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カップリング

 入場できる時間になると、先生と美矩がポップコーンとジュースを持って場内に入っていった。しかし、チケット売場横のファストフードが場内で食す物を販売しているとは思いもよらなかった。映画鑑賞中にポップコーンを(むさぼ)り食べるのは野蛮(やばん)なアメリカ人ぐらいだと思っていたよ。僕の知っている限り、映画館での食事は禁止されているのが普通だ。


「お前、そんなに食えるのかよ」


 うん、たしかに大きい。アメリカ人が抱えながら食べそうだ。


「お昼そんなに食べれなかったんだ」


「おー、大丈夫か。調子悪いのか」


「そんなんじゃないよ。ただ、ちょっと緊張しちゃって」


「んー、なんだって?」


「なんでもない。体調も悪くないよ」


 先生は聞き()らしたようだが、僕はちゃんと聞こえていたぞ。遼一とのデートが楽しみで、あまり食が進まなかった……ってところだな。健気(けなげ)だ。それなのに、この男は相手が桃香じゃないからといって手を抜きやがった。最低な奴だな。

 二人は四番シアターに入ると自分たちの席を探す。


「あ、ここだよ。ほら、早く」


「さっきから急かすな」


 美矩は少しせっかちなのかも……いや、遼一がトロいのか。桃香といる時はあんまり気にならないけど、桃香もマイペースそうだからな。

 先生が奥に入っていき、美矩はその後に続く。後ろから見て先生が右、美矩が左の席に着いた。



 この時代の映画館は雰囲気(ふんいき)があって良いね。ちょっと散歩でもしてくるか。

 僕が四番シアターを出ると、ゆったりとしたペースで歩くカップルとすれ違う。師匠と桃香だ。まあ、行く先は分かってるから観察しなくても良いだろう。


「ちっがーう、ローズブラックは反対側だろうが!」


 師匠と桃香の後ろの方にいたカップルの一人が声を荒げる。

 僕が後ろを振り向くと、四番シアターとは反対側のシアターの扉を師匠が開けようとしていた。

 男の声に反応した師匠が辺りを見回す。


「あ、こっちじゃない」


「本当だ。ローズブラックは反対側だね」


 この二人はこんなんで大丈夫なんだろうか。しかし、さっきの奴はなんだったんだろう。明らかに師匠に対して声を荒げてたと思うんだけど……。僕が前を向いた時にはいなくなってたし。

 僕が考え事をしながら歩いていると、映画の宣伝パネルの裏側で隠れるように密着するカップルの姿があった。あれ、さっきのカップルじゃねーか。


「ひがー、もう少しで見つかるとことろだったじゃねーか」


「わりー、遼一があまりにもマヌケだったから……つい」


「まあ、気持ちは分からなくもない。桃香も天然だからな」


「ダブルボケとかな」


「その前に早く離れてくれない?」


「おーっと、他意はないからな」


 色黒の男が慌てて彼女から離れる。その彼女もまた色黒だ。なんか見覚えがある二人だな。


「分かってるよ。あ、誰か出てくる」


「なに! 遼一か」


 二人はまたパネルの裏側で体を近づけ合う。

 四番シアターの方を見ると、そこから美矩が姿を現した。


「ごめん、違った」


 四番シアターから出てきたのが美矩だと分かった途端(とたん)、二人は余所余所(よそよそ)しくなる。こいつらはなにがしたいんだ。それに、遼一と桃香について話してるような。

 あ、そうだよ。あいつらだ……名前は忘れた。でも、二人とも遼一のクラスメイトに間違いない。男の方はよく遼一と一緒にいる奴で、女の方は桃香と一緒にいた二人組の片方だよ。私服だと雰囲気が変わってて分からなかった。

 それにしても、こいつらはなにをしに来たんだろう。仲良くデートしてるようにも見えないしな。

 とりあえず四番シアターに戻ろう。遼一たちのことが心配になってきた。



 僕は四番シアターに戻ってくると、そのまま一番後ろの席に行く。そして、その背もたれの上に飛び乗った。

 先生はどこだったかな。座席の上からシアター内を見渡すが、先生の姿が見当たらない。その代わりに、先生と美矩がいた付近の座席には三人組が座っている。頭部の感じからして女の子一人に男の子二人か……すごい組み合わせだな。左にいる男の子は真ん中の男の子になにか耳打ちをしているが、全く相手にされていないようだ。真ん中にいる男の子は右に座っている女の子との会話に夢中だ。左の奴はなんて(あわ)れなんだ。僕が代わりに聞いてやるよ。

 僕は集音マイクの精度を上げて、哀れな男の耳打ちを盗み聞きする。


「おい、なんでお前がそこにいんだよ」


 それはこっちの台詞(せりふ)だ。どう見てもお前が二人の邪魔(じゃま)をしてるじゃねーか。

 僕が空気の読めない男に(あき)れていると、シアターの前方から美矩がこちらに向かってくるのが見えた。

 美矩は三人組がいる列に入ると、そのまま三人組の隣に座った。そして、カップルの邪魔をしている男に声をかける。


「知り合いの人?」


 声をかけられてやっと男は美矩に気が付いたようだ。男は慌てながら返事をする。


「お、おう。美矩か」


「どうしたの」


 男は小声で答える。


「い、いやな。ズボンのチャックが開いてたからさ、こっそり教えてあげたんだよ」


「遼一は優しいよね。知らない人なんでしょ?」


「ま、まあな」


 ん、今、遼一……ってお前は先生か。なんで隣のカップルの邪魔をしてんだよ。


「桃香ちゃんは色んな映画を観てるんだね」


「そうだね、今年は観る物が多かったかも」


 隣のカップルは師匠と桃香だったんかい。

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