテュールとリュミエールを見送りオニロ、ディスティー、セレアル、アーデルハイト、リルル、はそれぞれの旅路につく。




「炎の御子よ契約は果たせたり汝の望み光の御子と共に今は眠るがよい。

 Une histoire pour suivre le Crépuscule de Dieux

 物語が再び紡がれるその刻まで」



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