第16話
登場人物
アルドル・ル-ク・ソラリス 18才 騎士 本編主人公 明るい茶色の髪、身長180cm
リムニ・アニマー 15才 騎士 肩まである茶色ぽっい黒髪 自称身長150cm
オニロ・エルピス 19才 アルシミ- 首まである金髪、身長169cm
ディレッタ・マーレル 20才 騎士 腰まである赤い髪を編んでいる 身長178cm
ル・リルル 年齢不詳 フェアリーの少女 淡いピンク色の髪 身長10cm
メキル 年齢不詳 ヴィルジニテ 肩より長い黒髪 身長170cm
セレアル・オリジャ 17才 ソルセルリ- 肩まである明るい小麦色の髪 身長160cm
エスカルゴの医務室ではオニロとディレッタがモニターに映る病室のセレアルへと目を向けている。
「じゃ、右腕の接合だが肩の斬り口はエペ・クウランで焼かれているので薄く斬ることになる。
そのあと接合部をセレアルから培養した細胞で繋ぎ合わせる。
直ぐには無理だが右腕の指の先まで動かせるようになるので安心していい。
それと傷口は残していいんだな」
〈ああ、頼むこの傷は消さないでくれ〉
「分かったそれじゃ麻酔をかける。
ゆっくり眠ってくれ」
そこでオニロは病室との通信を切る。
「まだ、怒っているのか」
「あなたにね、言ったはずよアルドルと2人きりにしないって」
「治療の一環だよ」
「おかげであの娘もアルドルに惚れてしまったわ」
「まあ、遅いか早いかの違いだろう」
その言葉にディレッタからの殺意を感じながらもオニロは話を続ける。
「怒っている割には1番に賛成したのは何故だい」
「知っているでしょうソルセルリーと分かった以上あらゆる者が彼女を利用しようとするわ。
1人にするわけにはいかないし、おまけにアルシミ-なんでしょう」
「ああ、間違いないだろうな。
あれだけ派手に力を使って脳に全く影響が無いなんってのは普通じゃ考えられない。
だとすると俺と同じアルシミ-だと考えると辻褄が合うんだ」
「シュヴァリエとソルセルリーの力を持つ者がたまにいるって聞くけれど」
「もともと純血のセ-ルマンはアルシミ-とシュヴァリエそしてソルセルリーの力を併せ持っていたんだ。
それが人間との交配で血が薄まって力が分化してしまったんだ。
それにシュヴァリエやソルセルリーと違ってアルシミ-の力は気付きにくいんだ。
ほとんどの者が気付かないで死んでいくことのほうが多いからな、数が少ないと言われているのもそれが理由だからな」
「ソルセルリーとアルシミ-だけでなくシュヴァリエとアルシミ-の力を持っている者もいるってこと」
「ああ、少なくとも後者は心当たりがあるな。
隠しているのか気付いてないのかは分からないけれどな」
「どういう意味・・・」
「おっとぉ、麻酔が効いたみたいだな」
「それじゃ、あとはお願いしますねお医者様」
聞いてもはぐらかされるだけと考えてオニロを残してディレッタは医務室を出ていく。
ディレッタがリビングを訪れるとリムニがソファにうつ伏せになってリルルが回復魔法で癒していた。
今日も派手に転んでいたがヴァン・ブランシュの損傷が減っているのは上達している証である。
キッチンにいるメキルを振り返ってディレッタは尋ねる。
「アルドルがどこにいるか分かる、メキル」
「もうお休みになられたようですよ」
「そう、ありがとう」
リムニがディレッタに顔を上げて尋ねる。
「明日、本当に戦うのかなアルドルは」
「戦うわよ、もちろん」
「そうか・・・」
ディレッタはリムニと向かい合うソファに座って話す。
「アルドルは確かに優しいわ、でもそれは人としての優しさなのよ。
騎士として育てられたアルドルには騎士としての非情さも宿っていることを忘れてはダメよ。
アルドルは相手が騎士であるならば例え誰であっても全力で戦うわ。
全力で戦って貰うこともできずに殺される騎士の無念を知っているから
それがアルドルの騎士としての優しさなのよ」
「そうだよね、全力で戦って貰えないなんて騎士にとって最大の屈辱だもんね」
再び顔をクッションに埋めてリムニは一言だけ小さく呟く。
「ありがとう、ディレッタ」
翌朝、アルドルはディレッタを伴ない指定された決闘の場に赴く。
決闘の相手アギム・ソルケンの他に金髪のヴィエルジュと頭に巻いた布から銀髪が覗く褐色の肌の若い女が1人いる。
アルドルとアギムは互いに向かい合い名乗りあう。
「騎士アルドル・ル-ク・ソラリス、こちらの立会人は我が友のディレッタ・マーレルだ」
「騎士アギム・ソルケン、こちらの立会人は我が主君からの使者アーデルハイト・ミュラーだ。
いくぞッ!カロリーネ」
カロリーネがそのブラウスのボタンを外すと胸の鎖骨の間の少し下にの黄緑色の宝石デゥセルヴォが現われて光り輝く。
カロリーネの体を中心にクリスタルフィールドが形成されると亜空間に圧縮されていた黄緑色のシャ-ル・ヴィエルジュ=アルバートがクリスタルフィールドごとカロリーネをその胸に収めるように現われる。
アルバートは膝をつくと右手をアギムに差し出し胸の操縦室に導く。
アルドルは懐から卵のような乳白色の琥珀を取りだすヴィエルジュを胎児の状態で固定したものでアマトゥールという。
アルドルの手を離れ宙に浮くとアマトゥールを中心にクリスタルフィールドが形成される。
アマトゥールを内部に包み込むように亜空間に圧縮されている白のシャ-ル・ヴィエルジュ=エクレールが姿を現す。
エクレールが膝をつき右手をアルドルに差し出す。
胸部装甲が展開されると操縦席が現われ右手が動いてアルドルを導く。
操縦席の後ではアマトゥールのクリスタルフィールドが淡い輝きを放っている。
アルドルが電磁剣エペ・クウランを腰から抜くと柄のディエスアムが輝きを放つ。
質量を亜空間に預けることで縮小化され短剣となったエペ・クウランを両足の間の操作盤に刺し込む。
エペ・クウラン、アマトゥール、エクレール、のディエスアムが輝きを放ち精神感応によりアルドルと心が繋がる。
アルバートは左半身を前に向け左手のスクトゥム(長方形で中央で盛り上がり反った盾)を押しだすように前へ構える。
エクレールはアルバートに駆け走りながらエペ・クウランを左下から右上に袈裟斬りに斬り上げる。
雷を帯びた衝撃波の斬撃が宙を駆けアルバートへと襲いかかる。
アルバートはスクトゥムの丸みをいかして斬撃を逸らせると後に退いていた右半身を前に押しだしヴィブラシオン(振動剣)へと腕ごと回転を加えた衝撃波の突きを・・・。
突きを放とうとした右腕が肩から斬り落とされる。
最初の斬撃を大きく放つと同時にその後ろに隠れるように小さな斬撃が放たれていたのだ。
「見事だ若き騎士よ、しかしまだ終わらんよッ!」
左手のスクトゥムをエクレールに向かって投げるとアルバートも追うように駆けだす。
左腕からの回転を加えた突きを放つその刹那、迫るエクレールの体が陽炎のように揺らめく。
揺らめきが先行するようにエクレールの前へと加速して投げられたスクトゥムをもすり抜けてアルバートへと迫る。
揺らめきが実体化するとアルバートの胸を突き抜けて操縦室のアギムとカロリーネをも刺し貫いてその背中へとエペ・クウランが突き破る。
胸の装甲が展開して操縦室からアルドルが姿を現す。
エクレールの右手に飛び移るとゆくっりと地上に降りてくる。
アルドルが地面に足をつくとエクレールは亜空間に消えてクリスタルフィールドに包まれたアマトゥールが目の前に降りてくる。
アルドルの手が伸びクリスタルフィールドを抜けてアマトゥールに触れるとクリスタルフィールドが霧散するように消える。
アマトゥールを上着にしまうと立会人を務めたアーデルハイト・ミュラーがアルドルに歩み寄る。
「お見事でした、アルドル・ル-ク・ソラリス殿」
恭しく一礼をするとアーデルハイトはアルドルの瞳を見つめて話を続ける。
「アギムが負けた場合にお伝えするようにと我が主ギーゼラ・バイエルフォンよりお預かりした言葉がございます」
「お聞かせいただきますか」
「愚息ギルス・バイエルフォンの素行を正されての誅殺に関して同じ騎士として我が身のように恥じる想いと共に騎士として怨みに想うものではございません」
そこでアーデルハイトは一拍の間を置き、
「されどいくら暗愚とはいえ子は子に代わるものではございません。
子を殺された母としてアルドル・ル-ク・ソラリス殿を深くお怨みいたします。
騎士としてではなく母として仇を討つことをお許しいただきたく思いますれば刺客を差し向けさせていただきたく存じます。
これよりそのお命を承るべく数限りなき刺客があなた様の下を訪れることになりましょう。
努々、ご油断なきように我が下までお越しくださいますようにお願い申し上げます」
その言葉を伝え終わるとアーデルハイトは深くアルドルに頭をさげる。
「分かりました、その申し出をお受けいたしますとギーゼラ・バイエルフォン殿にお伝えください」
「仇討ちの申し出をお受けいただきありがとうございます、アルドル・ル-ク・ソラリス殿」
そこで頭を上げるとアーデルハイトは再びアルドルの瞳を見つめる。
「僭越ながらギーゼラ・バイエルフォン様より仇討ちの見届け人として使わされましたアーデルハイト・ミュラーと申します。
これよりアルドル・ル-ク・ソラリス殿と訪れる刺客との戦いを見届けさせていただきたく願います」
「分かりました」
「さすればこれを」
アーデルハイトはキューブをアルドルに手渡す。
「そこに王都レブランカの場所が記されています。
では、これにて失礼をさせて頂きます」
アルドルに一礼をするとアーデルハイトは踵を返して去っていく。
「1人で行くなんて言わないでよ」
「ああ、分かっているよ。
さあ、帰ろうみんなのところへ」
その夜に扉を開けて部屋を訪れる者がいた。
毎夜うなされるのでミレッタがときおり心配してきてくれるのを知っていたのでナビィは目を覚ますことはなくまどろみにその身を預けていた。
その額に優しげな温もりが触れる。
額に置かれた手の平はナビィがそこにいることを確かめるように額から頬までをなでる。
「ナビィ、幸せになってね・・・」
それはナビィがもう聞くことができないと思っていた声だった。
それはナビィがもう1度聞きたいと思っていた声だった。
彼女が自分達を助けることで自分も助けようとしていることは分かっていた。
だけどそれでいいのだと思っていた。
ナビィは彼女にも幸せになってほしかったのだから。
誰よりも責任感があってだから誰よりも自分を責めていたそんな彼女が心配だった。
だけど今聞いたその声からはいつもの張り詰めたような雰囲気は感じられなかった。
穏やかな優しさだけがそこにあった。
「・・・ありがとう、セレアル姉」
「ナビィ、・・・ありがとう」
廃墟の村を通り過ぎる渇いた風がときおり嬲るようにセレアルの体を強く叩く。
誰も居ない村である数年後には村の痕跡さえ無くなっているのかもしれない。
村の外れの共同墓地で父と母に語りかけようと思うが詫びの言葉しか浮かばない。
そんなことを父と母が聞きたいわけではないであろうに。
だから一言それだけを告げる。
「行ってきます、お父さん、お母さん」
立ち上がったセレアルを優しく撫でるように風が吹き抜けていく。
父と母が見送りの声をかけてくれたと感じたのはセレアルがそう思いたかったからであろうか。
しばらくすると渇いた風がふたたび嬲るようにセレアルの体を強く叩く。
村の外で待つ新たな仲間のもとへとセレアルは足を向ける。
セレアルの旅はこれから始まるのだ。
第二章 はこのあとエピローグを1話予定しています。
かなり短くなると思います。
そのあと誤字・脱字の修正などにとりかかります。
第三章は二章とは一転して戦闘シーン大目になると考えます、では
第三章 血戦航路 ~Route de bataille ensanglantée~
も、よろしくお願いします。