第11話
登場人物
アルドル・ル-ク・ソラリス 18才 騎士 本編主人公 明るい茶色の髪、身長180cm
リムニ・アニマー 15才 騎士 肩まである茶色ぽっい黒髪 自称身長150cm
オニロ・エルピス 19才 アルシミ- 首まである金髪、身長169cm
ディレッタ・マーレル 20才 騎士 腰まである赤い髪を編んでいる 身長178cm
ル・リルル 年齢不詳 フェアリーの少女 淡いピンク色の髪 身長10cm
メキル 年齢不詳 ヴィルジニテ 肩より長い黒髪 身長170cm
ほとんどの町では門を入ってすぐには建物は無く平時は他の町などから訪れる者などが車を停められるようにしてある。
エスカルゴはその大きさから門のすぐ近くに停めるように指示をされてメキルが誘導に従って指定の場所に停める。
オニロが手続きのために先に降りるとアルドル、リムニ、ディレッタ、リルル、はリビングに集る。
「エスカルゴの余剰エネルギーとの交換だけど水と食糧以外に何か必要な物はあるかい」
「今のところは大丈夫ね、この町はそれほど大きくはないから水と食糧だけでいいと思うわ」
アルドル達の乗るエスカルゴには通常のエネルギー炉以外にも太陽光からのエネルギー変換システムも試験的に搭載されている。
それにより溜めた余剰エネルギーを食料と水に交換しているのである。
この時代は共通する貨幣はまだ存在していない。
基本は物々交換であり発展している町ではエネルギーや鉱物がその代わりになることもある。
冒険者は王都の廃墟からの技術だけでなく鉱物などの貴重な資源も手に入れてくるためである。
しばらくするとオニロからの連絡が入りエネルギーパイプの接続が行われる。
メキルが確認しつつエスカルゴから町の用意したバッテリー車にエネルギーが流れる。
エネルギーの受け渡しが終わるとオニロがリビングに上がってくる。
その手に持つ銅版をテーブルの上に置いてオニロもそこに座る。
銅版はエネルギーを受け渡した量に応じて手渡されたものでこの町でのみ使える貨幣の変わりになる。
銅版には押し印で数字を表す文字が刻まれそれに応じて交換できる物の量が決まっている。
「さて、今日はこの町で休むとしてどうするんだい」
「私はディミトリの町のことを調べてくるわ。
連中が言ってたように大勢の人間を集めているのが本当なら何かしらの噂くらいはあるでしょうから」
「じゃ、あたしはアルドルとここで1日のんびり過ごすわ」
「あんたも来るのよ」
ディレッタはリムニの耳をつまむと軽くひっぱる。
大げさに痛がる振りをするリムニを無視してディレッタは言葉を続ける。
「荒野で見かけた大勢の人達も全員がディミトリの町に向かっているのだとしたらその目的も気になるのよね」
「確かになよっぽどの理由でも無い限りはそんな目立つような事はしないだろうからな」
「王都レブランカもそうだったけれど他にも王都を呼び寄せる可能性があるからね」
「そこまでして何をしようとしているのかしら」
「それを今から調べに行くんでしょう。
10枚ほど貰っていくわよ」
ディレッタは銅版を手に取り立ち上がる。
「じゃ、あたしも」
「リムニはダメよ、この前も無駄遣いをしたんだから」
「ぅうっ!」
「じゃ水と食糧の補給はオニロに任せるわね。
未練がましい目をしないで行くわよ」
リムニの耳を軽く2,3回ひぱってディレッタは階段を使って下に降りていきリムニとリルルもそれに続く。
「んじゃっ、俺達は水と食糧を買いだしに行くけど他にはいいんだよな」
「うん、今のところは他に必要な物はないみたいだね」
「分かった、じゃすまないが護衛を頼んだぜ」
テーブルの上の残りの銅版を持ってオニロとアルドルも外へと出かける。
「情報を集めるなら酒場とかかな」
リムニの問いにディレッタは、
「まだ陽も高いから、まずは市庁舎に行って冒険者かそっちの担当さんかしら」
この時代はまだ冒険者をまとめるような組織的なものは存在していないので各町の役所がその受付になる。
「まあ、あと他所からの情報が集るのは娼館だけど女だけで行くのもややこしいから」
「でも付近で聞き込む分には・・・」
「娼館に入る金の無い奴や娼館に属さないで路上で客を取っているのもいるのよ止めておきなさい」
市庁舎への道を聞こうとディレッタとリムニとリルルはひとまず門に足を向ける。
門に着くと丁度外からの来客でありしばらく待ってみることにする。
荷車を引いている男が1人とその後で押している男が2人に他に男が5人だがどうみても普通ではない。
荷車を動かしている3人は疲れ果てており倒れる寸前に見える。
しかし周りの5人には交代するそぶりは無くむしろ他人事のように見える。
男の1人がこちらに気付きディレッタを嘗め回すように眺める。
無意識にリムニを後に庇うディレッタにリルルがその肩にとまって耳元に囁く。
「あの荷車の上の荷物に命の精霊の気配を感じるの」
「それって誰か人が乗せられているってこと」
「うん、それもすごく弱っているの」
「それって危ないんじゃないの」
リムニも不安げに尋ねる。
「何もなければ怒られるだけじゃ済まないけれど、アルドルなら見過ごさないでしょうね」
ディレッタは男達の傍に歩み寄り問いかける。
「その荷物の中に人を隠しているみたいだけど酷く弱っているみたいね」
男達に動揺が走るがディレッタを嘗め回すように見ていたリーダー各の男はそ知らぬ顔をして。
「おいっ、姉ちゃんそれは俺達に言っているのかい」
「他に誰がいるのよ」
「とんだ言いがかりだな、そんな事を言って何もなければどうするんだよ」
強気で押し通すつもりかと話し合いをあきらめてディレッタは荷車に目を向ける。
指を軽く弾いて衝撃波を飛ばして荷物を縛る縄を斬る。
突如、縄が切れて荷物が崩れだしたことに驚き他の男達が抑えにかかる。
更に指を弾いて車輪を壊すと傾いた荷車から荷物が落ちる。
落ちる荷物の下の地面に腕で衝撃波を飛ばして荷物への落下の衝撃を和らげる。
「おまえかッ!こんなことをしたのは」
腕を動かしたことでようやくディレッタの仕業と気付いてリーダー各の男が激怒する。
「それより荷物から人の腕が出てるわよ」
「っなにぃ」
「嘘よ、その反応だと本当に人が入っているのね」
「このおっ」
「体を砕くわよ」
そう言うとディレッタは足元の地面に指で衝撃波を叩き込む。
「騎士相手に一般人が勝てるわけないでしょう。
分かったらおとなしくしてなさい。
リムニ、荷物を確認して」
リムニが布にくるまれた大瓶に駆け寄よると歩哨達も事態の異常さに気付き手伝う。
蓋を開けて中を覗き込むリムニが思わず、
「っうぅぅ」
「っしまっった」
嫌悪感と吐き気をもよおすリムニの表情にディレッタは見通しの甘さとリムニへの配慮が足りなかったことを悔やみ傍に駆け寄る。
「ごめんなさい、向こうに行って休みなさい」
よろけるようにリムニが離れるとリーダー各の男が襲いかかろうとするが、
「っぎゃあああぁぁぁッ」
その左足がディレッタの指の衝撃波で斬り飛ばされてリーダー各の男が地面を転げて喚く。
「動いたら砕くといったわよ」
凄みを帯びたディレッタの言葉にその場の全員が怯えた表情を浮かべる。
「リルル、リムニをお願いね」
その言葉にリルルが心配そうな表情でリムニの肩にとまる。
リムニが離れるのを見届けるとディレッタは大瓶の中を覗き込む。
中を確認すると傍の歩哨の男にに振り向き、
「この町に医療施設はあるのかしら」
「ありますが、アルシミ-がいる町でもありませんので限られた治療しかできませんので」
「分かったわ、私達のエスカルゴに運ぶのを手伝ってくれますか」
「分かりました。
すまんが2人この少女達を運ぶのを手伝ってくれ。
他の者はこの男達を拘束するんだ」
ディレッタに怯える男達は抵抗もせずに拘束されていくが、
「俺達はただ脅されて荷車を押すように言われただけで」
荷車を押す1人が喚くように叫ぶ。
ディレッタがその男に顔を向けると、
「本当にそうなのこの子の顔を見て本当にそう言いきれるの」
「俺達は脅されて、それで仕方なくその娘を・・・」
「それ以上何か言うと殺すわよ」
ディレッタの殺気を受けて男は尻餅をつくと失禁しながら体を震わせる。
大瓶の中から少女が3人外に運び出される。
衰弱しきっており裸で体中に傷やアザが見え虐待のあとが窺える。
ディレッタは大瓶を巻いている布を少女たちにかけて通信機を手に取る。
「オニロ、事情は後で伝えるからすぐにエスカルゴに戻ってもらえるかしら」
〈・・・ああ、分かった。
アルドルに水と食料は任せたほうがいいのかな〉
「そうね、お願いしてもらえるかしら」
〈分かった、じゃ急いで戻るわ〉
「ありがとう、オニロ」
いずれ話さなければならないだろうが今の少女達の姿をアルドルには見せたくはなかった。
オニロもディレッタの声に異常を感じ取りアルドルも一緒に戻っていいのか確認をしてくれたのだろう。
少女達を抱えた歩哨達とまだ青ざめた表情のリムニに寄り添ってディレッタはエスカルゴに戻る。
医務室ではオニロが大型モニターを3分割して同時に別室の3人の少女の診察をしており隣ではメキルがその補助をしている。
ドアが開くとディレッタが現れ後ろには女と白髪の混じった男が続いて入ってくる。
「今、いいかしらオニロ」
「悪いが手を動かしながらになるぜ」
「構わないわ、町長のミレッタさんと警備主任のバードンさんが彼女達の様子を窺いにきたの」
ミレッタとバードンはオニロのジャマにならないように手短に自己紹介を済ませ少女の容体を尋ねる。
「命は助かりますが精神的にもかなり参っているからな。
むしろそちらの方が問題でしょうね。
話を聞くのは当分は無理だと思いますよ」
「話は捉えた男達から聞き出しますので引き続き彼女達の治療をよろしくお願いします」
「それではひとまず初見の診察記録を渡しておきます。
それとこの子達ですがどうしますか。
薄情なようですがうちで面倒を見続けることはできないので」
オニロはワザとぶっきらぼうな喋りかたをする。
本当に薄情であるが実際に彼女達の心が回復するまで置いておくという訳にはいかない。
たださえ情に流されやすい連中が揃っているのである。
誰かが悪役を演じてでも町に置いてもらうようにしなければならないのである。
「私の独断になりますがこの町で引き取ろうと思います」
以外にあっさりとその言葉を口にするミレッタに驚きながらもオニロは話しを続ける。
「分かりました、ではこちらでできる限りの治療をした後にそちらの医療施設に移すということでよろしいですね」
「ええ、それでお願いします」
「それと勝手なお願いですが関わった以上うちとしても経緯が気になりますので教えていただけますか」
「それは問題ないと判断しますが渡せる内容はこちらで精査させていただきます」
「ええ、それでお願いします。
しかしこう言っては失礼ですが随分と肩入れしすぎじゃないですかね」
「・・・娘を2人病気で亡くしました」
珍しい話では無かったこの時代は子供が無事に育つことはそれほどに難しかった。
「そうですか、できる限りの治療はしますので任せてください」
「よろしくお願いします」
オニロに頭を下げるとメキルから診察記録を受け取ってミレッタとバードンはディレッタを先頭に部屋を後にする。
少女達を助け出した翌目の昼過ぎにエスカルゴのリビングにアルドル、オニロ、リムニ、ディレッタ、リルルが集る。
メキルは医務室で少女達の容体を診ている。
町から男達の取調べの内容が届いたのとディミトリの町で分かったことの確認が話し合われる。
「まずディミトリの町だけど数ヶ月前から異変が起こっているみたいだね」
「妙な噂が流れてそれで次々と人が集っているみたいだな」
「でも、食料と水をタダでくれるなんてそんな噂よく信じたわよね。
普通は疑問に思うものだし村を捨てることと秤にかけてまで信じないんじゃないかな」
リムニが不思議そうに呟く。
「最初は少数だったのかも知れないけれど、何人も同じことを言う人が現れて徐々にその数が増えれば信じてしまうのかも知れないね」
「アルドルの言うとおりだな。
半信半疑でも何十人もの人間が同じことを言って村の近くを通れば信じてしまうのかもな」
「それで今ディミトリの町の外には大勢の人が溢れかえっていて、いつ暴動が起きても不思議はない状況な訳ね」
「それだけじゃないわよ。
この間のレブランカの連中みたいに王都にだって目をつけられて騎士団が派遣される危険性も高まる訳だから」
「そうか、それでこの間の連中も調べに来たわけか」
リムニが納得したように呟く。
「それで昨日の男達だが、どうやらディミトリの町から逃げてきたみたいだな。
事の起こりは2ヶ月くらい前に食料の輸送車が突然横転して扉も壊れて中のものを全部ぶちまけたみたいだな。
それで一斉に町の外に集っていた連中が群がって大混乱になったみたいだな。
その状況でもうかつに無抵抗の人間を殺したなんてことになれば近隣の町との取引が止まることになるから騎士達も運転していた人間の救出だけで荷物はあきらめたようだが結局そのときの荷は全部奪われてしまったみたいだな」
オニロが町からの報告書を読み続ける。
「車もボロボロだったのでこのときは事故で片付けられたみたいだな。
次に1ヶ月ほど前に同様のことが起こったみたいだが騎士を増員していたのとシャ-ル・ヴィエルジュも出撃させたので転倒した車以外は無事だったみたいだな。
このときにソルセルリ-の関与が確実視されたので近くの町からソルセルリ-が呼ばれたようだな。
それで先日の襲撃の際に主犯のソルセルリ-が捕まり町の対応も厳しくなったようだな」
オニロの話をディレッタが引き継ぎ、
「それで昨日の男達は町を見限って逃げてきたのね。
騎士やシャ-ル・ヴィエルジュも出てきて町の対応も厳しくなった訳だから」
「それであの少女達をさらってきたのは・・・」
「この町の娼館に売るつもりだったみたいだな。
そんなことをすれば娼館も営業停止になるから買うわけないなんてないのも分からずにな」
アルドルの言葉を受けてオニロが答える。
しばらく沈黙が続きオニロが口を開く。
「それであの少女達だが捕まったソルセルリ-と一緒に暮らしていたみたいだな。
若い娘ばかりが集ってそのソルセルリ-が守っていたようだ」
「なるほど、それでソルセルリ-が捕まって守る者が居なくなったことで襲われたわけか」
「そういうことだな、でっどうするんだ」
「他の少女達を全て助けるなんてことはできないのは僕でも分かるよ。
そのソルセルリ-も罪を犯した以上は町で正当な罰を受けなければいけないこともね。
そして町にもその外に集る人達に対しても僕は何もできない」
一呼吸間をおいてアルドルは言葉を続ける。
「だから、できることを1つづつしていこう。
まずあの少女達はオニロに任せるしかないけれど町の診療所に移せるようになったらディミトリの町に行こう。
食料の輸送車を襲ったわけだから殺されていてもおかしくはないけれど。
もし罪人の焼印で解放されていれば彼女達のことを知らせてあげたい。
それでどうなるかは僕にも分からないけれど無責任なのかも知れないけれど知らせたいんだ。
それとグランさんの奥さんと娘さんももしかすればディミトリの町に居るのかも知れない。
結局、村には手がかりは無かったけれどもし噂を信じて村を捨てたのならディミトリの町に居ると思うんだ。
だからもし会えたならグランさんが必死で手に入れて守ったあの種を届けたいんだ」
アルドルの言葉にオニロ、リムニ、ディレッタ、リルル、が頷く。
「じゃ、決まりだディミトリの町に行こうぜっ」
「そうだよね、グランさんの種を奥さんと娘さんに届けてあげたいもんね」
「あの子達のこともほっとけないし、もし心配してくれる人がいるなら知らせてあげたいものね」
「行こう、みんなで」
1週間後に助けた少女達を町の医療施設に移すとアルドル達はディミトリの町へと向かって出発する。