鉢合わせ
遼一と桃香が映画館に着く。
ほー、ここがこの時代の映画館か。まあ、外観は普通かな。僕の時代のものと大差ないと思う。
二人はそのまま中に入っていったので、僕もそれに続く。
中に入るとまた扉があり、二人は立ち止まらずにそこに向かう。その途中、映画を宣伝するパネルが通路を賑わせていた。微動だにしない映画のキャラクターが時代を感じさせるな。
もう一つの扉を抜けると、僕はその異様な雰囲気に驚かされてしまった。まずはフロアーの広さだ。異様に広い。端には休憩所も設置されている。まるで遊園地にいるみたいだ。そして、僕が最も驚いたことは匂いだ。甘いお菓子のような匂いでフロアー全体が包まれているんだ。原因はチケット売場の横にあるファストフードみたいだが、なぜそんな場所にあるのだろう。当時の人たちは映画を観る前に腹ごしらえでもしていたのだろうか。
「高校生二枚で」
「本日はなにをご覧になられますか」
「ローブブラックで」
「ローズブラックですね。お時間はいつになさいますか。本日はこの後、十四時から。その後になりますと十七時十分から。その後はレイトショーとなります」
「十四時からで」
「十四時からですね。お座席にご希望はございますか」
「後ろの方が良いかな」
遼一が桃香の方を振り向く。
「うん、それで良いよ」
「じゃあ、後ろの方で」
「Lの⑨、⑩が空いてますが、いかがでしょうか」
「じゃあ、それで……あ、ちょっと待って。もうちょっと右側は空いてますか」
そうだった。先生と美矩も同じ映画を観るんだから、席をズラす必要があるんだよな。
「では、Lの⑪、⑫はいかがですか」
「大丈夫です」
「かしこまりました」
販売員はコンピュータを操作する。
「四番シアターでの上映になります」
販売員は小さなシートを二枚差し出して、遼一がそれを受け取った。整理券のような物だろう。情報端末は広く普及しているはずのに、こういう原始的な方法を用いているのは不思議だ。まだ情報化したばかりのこの時代は、原始的なデバイスと電子的なデバイスが混在しているのが大きな特徴だ。この独特の雰囲気は人気があり、小説や映画の舞台になることもあるんだ。
「四十五分からの入場になります。余裕を持ってご入場ください」
遼一は腕時計に目をやると、辺りを見回した。
「まだ、時間があるね。それまでどうしよっか」
「ねーえ、分かったから。早くチケット買おう。良い席が無くなっちゃうよ」
館内の入口付近でカップルがもたついているようだ。
「マジか。これも映画化するのかよ。いやー、今年は観たい映画がいっぱいだなー」
男の方が映画の宣伝パネルに食い付いているが、その割には棒読みで熱意が感じられない。その手首には緑色のリストバンドが巻かれているのが見える。……あ、先生と美矩じゃん。
「桃香ちゃん、トイレは大丈夫?」
「うーん、私は大丈夫かな」
「いや、念のため行っておいた方が良い」
「でも、まだ時間あるよ」
「違うんだよ。俺もそう思って直前に行ったことがあるんだけどね。トイレが混んでてさ、冒頭のシーンを観そびれちゃったことがあるんだよ。だから、今のうちに行っておこう」
師匠も先生と美矩の存在に気が付いているようだ。
「そう……だね。じゃあ、そうしよっかな」
「じゃあ、この売店の前で落ち合おう」
師匠が大きな声で告げると、桃香はうなずいて小声で答える。
「遼一くん、ちょっと声が大きいよ」
師匠の狙いは分かる。鉢合わせしないように先生にも伝えたかったのだろう。
「分かーったよ、師匠。今行くって」
「シショーってなんだよ。ほーら、早く行こう」
先生は美矩と共にチケット売場に向かっていく。師匠の意図はちゃんと先生に伝わっていたようだ。絶妙なコンビネーションだな。




