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オリゾン・ドゥ・クレプスキュール ~白き極光のアルドル~  作者: 戎・オマール
第三章 血戦航路 ~Route de bataille ensanglantée~
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第20話

 昼を過ぎてようやく起きたオニロがリビングに入るとアルドルがソファで眠っているのが目に入る。

 最近では珍しいことではない元々アルドルは自己暗示で寝ようと思えばいつでも眠られるように訓練しているそうである。

 今のような連戦続きではいざ戦いが始まれば次はいつ眠れるのかは分からない。

 そのため最近は戦い以外では極力寝るようにして体を休ませているのだ。

 リルルにメキルがどこにいるのかを尋ねると医務室とのことで昨夜運び込まれた男の子を診ているのだろうと考える。

 オニロがお茶を入れていると外部から通信が入る。

 音に気付きアルドルも目を覚ます。

 通信のスイッチを入れるとアーデルハイトの声が室内に流れる。


「こんにちはまだ生きているのね。

 ひとまずこの後の予定なんだけど今日の12時~と明日の0時に予定していた相手からキャンセルがでたわ」


 その言葉にオニロだけでなくアルドルも怪訝な顔をする。


「ひとまず理由を教えてもらえるのかな」

「今までの戦いから勝つことが難しいと判断したみたいね」


 アルドルが立ち上がり自分の声の届く範囲まで歩み寄る。


「アーデルハイト、少し相談がある。

 僕達のところまで来てもらうことはできるかな」


 常に無い雰囲気をアルドルの言葉から感じ取りアーデルハイトは答える。


「分かったわ。

 ひとまず明日の12時までは予定は無いわ。

 この先のロゴダの町に夜までに到着すると思うわ」

「分かったロゴダの町で会おう」


 通信を切るとオニロはアルドルを振り返り。


「ひとまず明日の正午までに猶予ができたな。

 ロゴダの町で補給をしてゆっくり休みたいところだが問題は俺達をつけている連中だな」

「今朝、ディレッタの話だと昨夜の戦った騎士達はブリュレ粒子で焼き殺されたそうだよ」


 その言葉を聞いてオニロは不快そうな顔をする。


「子供の腕を斬りおとしたことといい、まともな連中とは思えないな」


 前回の話にもあるように腕を斬り落とすということは罪人を意味する。

 近年はアルシミーによる医療技術の発展と事故で腕を失くす者もいることから額に咎人の烙印を焼き印で刻み付けることによってアルシミーが治療を行わないように見分けがつくようにしている。

 それでも咎人の烙印の有無に関係なく腕が無い者は罪人のように見られるのである。

 このことから幼い子供の腕を斬り落とすことに抵抗感のない相手に対してオニロだけでなくディレッタも怒っているのである。

 

「勝てそうな子供相手には剣を振るうがそうでない相手には不意打ち狙いでブリュレ粒子を使う。

 火事場ドロボウの真似事をしていることと考えても恥知らずなことには違いが無いな」


 そう言いながらオニロはアルドルにお茶の入ったカップを手渡す。

 ブリュレ粒子の入ったドラム缶を投げたとしても騎士の反射速度と走る速さを考えれば避けるのは容易いのである。

 それができなかったことからも仲間を救出している隙を狙った不意打ちであると想像できるのである。

 

「どのみちこのまま放っておくわけにはいかない。

 これから戦う相手にも注意を呼びかけるのはもちろん。

 彼らを捕まえるか、・・・殺すことも考えないとダメだろうな」

「問題は相手の人数だろうな。

 短時間でシャ-ル・ヴィエルジュを3体以上も持ち去ったんだからな。

 相手もシャ-ル・ヴィエルジュを持っているとしても最低でも8体以上か。

 俺達のことを監視しているなら交代で行っていることも含めて考えると20体以上いても不思議じゃないが」

「そうなると20体以上のシャ-ル・ヴィエルジュを所有するような相手が何者なのかってことか。

 それだけ大規模なら傭兵団であれば規律の統制からはありえないだろうな。

 大規模な傭兵団であればあるほど騎士としての教えを徹底させないと内部崩壊の危険性はもちろん信用を失ってどこにも雇ってもらえなくなるからね」

「だが王都も考えられないな。

 そこまで人手を割いてまで奪う理由がないからな。

 それにだ売るにしても買い取る工房のある町も限られている。

 破壊されたシャ-ル・ヴィエルジュがそんなに大量に持ち込まれれば怪しまれるのは目に見えているからな。

 それ以外の理由があるのかと考えるなら修復して自分達で使うかだがそれならアルシミーが必要になる。

 それも王都か工房でシャ-ル・ヴィエルジュの技術を教えこまれた者でなければダメだろう。

 仮に20体以上のシャ-ル・ヴィエルジュやアルシミーまでいるのならかなり組織的な相手と考えてもいいかもしれない。

 そうなるとだ、どこかの工房が関与していることも疑いたくなるんだよな」

「まさかそこまでは・・・。

 いや、ブリュレ粒子か」


 そう言うとアルドルはコンソールを操作して焼き払われて黒く焦げている大地をメインモニターに映す。

 幾つかの角度を変えた画面に切り替えて上空からの全体像が鮮明にわかる画面でとめる。


「かなりの広範囲だね。

 これだけ焼き払うにはどれくらいの量が必要になると思う」


 ブリュレ粒子を使わないアルドルには見当がつかないのでオニロに尋ねる。


「恐らくだがドラム缶で5つは投げているだろうな。

 ディレッタの使うような最新のナノマシン式なら培養もできるだろうが。

 あれは東の王都で開発されたものだからな一般にでまわっているものじゃない。

 だとするとこれだけの量のブリュレ粒子を手に入れてしかも惜しみなく使っているということになる。

 シャ-ル・ヴィエルジュを売るつもりだとしても豪快過ぎるだろう」

「確かにね、だとすると裏でどこかの工房が動いていると考える方が辻褄が合うわけか」

「まあ、ここまではあくまで憶測の範囲でしかないからな。

 実際には顔を合わせないと判断できないがあの子供が目を覚ませば何か分かるかもしれない。

 何をしですかすのか分からない連中だ今は慎重に行動するべきだろうな」

「そうだね、索敵範囲も広げて今まで以上の警戒も必要になるね」


 そこで階段を上ってくる気配に気付きアルドルはモニターを切る。

 その様子にオニロも気付きティーポットを手にソファに座る。

 階下からルインズとケイトが顔をだしアルドルとオニロに挨拶をする。


「ところで2人はこれからどうするんだい」

「ダグラス先生のシャ-ル・ヴィエルジュを奪った相手を探します。

 先生だけでなくマルロさん、ケインズさん、アイリスさん達みんなのシャ-ル・ヴィエルジュもです」


 そこでオニロはアルドルに顔を向ける。

 先ほど話していた内容は憶測ではあるが危険な相手であることには違いない2人だけで捜すのは危険である。

 アルドルの性格なら放ってはおけないであろうことは容易に想像できる。


「2人だけなのかい。

 今朝も見ただろうがかなり危険な相手になる」

「あと1人エスカルゴにルシアさんって言う方と僕とケイトのヴィエルジュのメルセデスとビアンカがいます」


 そこでルインズはケイトと顔を見合わせる。

 ルインズとケイトにも2人だけでは返り討ちにあう可能性があることは理解できている。

 だがそれであきらめられるようならアルドル達には会いにはこなかっただろう。


「ここでルインズとケイトを死なせることになれば僕はダグラスさんの気持ちを踏みにじることになるだろうな」


 そう言ってオニロに顔を向けるアルドルへとルインズとケイトが振り向く。

 オニロは観念したように両の手の平を上に向けて軽く肩まで上げると降参の意志を示す。


「アルドルの判断に任せるさ。

 何かするつもりならどのみち手遅れだろうしな。

 とはいっても裏表があるような器用な人間にも見えないがな」


 そう言うとルインズに顔を向けてオニロはアルドルを振り向く。


「ディレッタもリムニもセレアルにリルルやメキルも反対しないだろうさ」


 そこでアルドルはルインズとケイトに顔を向けて話す。


「どうだろうか、相手の正体が分かるまで一緒に行動をしないかい。

 無論、今の状況では安全を保障できないけれど。

 それでも2人だけで行動するよりは安全ではないだろうか。

 ひとまずあの少年が目を覚ますまでは一緒に行動できないだろうか」


 ルインズがケイトを振り返ると、


「ルインズに任せるわ。

 私だと感情的になるだろうから」


 ケイトの言葉にルインズはアルドルを振り返って話す。


「確かに僕達だけでは危険でしょうね。

 今朝ディレッタさんにも相手はかなり準備を整えたうえで組織的に動いている可能性があることをお聞きしました。

 それでも僕達は先生やみんなのためにもシャ-ル・ヴィエルジュを取り戻したいと思います。

 ですがダグラス先生が僕達に残した最後の言葉も忘れてはいません。

 ダグラス先生の剣を受け継ぎ継いでいく。

 それが僕達が本当にすべき事だと思います。

 だからせめて先生やみんなのシャ-ル・ヴィエルジュを奪ったのが誰なのかそれだけは知りたいと思います。

 例え勝てない相手と分かりあきらめることになってもそれだけは知りたいのです。

 そしてそのためにはここにいるのが一番の近道なのだと思います。

 あらためて僕達からお願いします。

 ここに僕達を置いてください」


 ルインズがアルドルに頭を下げるとケイトも同じく頭を下げる。


「じゃ、決まりだ。

 僕からもあらためてよろしく、ルインズ、ケイト」




 アルドル達は日が暮れるよりも少し前にロゴダの町へと到着する。

 ルインズとケイトはルシアに連絡を取り1度ロゴダの町で合流することになり明日の朝には到着するとのことであった。

 夜のアーデルハイトの到着までにはまだ時間もあることからアルドル、オニロ、セレアル、ルインズで買いだしでかける。

 町の入り口で聞いた話では買い物ができる場所を含めて取引も全て町で管理されているそうである。

 教えられた場所に向かうとかなりの数の歩哨や騎士が警戒に当たっているのが目に付く。


「何かあったのかな、余所者を警戒しているというよりは力を誇示することで何もさせないようにしているみたいだけど」

「店側の人間も緊張しているみたいだな。

 最近何かあったのは間違いないだろうな」


 入り口に立った瞬間からその場の視線が一瞬で集ったことにアルドルやオニロだけでなくセレアル、ルインズも戸惑っている。

 騎士や歩哨などは視線をさりげなく向けるのみだが店の者は明らかに不安な顔でこちらを見ているのが分かる。

 

「すまない。

 セレアルとルインズはここで待っていてくれないかな」


 4人でも多すぎると判断してアルドルがそう言うとセレアルとルインズは頷いて入り口に残ることにする。

 アルドルが腰のエペ・クウランをセレアルに預けたのもあり店の者もようやく緊張を和らげ視線を元に戻す。

 それでも買い物の間にも何度か視線を感じて針のむしろではあったが無事に買い物を終えて入り口に戻ることにする。

 荷物はあとでまとめてエスカルゴまで運ばれることになっており町で管理されていることから安心して任せることにする。

 

「やはりこれは何かあったな。

 どうする明日までここにいる訳だからな。

 トラブルを避けるためにも早めに戻りエスカルゴの中でおとなしくすべきかな」

「そうですね事情が分からない以上はあまり・・・。

 っきゃぁ」


 突然背中に抱きつくようにぶつかってきた誰かにセレアルが驚く。

 驚いて振り返ったセレアルが振り返ると、


「ッ!

 ジニカッ!」


 そこいるのははディミトリの町で捕まってから行方が分からなかったジニカで会った。

 泣きじゃくるジニカを抱きしめてセレアルも涙を流す。


「・・・セレアル姉」


 その声にセレアルが振り返ると同じく行方が分からなかったミレルがいる。

 

「・・・ミレル」


 その声にミレルもセレアルに抱きつき3人はしばらく抱きしめあいながら泣きじゃくる。

 アルドルとオニロはその様子から行方の分からなかったセレアルの仲間と察し声をかけずに見守り続ける。




 エスカルゴのリビングにはアルドル、オニロ、リムニ、ディレッタ、それからミレルとジニカと一緒にいたモーラとヒルナが集っている。

 セレアルとミレルとジニカはセレアルの部屋に3人でいる。


「なるほどな、例の仇討ちの相手とこんなところで顔をあわせるとはな」

「それはお互い様だけど、まさか今夜の決闘を断った相手とは思わなかったな」

「今まで倒された相手を見ても腕のあるのが分かったからね。

 損害をだすだけで得る物が無いのなら無理をする必要はないというのがうちらの結論さ」

「ところであの2人ミレルとジニカははどうするつもりなのか教えてもらえるのかな」

「ディミトリの町まで送ると約束はしたけどね。

 正直、送ったところで町に居続けられる訳でもないしどうしたものかと考えていたんだけどね。

 かっといて、あんた達に預ける訳にもいかなさそうだ」

「いや、それならディミトリの町の市長に頼めば預かってはもらえるとは思うが」


 そこでオニロは重要な部分だけを抜き取ってモーラにディミトリの町でのことを伝える。


「なるほど、他に仲間がいるならそのほうがいいかもな。

 正直なついてくれているから、うちで引き取ってもいいかと思っていたけれど」

「それならあの子達と相談して決めた方がいいだろうな」

「そうだね、ひとまず今日は3人一緒にさせてあげたほうがいいだろうな。

 できれば早めに町を出ようかと思っていたんだけどね」

「それは今の町の雰囲気と関係があることなのかい」

「ああ、聞いた話だけど少し前に若い騎士の一団がやってきてね。

 無理難題をふっかけて暴れたらしい」

「どういう連中なんだい」

「確か解放軍とかを自称していたらしいな。

 最近この辺りで同じような若い騎士が問題を起こしているって仲間内から聞いてはいたが。

 もしかしたら同じ連中かもしれないな」

「解放軍・・・。

 そんな奴がいるのか」

「まあ自分達で言っているだけだろうけれどな」

「どうもきな臭い連中みたいだな」


 モーラは明日の朝にあらためてまたミレルとジニカを迎えにくるといってその日の話は終わりになる。

 アーデルハイトからの連絡が入るのは陽が暮れてからになる。



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