メール
まずは遼一の携帯電話に届いたeメールのチェックだ。遼一の携帯電話はベッドの上にある。
僕はベッドに飛び乗ると遼一の携帯電話を確認する。
んーと、どうすれば良いのかな。とりあえず、適当にパンチしてみるか。
そい……お、画面が光ったぞ。そんで次はどうすんだ、これ……ってもうメールの画面になってんじゃん。なになに。
『分かった。また明日な』
内容が短すぎてなんのことか分かんないよ。
くそ、メールの内容を見れば誰からeメールが届いたのか分かると思ったんだけど……。
「んびゃー」
「ん、今なんか言ったか」
「お前じゃないの」
ぐ、ぐるじい。それに重たい。
僕はそこから這い出ようとするが、なかなか上手くいかない。
今なら遼子にボディープレスをくらった先生の気持ちがよく分かる。窒息死してしまいそうだ……いや、マジで。
「ほれ、終わったぞ」
先生が体を起こすと同時に僕は覆いかぶさる遼一の体から抜け出した。……死ぬかと思った。
「いや、別に良いよ。そこに置いといて」
先生はメールの返信をして、携帯電話を師匠に返そうとしていたようだ。
結局、こんな思いまでしたのに遼一が誰とメールしていたのか分からなかった。骨折り損のくたびれ儲けとは正にこのことだ。
ん、また携帯電話が光ってねーか。
「おい、光ってんぞ」
「ん、なにが」
「ケータイだよ、けいたい」
「おー、本当だ。確認しても構わないかい」
「良いに決まってんだろ。俺がお前に隠し事してもしょーがないだろ」
先生は携帯電話を手に取って操作する。その横では僕が携帯電話の画面を覗く。もちろん、遼一たちは僕に気が付いていない。
「お、美矩からか。返信はえー」
あ、ミクのフルネームは本田美矩っていうんだ。へー、これで『みく』って読ませてるのか。可愛い名前だね。
「おやすみ、寝坊するなよ……だとさ」
先生は携帯電話を脇に置く。
「あれ、返信しないの」
「んー、別に大丈夫じゃね」
うわ、ひでー。『おやすみなさい』ぐらい返してあげれば良いのに。
どうやら、美矩からメールが届いていたようだ。遼一たちの話の内容からして、明日の待ち合わせ場所でも確認していたのだろう。
……にしても、この時代のベッドはえらく気持ちが良いな。ひんやりとしてるけど嫌な感じではない。体をこすりつけると、優しく撫でてもらってるみたいな感じだ。
「あれ、またメールだ」
きんもちいいー……あ、僕も確認しとくか。
へー、『ももか』はこういう風に書くのね。
「これは……まあ、師匠が返すべきか。俺は行かないんだし」
複雑だよね。先生だって約束してたんだもん。
「誰からー」
「桃香ちゃんから。ほれ」
先生は携帯電話を師匠に差し出す。
「なんだって。代わりに打ってよ」
「待ち合わせ場所の確認だよ。ほら、お前が打て」
先生は携帯電話を持った手を師匠の方に伸ばす。
「えー、別に良いのに。俺とお前の仲じゃん」
そういう問題じゃないんだよな。
師匠は携帯ゲーム機を机に置いて携帯電話を受け取る。
「あー、先生は何時だっけ」
「一時に家の前だね」
「んー、そうか……」
「どうかした」
「俺も一時に出れば良いかなーと思ったんだけどさ、それだと先生たちと鉢合わせするなーって」
「たしかに……。どうする。時間ずらすか」
「いや、良いよ。俺がちょっと早めに出るから」
「お、そうか。悪いな」
「いやいや、俺は桃香ちゃんとデートさせてもらうんだもん。そんぐらいはしないと逆に悪いよ」
師匠も分かってはいるようだ。先生は黙っているが聞こえなかったわけではなさそうだ。
「うし、風呂行くか」
待ってました。いや、待ってない。僕はなにを言っているんだろう。
「あれ、桃香ちゃんのメールは返さなくて良いのか」
「返した。ほれ、行くぞ」
師匠は先生が手に持っている週刊誌を取り上げる。そして、それを開いたままひっくり返して机の上に置く。
すると、先生はゆっくりと起き上がり、二人は部屋を出て行った。
僕も先回りしてスタンバイしておかねば……あれ、どうやって部屋から出よう。




