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オリゾン・ドゥ・クレプスキュール ~白き極光のアルドル~  作者: 戎・オマール
第二章 明日への麦秋 ~La saison de récolte d'orge pour suivre demain~
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第15話

登場人物


 アルドル・ル-ク・ソラリス 18才 騎士 本編主人公 明るい茶色の髪、身長180cm

 リムニ・アニマー  15才 騎士 肩まである茶色ぽっい黒髪 自称身長150cm

 オニロ・エルピス  19才 アルシミ- 首まである金髪、身長169cm

 ディレッタ・マーレル 20才 騎士 腰まである赤い髪を編んでいる 身長178cm

 ル・リルル 年齢不詳 フェアリーの少女 淡いピンク色の髪 身長10cm

 メキル 年齢不詳 ヴィルジニテ 肩より長い黒髪 身長170cm




 セレアル・オリジャ 17才 ソルセルリ- 肩まである明るい小麦色の髪 身長160cm

           ディミトリの町で輸送車の襲撃をした少女

 病室にはアルドルとオニロとリルルがようやく目を覚ましたセレアルから事情を聞くために集っている。

 初めて見るフェアリーに驚くセレアルにオニロは自己紹介とセレアルを助けた経緯(いきさつ)それから今の状況を伝える。


「セレアル・オリジャです。

 助けて頂き、ありがとうございました」


 アルドルとのことは夢の中でのことであったのか現実であったのかそれはセレアルにもはっきりとは分からないことであるが確認するのは避けた。

 まだ少し気恥ずかしさが残っているからなのか顔を合わせることができないからであった。

 

「まず幾つか確認させてもらいたいんだがその前にセレアルはディミトリの町で捕まったっていうソルセルリ-に間違いないのかい」

「はい、そうです」


 オニロの問いにセレアルははっきりと答える。


「ナビィ、エレン、ビジィ、の名前に聞き覚えはあるかい」

「何故ッ、その3人の名前をあなた達が知っているのですか」


 その名前に伏せていた顔をオニロに向けてセレアルは叫ぶように尋ね返す。


「落ち着いて聞いてくれよ、俺達がジルトリカの町に立ち寄ったときにゴードという男が現れたんだ」


 その名前にはセレアルにも聞き覚えがあった。

 ナビィを助けたときに絡んでいた男でそれからも遠巻きにセレアル達のことを見ていた。

 セレアルの魔法で痛い目にあったこともあり直接的な行動にはでなかったのであまり気にもとめていなかったのだが。


「町に入る門で俺たちの仲間が荷物の中に隠されている事に気付いて助けだしたんだ」


 オニロの言いよどむ様子にセレアルにもおおよその察しがついた。


「あの子達は今は無事なのでしょうか・・・」

「今はジルトリカの町の医療施設にいる。

 酷い暴行を受けていたけれどケガの方は心配しなくてもいい。

 あとは心のケアだけどこれは時間が癒してくれると信じるしかないだろう。

 3人の安全は町長のミレッタさんが引き取ってくれる事を約束してくれたので安心していい」

「ありがとうございました、あの子達をナビィ、エレン、ビジィを助けてくれて」

「礼を言われるような事じゃないさ。

 俺達は俺達にできることをしただけさ。

 むしろもっと早く助けてあげられたならと考えるけれどきっとそれは傲慢なんだろうな。

 俺達にできたことはそれだけだった」

「いえ、むしろワタシの方こそもっと他に何か方法があったはずなんです。

 ナビィ、エレン、ビジィ、だけでなく他の子達にも。

 もしもあのとき私がもっと考えていれば」

「もしも、なんってのは責任逃れの都合のいい言い訳さ。

 後悔をして過去を振り返って歩みを止めるよりは後悔を心に刻んで前に向かって歩くしかないんだ。

 後悔したり悔やんだり反省することを恐れて何もせずに無関心でいるよりも大切なのは忘れない事だ。

 例え同じ過ちを繰り返しても後悔したり悔やんだり反省することを止めないで歩き続けるしかないんだ。

 その先に今日とは違う明日があると信じてな」


 オニロの言葉は深くセレアルに突き刺さるものではあったが不快なものではなかった。

 未熟な自分を励ましてくれているのが伝わってくる。


「さて、あまり長く話をしていてもまだ良くないのでディミトリの町についてはまたあとで聞かせてもらうとして」


 そこでオニロはアルドルを振り返る。

 セレアルの名前を聞いて気にかかる事があるのだがここからはアルドルに変わるべきであろう。 


「セレアルさん、少しだけ確認させてください。

 もしかして北東のオリジャの村の出身なのでしょうか」


 その言葉にセレアルはアルドルに振り向き。


「はい、この辺りにオリジャと名のつく村は1つなのでお尋ねの村で間違いないと思います」

「ではグランさんというお名前に心当たりはないでしょうか。

 先日、縁があってお会いした際にご家族へのお荷物をお預かりしたのですが・・・。

 亡くなる際にご家族の方のお名前をお呼びになったのですが聞き取る事ができなかったのです。

 それでもしも知っているのならご家族の方の名前をお聞きしたいのです。

 預かった荷物を届けるためにも」


 その言葉を理解するのにセレアルには時間が必要であった。

 呆然とするセレアルにアルドルが戸惑っていると、


「・・・です」


 かすれるような声でセレアルが呟く。


「グランの妻の名前はティレア、娘の名前はセレアル。

 グランは私のお父さんです」


 搾り出すようにそう言うとセレアルはベッドの上で体を引き摺りながらアルドルに詰め寄る。


「お父さんに会ったんですか。

 お父さんは、お父さんは・・・」


 アルドルの胸にしがみつき泣き叫びながらセレアルは、


「・・・お父さんは帰ってきたんですか」

 

 その言葉とともに嗚咽を漏らすセレアルの肩に両手を置いてアルドルは答える。


「帰ってきたんだよ、セレアルとお母さんのいる村にグランさんは」

「・・・なさい、ごめんなさい、お父さん、お母さん。

 わたし、ワタシ待っていてあげられなくて・・・。

 信じることができなくて、ごめんなさい・・・」


 泣き続けるセレアルをアルドルに任せてオニロが部屋をでる。

 リルルはセレアルの肩に降りると慰めるようにその頬の涙に触れる。

 

 どれくらい泣き続けたのだろうか、セレアルがようやく落ち着いたタイミングを見計らってオニロが戻ってくる。

 その手にグランから預かった荷物を持って。

 それをテーブルに置くとオニロはリルルを伴なって再び部屋を出ていく。


「グランさんからセレアルさんにと預かった物をお返しします」


 その言葉に胸から顔を起こすとアルドルと目が合ってセレアルはようやく自分がアルドルに抱きついていることに気がつく。


「・・・っご、ごめんなさい」


 頬を赤らめながら離れるとアルドルの示すテーブルの上の荷物に目を向ける。

 包んでいる布を開けると何段も積み重ねられた箱が現れる。

 箱の1つを開けてその中身を理解するのにセレアルは少し戸惑う。


「これって・・・」

「麦の実や野菜の種などだよ。

 グランさんが13年間かけてようやくそれだけ手に入れたんだよ」

「・・・おとうさんっ」


 あの日旅立つときにグランがセレアルに言った言葉が不意に想いだされる。


「セレアルお父さんはね、みんなと生きるための明日を探しに行くんだよ。

 確かにお父さんが旅に出ることでセレアルやお母さんとは離れ離れになってしまう。

 でも今日は一緒に居られても明日も一緒に居られるのかは分からないのが今の暮らしだ。

 だから明日からのその先も安心してみんなと一緒に暮らせるためにお父さんは旅に出るんだ。

 もちろんやセレアルやお母さんだけじゃない村のみんなやこれから出会う人達とも一緒だ。

 たくさんの人達と安心して一緒に暮らせるそんな明日をお父さんは探しに行くんだよ」


 どうして忘れてしまっていたんだろうか、こんなにも大切な言葉を。

 セレアルの瞳から再び涙が溢れ頬を濡らす。




 アルドルが整備格納室に顔をだすとオニロがリムニのヴァン・ブランシュを整備していた。

 

「ディレッタとリムニはどうしたんだい」

「汗をかいたからな風呂にするって言ってた」

「そうか・・・」


 オニロは何も言わずに黙々と作業を続けアルドルが話すのを待つ。


「オニロ、この大地は確かに広大だけどどうして誰もが幸せに暮らせないんだろうか。

 泉や川だってあるけれどそこで暮らせるのは魔物と戦える限られた者だけだ。

 ほとんどの人は固い岩盤で塞がれていたりして井戸も掘れないところで暮らしている。

 そして何よりも食料を手に入れることが困難だ。

 安定した食料を手に入れるにはどうしても文明の恩恵が必要になる。

 しかし聖地はその文明の恩恵を王にしか与えない。

 だけどその王もまた全てを救えるほどに恵まれているわけではない。

 彼らもまた限られた世界の中で生きている。 

 おこがましいことなのだろうか誰かを助けようとすることは」


 アルドルの言葉にオニロは作業の手を止めずに答える。


「アルドル俺にはだから誰も助けるなとか、だから誰かを助けろなんてことは言えない。

 水にしても俺達は風呂に使えるくらいには持っている。

 食料も自分達が食べる分くらいには持っている。

 文明の恩恵にしたってそうだ俺達が生きていく分には十分だろう。

 だからといって誰でも無制限に助けられる訳では無い。

 だからといって誰でも無制限に見捨てられる訳でも無い

 それなら、それでいいんじゃないか。

 無理をしてその手から零れ落ちた人間全てまで助けなくてもいいんだ。

 今、目の前にいるたった1人の人間でもいいんだ。

 大事なのはその1人から顔を背けずに見つめることなんじゃないかな」


 アルドルは立ち上がると階段に足を1歩踏みだす。


「・・・ありがとう、オニロ」


 オニロに礼を言うとアルドルは階段を上がっていく。




 その日ディミトリの町の町長ソフィア・ディミトリアは3人の客人を迎えていた。

 アルドル、オニロ、セレアルである。


「まず、そのフードとマントを外しなさい。

 あなたへの処罰は既に済んでいるのですから」


 ソフィアの言葉にセレアルはフードとマントを外して一礼をする。


「それでは本日はどのようなご用件になるのかしら」


 その言葉にセレアルは手に持っていた包みを示しながら話す。


「すみませんが床に置かせて頂きます」


 ソフィアの机は書類が山積みで他に置ける場所もないからである。

 床に置くと包んでいる布を外して中の箱の1つの蓋を外して手に取りソフィアに見えるように示す。

 

「っなぁ」


 それを見て思わずソフィアが声をもらす。


「これをこのディミトリの町にお譲りします」


 自身が落ち着くまで間をあけてソフィアは口を開く。


「まず幾つかお聞きしたい事があります。

 1つあなたがこれをどこで手に入れたのか。

 2つあなたがこれの価値を本当に理解しているのか。

 3つあなたがこれを我がディミトリの町に譲る理由。

 以上をお教え頂けますでしょうか」


 ソフィアの瞳を見つめセレアルは答える。


「これはワタシの父グランが13年という時間をかけて捜し求めた麦の実や野菜の種子になります。

 父は村に帰る途上で王都の騎士に絡まれて殺されましたがこちらにいるアルドルさんがワタシを捜して届けてくれました。

 これの価値はもちろん理解しています。

 もしも育てる事ができ安定した食料の供給が可能になればそれは大きな力になることも。

 ワタシがこの種をディミトリの町にお譲りする理由は幾つかありますが。

 まずワタシにはこの種を育てる事ができません。

 これが1番の理由になります。

 そこでこの種を育てる事ができる処にお譲りすることに決めたのです。

 先ほどもお話したようにこれは大きな力になります。

 なので見知らぬ処にお譲りすることはできません。

 失礼ながらソフィア様とは幾度かお話をさせていただき確固たる信念をお持ちの方とお見受けしました。

 正直ワタシには他にお譲りできる当てが無いのが本当のところです。

 以上でご返答になっていますでしょうか」

「あなたのお気持ちは理解いたしました。

 お父様の想い確かにお受けいたします。

 ですがこれでは貰いすぎですね。

 少しお待ちください」


 そう言うとソフィアは書類が山積みの机の向こう側へと姿を隠して医療用ケースをその手に戻ってくる。


「こちらをあなたにお返しします」


 医療用ケースの窓から見えるのはセレアルの右腕である。


「斬って直ぐに処置をしていますので接合することもできましょう」

「ですがそれは・・・」

「言ったはずです、これでは貰いすぎだと。

 これではこちらが一方的な借りを作ることになります。

 私はディミトリの町の町長として一個人に町が借りを作ることを避けなければならないのです。

 もしもあなたがこれをお受けにならないと言うのならば私もこの種を受け取るわけにはいかないのです」


 頭を下げかけるセレアルに、


「言ったはずですッ!

 これはどちらか一方が借りを作らないための対等となるためのものだと」


 その言葉にセレアルはあらためてソフィアから医療用ケースを受け取る。


「ではこの種は大切に育てさせて頂きます。

 セレアルさんはこの先はどうするおつもりでしょうか。

 よければお聞かせ願えませんでしょうか」

「旅に出ようと思います。

 父がその種を見つけ手にしたように私も捜してみたいのです。

 この大地を豊かにする術を。

 この大地を潤す方法を」

「その方法を見つけて何をするのでしょうか」

「無責任な話ですがその先のことはワタシにも分かりません。

 もしかしたら豊かな大地となっても争いや奪い合いは無くならないのかもしれません。

 それでも例え新たな歪みを生み出すだけだとしてもワタシは捜してみようと思うのです。

 大勢の人達と安心して一緒に暮らせるそんな明日を信じて」

「私もそんな明日が見てみたいと思います」


 ソフィアとの話が終わりアルマンの先導で市庁舎を出るとユティとカナルが老爺とともにそこにいた。

 事前にアルマンが使いをだして呼んでいたのだ。


「お姉ちゃんっ!」

「セレアル姉っ!」


 駆け寄るユティとカナルを抱きしめセレアルは別れを告げる。


「ワタシにしかできない事を捜しに行くんだ。

 笑顔で見送っておくれ」


 見守るアルドルに老爺が歩み寄る。


「私はレブランカの王都のギルス・バイエルフォンの従者アギム・ソルケンと申します。

 主人を手にかけた騎士殿でお間違いございませんでしょうか」


 前に出ようとするオニロを制しアルドルはアギムに、


「アルドル・ル-ク・ソラリスと申します。

 僕とギルス・バイエルフォンの諍いで彼が死んだことに間違いはありません」

「では、明日の朝の6時にこの町より北に15Kmの場所でアルドル殿に決闘を申し込みたい」

「お受けいたします」

「感謝いたします」


 そう言うとアギムはアルドルに背を向けて待ちの外へと歩みだす。

 ユティとカナルの声に振り返ることも無くやがてアギムの姿は見えなくなる。



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