女の勘
ちょっとタイトルだけ変更しました。
内容は変わってないです。
なんか見たことのある光景だ。師匠が首元に絡みついた腕をタップする。そして、後ろを振り向くと、そこにはもう一人の遼一が立っていた。このメガネをしている方は『先生』だ。
「お前はなんでここにいる」
師匠はむせている。
「ここには俺がいるから別の場所に行くって話だったよな」
あー、確かにそんな話をしてたような気がする。
「俺のメールは無視するしさ」
師匠はなんのことを言われているのか分からない。それは僕も同じだ。
先生は師匠のズボンに手を突っ込む……もちろん、ポケットの中にだ。そして、携帯電話を取り出し、それを慣れた手つきで操作する。
「ちゃんと届いてるじゃねーか」
先生は携帯電話の画面を師匠に見せ付ける。そこには遼子から届いたと思われるメールが表示されていた。
師匠はわずかに声をもらす。それを聞いて僕は事態を飲み込めた。
「あー、そういうことね。良いか。今、母さんの携帯を使っているのは俺だからな」
そういえばそうだった。色んなことがあって、すっかり忘れてたな、遼一。僕と師匠は顔を見合わせた。
「……ってか、お前は何自然に居座っとるんだ」
師匠はきょとんとしている。
「お前だよ」
先生は僕のアゴを乱暴につかむ。
「あ、こいつね。なんか潜り込んでたんだよ」
「いや、ダメだろー。こういう場所には」
だってそういう仕事なんだもん。しょうがないじゃん。
「なんかベルに似てるな。お前、さっきは本屋の前にいなかったか?」
あ、そうだよ。やっぱり分かるかい。こんな可愛い奴、他にいないだろ。
「ベル……って家に来てる奴?」
「そうそう、この間抜けな感じがさ」
この野郎、間抜けとはなんだ。
「ふーん、そうかあ……こいつがね」
師匠が僕の頭を優しくなでる。気持ち良い。
「なんかお前に懐いてるし、どっかから付いて来ちゃったのかもな」
「お前がベルちゃんか」
そうだよ。
師匠が僕の頭をがしがしなでる。もっとやって。
「お待たせー」
桃香の声だ……ってまずいじゃん。
先生は慌てて後ろを向く。
「あれ、遼一くん?」
「あ、ここ、こいつね。俺の従兄弟のル、リュージ。そこでばったり会っちゃってさ」
先生はそっぽを向いたまま頭を軽く下げる。
「あー、昨日の」
「へ、昨日の?」
「ほら、私と遼一くん、昨日はメガネ屋さんで会ったじゃない。リュージさん、その時もいましたよね」
「あ! そうそう。昨日も会ったよね。こいつ本当に人見知りでさ。知らない人にはいつもこんな感じなんだ。悪気はないんだ。気にしないでやって」
「そっかー。いつもタイミング悪い時に現れてごめんね。でも、今日は私が遼一くんと約束してたんだよ」
師匠は顔を赤らめる。先生は後ろを向いているが、どこか悔しそうだ。
「リュージさんも一緒にどうですか」
「や、こいつは良いんだよ。こいつも友達と一緒みたいでさ。ちょっと声をかけにきただけだからさ」
「あ、それじゃあ、待たせてるお友達に悪いから、早く戻ってあげて」
先生はこちらを振り向かないまま、会釈をしながら立ち去っていった。その後姿は少し寂しげだ。
桃香は手を振って先生を見送る。その表情は柔らかくて感じが良い。桃香は良い奥さんになりそうだ。
先生の姿が見えなくなると、桃香は師匠の向かいの席に座った。
「はー、びっくりした」
桃香は安堵する。それが何に対してなのかは僕には分からない。
「雰囲気が少し違うけど、リュージさんって遼一くんにそっくりなんだね。私ね、オカルトにはあんまり詳しくないんだけど、最初ね、遼一くんのドッペルゲンガーが現れたのかと思っちゃった」
いや、その通りだよ。遼一のことを霊能力者か何かと誤解してたのもあるんだろうけど、女の勘って恐ろしい。




