第二章 エピローグ
その町は傭兵の仲介を行っていることもあり常に大勢の傭兵達が集っていた。
中には野盗との見分けもつかない者も見られるが屈強な騎士が大勢いることから治安は良い方である。
昼をまわった早い時間であるが酒場には大勢の傭兵達がすでに酔って騒いでいる。
そこに黒いフードとマントを被った男が入ってくる。
一瞬、酒場が静まり返るがすぐに騒がしくなる。
まともな騎士ならば黒という色は避けるものであるがたまに無知な者がいるのである。
男の後には2人の少女が連れられているがヴィエルジュではない。
15前後の娘たちであるが酒場の傭兵達が不審に思ったのは少女の顔にある青アザである。
酒場へと足を踏み入れてくる男に傭兵達もすぐに気付く男が騎士ではないことに。
黒いフードといい場違いな場所に顔をだすことといい何も知らないどこかの村の者であろうか。
男の勘違いは更に続き入り口からしばらくしたところで立ち止まると。
「だ誰かこの娘達を買わねえぇか」
傭兵達が不快な顔をしたことにも気付かずに男は尚も言葉を続ける。
「ちょっと手をつけちまっているがまだ何もしてねえぇぞ」
誰も一言も口を開かない静まりかえった酒場で尚も男は言葉を発し続ける。
「何ならここで確認してくれてもいいんだぜ」
大柄な傭兵が1人立ち上がる。
2メートルは超える巨漢であるがやや細身である。
男のほうを振り返って気付く女である。
その女は男の傍までくるとその襟首を掴んで店の奥へと放り投げる。
女は身を屈めて少女達に屈託の無い微笑を浮かべる。
「私はモーラっていうんだ、嬢ちゃん達の名前を教えてくれるかい」
「ミレルです・・・。
「ジニカといいます」
「じゃあ、ミレルとジニカあいつは悪い奴でいいのかい」
怯えながらも確かに頷くミレルとジニカを見てモーラが叫ぶ。
「ッ野郎共!ふん縛りなッ!」
その言葉に一斉に傭兵達が立ち上がって男に詰め寄る。
「よしっ、もう大丈夫だ。
あんた達行くところなんか無いんだろう遠慮せずにウチにきなよ」
「姉さん、またですかいウチは傭兵で孤児院じゃないんですぜい」
「お前らもガキ共と変わんないだろうが」
「違いねぇや」
傭兵達が陽気な笑い声をあげる。
「まあガラと顔は悪いが気の良い奴らばかりだし・・・」
「姉さん、顔はダメだってダイスの奴一昨日それで振られたばかりなんだから」
「そうですぜ、ウチでも気の弱い方なのに顔が怖いって言われて」
「ああ悪かったよ、ってダイスも本当に泣くなよ。
ええっとまあ、何だこのとおり騒がしいが本当に気の良い奴らばかりだから遠慮しないでウチにきな。
それともどこか行く当てでもあるのかい」
ミレルとジニカは顔を見合わせてジニカがモーラに話をはじめる。
「私たちの仲間がいるの」
「それって一緒に連れてこられたのかい」
ジニカは首を振って、
「私たちディミトリの町から連れてこられたの、それでみんなとはぐれたの」
「ディミトリの町っていやぁ、この間騒動があったところだな」
「確かソルセルリ-が暴れたって町ですぜ」
その言葉にミレルが叫ぶ。
「違うのッ!お姉ちゃんは悪くないの。
私がお腹が空いたって我がままを言ったからなの。
みんなだって我慢してたのに」
泣きじゃくるミレルをモニカは優しく抱きしめる。
話の内容から町で暴れたソルセルリ-の身内であろうがモーラにはそれを理由に見捨てるという選択肢は無い。
「よし、じゃ私がディミトリの町まで連れて行ってやるよ。
大丈夫だ、私が必ずミレルとジニカを仲間に合わせてやるよ」
「本当に・・・」
「ああ、約束だ。
よし野郎共ッ、すぐに出発だ」
傭兵の1人が男を肩に担いでモーラが酒場の外に出るといつの間にか大勢の人間が集っているのが見える。
「何があっったんだい」
顔見知りの男にモーラが尋ねる。
「ああ、ちょっとしたトラブルさ。
仇討ちの助っ人の募集なんだが破格の条件でな。
それと良い女だったもんでバカが絡んでいるのさ」
「それってヤバイのかい」
「絡んでいる奴らのほうがな」
「ヒルナ、悪いがこの子達を先にエスカルゴに連れて行ってやってくれないか。
バーキンはそいつを町の歩哨に突き出してきな。
ミレル、ジニカ、このお姉ちゃんと一緒に先に行っていてくれるかい。
すぐに私も戻るんでな」
頷くミレルとジニカをヒルナに預けるとモーラは野次馬を掻き分けて最前列にでる。
頭に巻いた布から銀髪が覗く褐色の肌の若い女と5人の男達が対峙している。
数は多いが大した連中ではないなと判断し褐色の女にモーラは目を向ける。
自然体ではあるが只者ではない思ったのはあまりにも何も感じすぎないからだ。
本当に強い相手は得てしてこちらの感覚が麻痺しているのかと思うくらい何も感じさせないものなのである。
男が2人前へと飛び出し剣から衝撃波の塊を撃ち放つ。
避けるつもりが無いのかと思った瞬間、女の前で衝撃波が掻き消える。
刹那、2人の男の体の周囲で風が渦巻きその身を斬り刻む。
ソルセルリ-なのかとモーラが思った瞬間、女が剣を腰から抜く。
ならばアンビュスカなのかとモーラが思っていると今度は女から斬りかかる。
1人がすれ違いざまに斬り伏せられ倒れる間際に女の頭の布を取る。
残り2人が斬りに動くがその前に衝撃波の斬撃で斬り伏せられる。
布に収められていた長い銀髪を再び後でまとめる際にその長い耳が目に入る。
「エルフ・・・、いやハーフエルフの騎士か」
髪と耳を布で覆うように巻き直すと女はその場の全員に声をかける。
「私の名前はアーデルハイト・ミュラー。
先ほども言ったように私が求めるのは強い騎士のみだ。
仇討ちが果たされた暁には王都から500万トンの食糧を約束しよう」
モーラの驚きとともにざわめきが湧き起こる。
「王都の食料には保存の魔法がかけられているので腐る心配は無い。
我はと思う者は明日の朝5時に町の門の前に集るように。
ただし、私が求めるのは強い騎士のみだ。」
それだけを言うとアーデルハイトはその場をあとにして去っていく。
翌朝、町の門の前には多くの傭兵団や騎士達が集る。
アーデルハイトは集った者達に仇討ちの取り決めの説明をする。
やがて彼らはそれぞれに南西へと向かって出発していく。