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プロローグ
ぎしり、と梁が鳴く。
眼前に広がるのは漆黒の闇。
闇夜よりもさらに深く、底の見えないそれはすべてを呑み込もうとするかのように、踏み込んだ足を黒く染めた。
混濁し、底なしの闇は不気味な空気を纏ってそこに存在している。
怨念、執念、悲哀――様々な感情を思わせるそれは、人を取り込もうと常に手招きをしていた。
「まだ不満?」
闇に向かって小さく呟いた男は、灯りのともされたランプを掲げた。
一部だけが明るく浮かび上がり、灯りが揺れると同時に床に不自然な人の影を作る。重くのしかかるような空気が掻き消えると、男は木製の扉を閉め部屋の中に入った。
薄明りの中、慣れた足取りで一角の棚に近づいた男はランプをそれに寄せ、照らし出された小さな指輪を手に取る。
それは、欠片のような赤色の宝石が一つだけはめ込まれたシンプルなもの。
壊れ物を扱うような優しい手つきでそっと表面を撫でると、男は瞳を細めた。
「眠れないんだ。少しだけ、見せてくれるかな」
ゆらり、と灯りが揺れる。
細められた双眸が灯りに照らし出され、妖しげな紫色に輝いていた。