第13話
登場人物
アルドル・ル-ク・ソラリス 18才 騎士 本編主人公 明るい茶色の髪、身長180cm
リムニ・アニマー 15才 騎士 肩まである茶色ぽっい黒髪 自称身長150cm
オニロ・エルピス 19才 アルシミ- 首まである金髪、身長169cm
ディレッタ・マーレル 20才 騎士 腰まである赤い髪を編んでいる 身長178cm
ル・リルル 年齢不詳 フェアリーの少女 淡いピンク色の髪 身長10cm
メキル 年齢不詳 ヴィルジニテ 肩より長い黒髪 身長170cm
セレアル・オリジャ 17才 ソルセルリ- 肩まである明るい小麦色の髪 身長160cm
ディミトリの町で輸送車の襲撃をした少女
町の門の上に歩哨が増えると上から門の前に飛び降りる4人の男女が現われる。
アルマン・ヴァルマ、ウーゴ・スーシェ、ミリアム・バウマン、エマ・カーター、の4人の騎士である。
門には近づかないようにとアルマンが叫ぶと上に合図を送り門が開かれる。
クレア・ジョンソンとグレタ・ビセットに両脇を抱えられて現れたのはセレアルである。
「この女セレアルを2度に渡る輸送車襲撃の主犯としてただいまより刑の執行を執り行う」
アルマンの宣言によりクレアがセレアルの右腕を横に真っ直ぐに伸ばさせるとアルマンが剣を振り下ろして肩口から切り落とす。
アルマンはセレアルの右腕を掲げると、
「次に同様の事件を起こしたものには首を刎ねることもあると勧告する。
合わせて早々にこの場から立ち去るように、これ以上人が増えるようなら我々も身を守るために強硬手段にでることも辞さないことを告げる」
アルマン達が門の向こうへと去って行くと門が閉じられていく。
残されたセレアルは斬られた肩口を見つめる。
痛みはあるがエペ・クウランで傷口は焼かれ血は流れていない。
立ち上がると精神を集中してナビィ、ミレル、ジニカ、エレン、ビジィ、ユティ、カナルを捜す。
万が一に備えて7人の脳波は記録している。
しばらくするとユティとカナルの気配を感じ取ってそちらへと足をむける。
道の端の人垣が割れるとセレアルはその奥へと進む。
ユティとカナルの気配は知らないテントの中から感じ取られる。
不安に思い立ちすくんでいると入り口の布が開き1人の老爺が姿を現す。
「早くお入りいつまでもそこに居ては目立ってしまうよ」
老爺に言われるままにテントの中に入ると、
「お姉ちゃんっ!」
「セレアル姉っ!」
ユティとカナルの2人がセレアルに抱きついてくる。
「あのね、このお爺ちゃんが助けてくれたの」
「セレアル姉が町に捕まって危ないからって」
セレアルはあらためて老爺に一礼するとお礼を言う。
老爺はセレアルが捕まる4日くらい前にここに着たばかりでセレアルが少し世話を焼いた程度の付き合いであった。
「ナビィ、ミレル、ジニカ、エレン、ビジィ、はどうしたか分かるか」
セレアルの問いかけに答えたのはユティとカナルでは無く老爺のほうであった。
「すまないが助け出せたのはその子達だけになるんだ。
私がテントに助けに向かったとき中にいたのは2人だけだったのでな。
急いで人目につかないように連れ出すので精一杯だったのじゃ」
「そうですか、ありがとうございました」
覚悟はしていたつもりであったが・・・。
ナビィ、ミレル、ジニカ、エレン、ビジィ、の気配を感じ取ることだけはできなかったのだ。
ユティとカナルを強く抱きしめるとセレアルは老爺に振り返る。
「申しわけありません。
ご迷惑を承知でお願いがあります」
日が沈みかける頃セレアルは町の門の前の道に戻る。
精神を集中して大気を構成する原子を感じとり変質させると火球を作り出して手当たりしだいに門の前の道へと撃ちだす。
門の前の道が轟音とともに炎に覆われる。
しばらくするとそこかしこから人が溢れてくる。
狂ったように火球を撃ちだすセレアルに驚き人々が逃げ惑い始める。
大気を渦巻かせて竜巻を起こしテントが吹き飛んでいく。
人のいないところに火を放ち風を起こすことで燃え広がらないようにしながらもそれに気付かれないように人々の恐怖をあおる。
狂ったようなセレアルの笑い声は風に乗ってより遠くへと響き渡るようにして煙と炎と爆発音が人々の不安をあおる。
炎と風の中セレアルは狂ったように破壊の踊りに酔いしれるように舞う。
メキルの報せにアルドル、オニロ、リムニ、ディレッタ、リルル、がリビングに集る。
モニターにはディミトリの町とその前で燃えあがる炎が見える。
「まさか王都の進軍なのか」
「いえ、シャ-ル・ヴィエルジュの姿は確認できません」
アルドルの問いかけにメキルが答える。
「まさか町の騎士が人々を襲っているとは思えないがどうする、アルドル」
「エスカルゴはここで停止させよう。
メキル、レ・ジュー・ヴォラン(各種センサーを内臓した自動飛行監視機)を飛ばしてみてくれ。
僕は先に様子を見てくるよ、みんなは万が一に備えて待機していてくれ」
「気をつけてね、アルドル」
「無理はしないでよ」
「気をつけてね」
エレベーターで格納室に降りるアルドルを見送りオニロ、リムニ、ディレッタ、リルルはモニターを見つめる。
アルドルが大型バイク=ヴァン・ブランシュで外へと飛び出しディミトリの町に辿りつく頃には辺りは火の海となっていた。
周囲を見回すが人気は無く逃げ出したあとなのかと考える。
今なお続く爆発音に向かってアルドルは駆ける。
しばらく走ると2.5メートルはある巨人が10体暴れているのが見える。
透きとおるような蒼の装甲を持つ細身で丸みを帯びた女性的なシルエット。
両腕には手の代わりに剣がついている。
操るソルセルリ-によってその姿は変わるがエスクラヴと呼ばれるゴーレムである。
アルドルに気付いたエスクラヴが1体駆け迫ってくる。
アルドルは上着の内側から乳白色の琥珀に包まれたアマトゥールを取り出すとヴァン・ブランシュのコンソールにはめ込む。
代わりに鍵としていたエペ・クウランを取りだす。
ヴァン・ブランシュが宙に浮き上がるとバイクから人型の鎧に変わる。
オニロが個人的に開発した簡易型の鎧になるが実戦で使うのは初めてである。
右手に2メートルの大きさに戻したエペ・クウランを握らせエスクラヴへと駆ける。
刃と刃がぶつかり合い火花を散らす。
振り下ろされる右腕の刃を交わしつつ背中にまわりこんでアルドルは剣を横に払いエスクラヴを両断する。
しかし剣はエスクラヴの体を水のようにすり抜ける。
アルドルはいったん後に退がり距離をとる。
エペ・クウランを捻るように突きを放ち衝撃波とともにエスクラヴの頭を砕く。
しかし液状になった胴体から新たな頭が生えると再びアルドルに迫る。
〈そいつに衝撃波なんかの物理攻撃は効かないみたいだな。
おそらく体は液状に分子結合しているんだろう〉
オニロからの通信にアルドルは問いかける。
「何か方法はあるか、オニロ」
〈爆発させたり燃やしたりするしか方法はないな。
あとは操っているソルセルリ-を倒すかだ〉
「それしかないみたいだね。
でもソルセルリ-だとしたらここを襲っているのは何者なのだろうか」
〈確かに気になるが出会ってみないことには分からないな〉
「だよね、できれば話し合いで解決したいけれど・・・」
アルドルは鎧をバイクに戻すとエスクラヴに背を向けてその場を去る。
「どうも自立型みたいだけれど本気で襲うようには命令されていないみたいだね」
〈そうなのか〉
「ああ、何度か剣を振っているけれど微妙にズラして外すようにしているみたいだ」
〈そうだとするとここを襲っている目的は壁の外に集っている連中を追い出すことか。
そうなるとディミトリの町の関係者になるか。
人が死なないようにしているのなら無理に付き合う必要は無いと思うが。
これはディミトリの町の問題だからな〉
「そうなんだけど気になる事があるんだ、オニロ」
〈エスクラヴの数とこれだけの爆発だからな。
相当な無理をしているってことか〉
「確かエスクラヴは大きさ、形状、能力はソルセルリ-個人で変わるんだよね」
〈ああ、それで間違いないはずだ〉
「だとすると少なくとも10体、でもこの状況ならもっと造られているかもしれない。
気になるんだ幾ら無理をしても普通の手段でできることじゃない」
〈・・・恐らくだが薬を使っているかも知れないな〉
「副作用とかはあるのかい」
〈どのみち助けに行くんだな〉
「すまない」
〈謝るなら約束したディレッタとリムニにだな。
副作用以前に無理やり脳を酷使することで廃人になる方が心配だな。
急いだ方がいいだろう〉
アルドルは炎と熱と風の渦巻く大地の上でヴァン・ブランシュを全力で駆けさせる。
熱が喉を焼き炎がその身を照らすなかセレアルは立ちすくんでいた。
どれくらいそうしていたのだろうか不意に思いだす。
そして大地と大気が砕け散り再構成されていく両腕には手の代わりに剣が生えており透きとおるような蒼の装甲を持つ細身で丸みを帯びた女性的なシルエット。
頭痛が激しくなり目眩がするなか上着から手の平におさまるケースを取り出して蓋を親指で開けると中のカプセルがあらわになる。
それをゆっくりと口に運ぶ。
「っやめるんだッ!」
その声にセレアルは虚ろな目を向ける。
大型バイク=ヴァン・ブランシュに跨りこちらに駆けてくる青年がその瞳に映る。
エスクラヴに追い払うように命じると再びカプセルに目を向けそれをゆっくりと口に運ぶ。
アルドルはエスクラヴに殺意が無いと知ってそのまま突っ込む。
エスクラヴの体を突き破ってアルドルはセレアルに迫りすれ違いざまにヴァン・ブランシュから飛び降りてしがみつく。
左手を押さえられたセレアルは子供が駄々をこねるように暴れる。
仕方なく残る右手でセレアルの右肩をアルドルが押さえる。
押さえつけるアルドルの周りに風が渦巻くとその肌を斬り裂く。
アルドルの後からエスクラヴが歩み寄る。
そのエスクラヴに丸い玉が投げられると中の粒子を放出して飛び散る火花に引火すると爆発を起こす。
ディレッタはヴァン・ブランシュを停めるとセレアルに馬乗りになり押さえるアルドルを一瞬だけ激しく睨む。
アルドルがその気配に振り向くと微笑むディレッタがヴァン・ブランシュを降りてこちらに歩み寄ってくる。
「ディレッタ、左手の薬を取りあげてくれ」
「分かったわ」
セレアルに駆け寄るとディレッタはその左手の薬を取りあげる。
「麻酔をうつわ」
そう言うとディレッタはセレアルの左腕に細い円柱の筒を押し当てて尻の部分を押す。
しばらくするとセレアルの意識は夢の中に沈む。
「ありがとう、ディレッタ」
「お礼はオニロに言ってあげて。
私に麻酔を持たせたのは彼よ。
それよりも早めに引きあげた方がいいわね」
「そうだね、じゃ行こう」
「ああ、彼女は私が運ぶわ」
「いや、男の僕のほうが・・・」
「誰かに襲われないとは限らないしアルドルは周囲のの警戒をお願い」
「そうだね、分かったよ」
わずかな嫉妬を隠すようにディレッタはアルドルに背を向けてヴァン・ブランシュに跨る。
ヴァン・ブランシュを鎧に変えるとディレッタはその両腕にセレアルを抱えてアルドルとエスカルゴに戻る。
医務室では運び込まれたセレアルの病室をモニターに映しながらオニロがその容体を確認している。
後にはアルドル、リムニ、ディレッタ、リルルが心配そうにその様子を見つめている。
「思ったよりは大丈夫のようだ。
脳への影響も無いだろう安心していい」
「そうか、よかった」
「薬も見てみたが強いものでは無いし危険な量でもなかった。
ただ右腕がないからな左手だけで薬を飲むさいに誤って1度に多めに飲んだことで意識が混濁したんだろうな」
「そうか、右腕はいつ斬られたか分かるかい」
「おそらく1日も経ってないだろうな。
時間はかかるが再生できるけれど本人が目を覚ましてからの方がいいだろうな」
「そうね、とりあえず事情を確認しない事にはディミトリの町にも入れないでしょうから」
「じゃ、今日はこのままここで停まっているしかないね」
「そうだな、まあ明日には目を覚ますだろう」
オニロの言葉に全員が部屋を出てリビングへと向かう。
リビングに着くとアルドルがメキルに確認をする。
「町の外の様子はどうだい」
「レ・ジュー・ヴォランの映像を映します」
リビングの大型のメインモニターに外の様子が映しだされる。
「町の外にいた人間は全員が逃げたようですね。
今は町からシャ-ル・ヴィエルジュがでて消化と同時にバリケードを設営しているようです」
その言葉を聞いてアルドルは、
「準備がいいな、やはり彼女は町と繋がりがあるのかな。
メキル、ケガ人などはどうなっているの」
「確認はできていません、遺体なども回収されてないようなので恐らくは全員無事だと」
「やっぱり、これって追い払うためにやったってことになるよね」
「そうなるわね、右腕から考えると彼女が例のソルセルリ-だと思うけれど」
「町と何らかの取引をしたと考えるべきかな」
「アルドルの言うとおりだろうな」
「それなら家族か誰かを町に住まわせるってところかな」
「おお、えらいえらい良く気付いたわね」
「頭をなでるな」
リムニは頭に置かれたディレッタの手を払いのける。
「リムニの言うとおりだろうね。
これだけの事をしたんじゃ本人を町に置くことはできないだろうから」
「そうだな、逃げた連中からも噂は広がってしまうだろうな」
「メキル、ありがとう。
レ・ジュー・ヴォランは回収していいよ」
「分かりました」
モニターの映像が切られるとメキルはレ・ジュー・ヴォランの回収をはじめる。
「今夜はこのまま休んで明日に彼女が目を覚ましたらあらためて考えることにしよう」
アルドルの言葉にその日はそれまでとなり翌日のセレアルの目覚めを待つことになる。




