表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/48

参考書

 食い入るように目の前の(たな)を見る美矩。そして、その後ろでは少し退屈そうにする遼一が立っている。この遼一はメガネをかけているから先生だ。それ以前に、美矩と一緒にいるんだから先生に決まってるんだけどね。僕が探していたのは師匠の方だったんだけど、こっちの様子も気になってはいたから良しとしよう。

 美矩をこんなにも夢中にさせている物は一体なんなんだろう。美矩は棚の前に積み上げられた物を一つ手に取ると、それをパラパラとめくった。そして、それを元の場所に戻し、今度は棚の中の物を取り出す。そして、それもまた同じようにパラパラとめくる。もしかして、このいくつもある棚は、その全てに書籍が()()められているのだろうか。す、すごい。教科書以外でこんな莫大(ばくだい)な量の書籍なんて見たことがない。これを全て売ったらいくらぐらいになるんだろう。


「これなんてどうかなー。ねえ、聞いてる?」


「え、ああ、ごめん。聞いてなかった」


「ちょっとー、しっかりしてよね」


「すまん……で、決まったのか」


「それを迷ってるの」


 先生は美矩の手元にある書籍を手に取る。


「あー、こういうのか」


「ダメかな」


「もっと簡単な奴が良いな」


「どういう意味よ」


「ちげーよ。変に難しいのをやるより、簡単なのを繰り返しやる方が頭に入るんだよ」


「へー、そうなんだ」


「解くのに時間がかかるとモチベーションが下がるだろ。だから、易しい奴から入って、それが物足りなくなったらランクアップさせれば良いんだよ」


「なるほどね」


「んーと、これとか良いと思うぞ」


 美矩は書籍を受け取り、その中身を確認する。


「あんまり簡単過ぎなのもダメだしな。基礎は抑えてあるし、そんぐらいのが良いと思うぞ」


「そっか……じゃあ、これにする」


 美矩は先生が選んだ問題集を持ってどこかに向かっていった。会計をしに行ったのだろう。

 しかし、この時代の書店は気前が良いな。見る限り、ほとんどの書籍にカバーがない。『立ち読み』については聞いたことがあるけど、よく利益を出せていたものだ。

 僕が外から店内を(なが)めていると、なんとも言えない嫌な感覚に(おそ)われた。視線を元に戻すと、先生がこちらを凝視(ぎょうし)しているのが分かった。完全に目が合っている。僕が落ち着けないでいる原因はこれだ。

 僕と先生がいる空間だけ時が止まっているかの様だが、それとは対照的に僕の頭の中を(せわ)しく思考が()(めぐ)る。しかし、それは思考とは呼ぶには単純過ぎるものだった。

 『どうしよう』、僕はこの言葉を唱えることしかできないでいた。


「何見てるの」


 僕を呪縛(じゅばく)から解き放ったのは美矩だった。会計を済ませて来たのだろう。その手にはこの店のものと思われるロゴの入った袋がぶら下げられている。


「え、あー、ネコだよ。ネコ」


「ネコちゃん? あ、本当だ。珍しいね」


 美矩が笑顔で手を振る。愛想が良いから美矩には(いや)されるな……それに比べて遼一はなんなんだよ。


「どうしたの? 確かにショッピングモールにネコちゃんがいるのは不思議だけど」


「ん、いやな、なんかベルに似てる気がする」


「ベル?」


「ほら、前に話しただろ。母さんが餌付けしてるって」


「あー、そんな話してたね。でも、気のせいでしょ。どこにでもいそうなネコちゃんじゃん」


 な、なんだってー。


「確かにそうだな。こんな遠くまで来れるわけないわな」


 ぼ、僕だよ。ベルだよ。いや、それはバレない方が良いのか。でも、なんか(さみ)し過ぎる。どこにでもいそうなネコなんてあんまりだ。

 僕が落ち込んでいると、もう一つの馴染(なじ)みのある顔ぶれが書店に入っていくのが見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ