第23話
反響があまり無いので一挙、総集編でお送りしています。
エスト地方は48の所領と王の直轄地に別れ各領土を治める領主と王による円卓議会が政治の中枢となる。
しかし実際には王である鬼姫・ヴェリテ・ソリチュードは2000年以上の昔に聖地と契約をかわしその恩恵である技術を独自に発展させエスト地方全体に広めたもはや伝説ともいえる存在である。
そのために王の発言力が強く独裁政治の色が強い。
だがこの40年王は人前には姿を見せず円卓議会の中には王の威光に触れたことの無い者も多く不穏な空気が漂っていた。
道中様々な出来事に遭遇しながらもアルドル達は王都フォルクローアへと到着する。
リムニから手渡された札を|街門の巡視に見せると驚きつつも特に調べられることもなくそのまま通される。
王都とはいえ規模は違えど今まで立ち寄った町とはそれ程変わらず木造の瓦屋根の建物ばかりである。
王城は一際小高い丘の上にあり荘厳な雰囲気を醸しだしている朱塗りの建物である。
ディスティー、セレアル、オニロ、アーデルハイト、リュミエールを宿に残しアルドルはリルルと共に王城に向かう。
王城の門で番兵に札を見せるとしばらく待たされたあとに中へと案内される。
中で番兵から女官へと案内が代わり更に奥へと案内される。
たどり着いたのはシャ-ル・ヴィエルジュも余裕で通れる巨大な朱色の門であり女官はここから先は立ち入れないと言い引き返していく。
アルドルは言われたように朱色の門に触れる。
触れた先から紅い光が幾何学的に走り門が内側に静かに開かれていく。
アルドルとリルルが中に入り進むと門は静かに閉められていく。
石畳の道を道なりに進むと竹林に入り更に奥へと進む。
やがて小さな社にたどり着くとその前に黒髪の童女がアルドルを出迎える。
童女は社の前で印を組み呪を唱える。
社を中心に陣が描かれやがて周囲の景色が歪むと洞穴の中の先ほどとそっくりな社の前に立っている。
童女に案内されるまま洞穴に設けられた橋の上を歩き奥へと向かう。
やがて洞穴の行き止まりに朱色の門が現れ開かれた先は朱色の宮城へと続いている。
その宮城の入り口には8年前に互いに行方の分からなくなった彼女がいる。
アルドルにとっては3ヶ月前のことでありディレッタには2000年以上も前のことである。
変わらぬその顔には互いを隔てる年月を感じることはできないがまとう雰囲気は確かに変わってしまった何かを感じさせる。
しばらく互いに見詰め合ったまま動けずに何かを言おうと口を開きかけるが互いに言葉が見つからない。
「こちらに」
やがてディレッタはそれだけを口から吐きだす。
童女は珠に戻りディレッタの手に帰る。
前を歩きアルドルに背を向けてディレッタは話し始める。
「あれから私は長い間、時の間を彷徨い続けたの。
その間に様々な時代を目の当たりにしたわ。
神々の大戦はもちろんこの先の未来に起こる幾つもの可能性も。
やがて私は今から2317年前の聖地に降り立ったわ。
そこで聖地のシステムに取り込まれている彼の魂に触れた。
聖地とは現神が残した封印なのよ。
神々の大戦で肉体は滅ぼせても魂までは滅ぼせなかった古神達がこの大陸には封じられているの。
そしてその封印を維持するためにこの大陸から精霊力をはじめとしたあらゆる力を吸いあげているわ。
聖地が王と契約して文明の恩恵を授けるのは吸い上げる生命力が無くならないようにするためなの。
そして契約とは王の力が増して聖地の支配から逃れるのを防ぐためのもの。
遠からず王が自ら破滅するように予め仕組まれたものなのよ。
そうやって文明が一定水準を上回らないようにしつつ人間をはじめとした生命体が居なくならないようにしているの。
だけど近年そこに不確定要素が生じることになったわ。
冒険者をはじめとした者達が王都の廃墟から文明の遺産を手に入れて独自に文明を築き始めた。
これに危機感を持った聖地は考えた末にこの状況さえも利用しようと考えたの。
王都と冒険者達独自に文明を築いた者達の戦いをあおることでね。
無人のシャ-ル・ヴィエルジュに互いの町を襲わせたり人型の機械人間を使って唆したりしてね。
そうやって発達する町を潰しつつ文明と人間の数を調整しようとしたの。
今ウェストゥ地方で起こっていることもその1つだったわ。
聖地の思惑が狂ったのは黒騎士の存在になるわ。
黒騎士システムもまたこの状況を利用しようとしているわ。
ユリアンを使ってウェストゥ地方の王都を積極的に襲って戦闘データの収集を行っている。
そして両者の思惑からやがて解放軍は聖地を全軍を挙げて襲うことになるわ。
聖地にとっては不安要素をまとめて排除するために。
黒騎士にとっては大規模な戦闘データを得るために」
そこでディレッタは話を終えたのか何も語らずに歩き続ける。
「その戦闘の結果はどうなるんだい」
「分からないわ、確かなことは聖地が滅びれば封印されている古神達の魂が甦りこの大陸に災いが降りかかるわ。
神にとって人間は取るに足りない存在であり供物でしかないのだから。
そして聖地が残ればこの状況がいつまでも続くことになるわ」
「それなら何か方法はないのかい。
それ以外の例えば聖地ごと古神達の魂を封じるような方法は」
「私もずっとそのことを考えていたわ。
結論から言えば可能になるわ。
ただ古神達の魂を封じ続けるために聖地が精霊力をはじめとする力を吸いあげるのを止めることはできないわ。
だから吸いあげつづけられる精霊力を他から補う方法を考えたわ」
「それならっ」
「でもそれも一時しのぎ、結論を先延ばしにしているだけよ。
根本的には封印されている古神達の魂を全て滅ぼすしかないわ。
Une histoire pour suivre le Crépuscule de Dieux
私達が生き残るためにはまず古神達の魂を全て滅ぼすしかないの。
この2000年以上、色々準備を行ってきたわ。
なかには、おぞましさで我が身を呪うほどに酷いこともしてきたわ」
やがてその場所にたどり着く。
目の前には透明な水晶の剣が台座に浮いている。
「使い方はリュミエールが知っているわ」
そう言うとディレッタは振り向かずに脇にそれてその場をアルドルに譲る。
アルドルは台座の前に立ちあらためて剣を観察する。
透明な刀身の中には植物の種が見える。
「あの子もまた未来を紡ぐために約束された1人なのよ。
あの子のアフェクシオン・ヴィルジニテの鎧にはまだその力を引き出す騎士もヴィルジニテもいないわ。
あの子は他のヴィルジニテとは違って妊娠することができるわ。
アルドルあなたとリュミエールの間に生まれる双子こそがオーブ・フュテュールの真の騎士とヴィルジニテになるわ」
その言葉にアルドルは、
「振り向かないでッ!」
ディレッタに向けようとした顔が止まる。
「会えて嬉しかったわ。
ありがとう、そしてさようなら」
闇がディレッタとアルドルの間に壁を作り光がアルドルを包み込む。
慌てて振り向くがディレッタの顔は闇に阻まれて見えない。
光と共にその場からアルドルが消える。
涙など枯れてしまったと思い込んでいた、本当にそうであったならどれほどよかっただろうか。
溢れる想いを抑えることもできずにディレッタは泣きつづけた。
宿に戻ったアルドル達であるがその夜に何者かの襲撃にあうことになる。
獣憑きである襲撃者はその体を熊、狼、虎、に姿を変え術者達が式神を顕現する。
襲撃者を退けてからの明け方に王都で反乱が起こる。
アルドルはディレッタが地下に居るならば無事だと判断して全員の王都からの脱出を優先させる。
王都フォルクローアから脱出をしたアルドル達は朱塗りの王城を飲み込み天に向かって伸びる業火の柱を目撃する。
反乱軍は王城ごと炎に飲み込まれ全滅しディレッタの行方は分からないままであった。
やがて王都を覆った暗雲から雨が降り注ぐ。
「まるで泣いているみたい・・・」
リュミエールが煙をあげる王都を見つめて呟く。
アルドル、リュミエール、オニロ、ディスティー、セレアル、アーデルハイト、リルルは雨の降り注ぐ王都から目を背けることができずに見つめ続けていた。
これにて東方偏は完結に。
次回、聖地偏になります。




