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意気投合

 遼一の家に向かっているのかな。周りに見つからないようにコソコソしているぞ。

 それにしても、なんなんだこいつらは。さっきから(みょう)にコンビネーションが良い。もしかして、こいつらは双子だったのか。――そんな記録はなかったはずだ。どちらかは分身(ダブル)だ。

 二人が家に着く。そして、二人はスパイさながらに中に侵入していった。――いや、そこお前の家だから。

 同じくつが二足あるのはおかしいと思ったようで、どちらの物を隠すかでもめている。どっちでも良いだろ、そんなもん。

 どうやら後から現れた遼一のくつの方が汚れていたようで、それを玄関(げんかん)に置いていくようだ。比較的きれいな方は部屋に持っていくらしい。

 くつを持っていない遼一が玄関の(とびら)をゆっくりと閉めていく。僕はさっきの場所に戻るか。



 よいしょ。この身体(ボディー)跳躍力(ちょうやくりょく)があって素晴らしい。簡単に高いところに登ることができるな。それに柔軟性(じゅうなんせい)もあるから隠密行動(おんみつこうどう)にピッタリだ。

 どれどれ、どんな様子かな。ん、二人は向かいあってるのか。良い雰囲気(ふんいき)じゃないみたいだけど大丈夫か。

 くつを持っていない方がこちらを見る。しまった、バレてしま……うわけはないか。この身体はありふれたもののはずだ。さっきも色違いの奴をたくさん見たからな。見つかっても(あや)しまれることはないはず。

 こちらに来た遼一は辺りを見回してカーテンを閉める。そうか、たしかに今の状態は異常だ。周りを警戒(けいかい)するのも無理はないか。だけど、そんな小細工は通用しないんだな。透視(とうし)スコープに切り替えれば丸見えだ。

 このスコープはわずかな隙間(すきま)から見える映像を元にして透視を可能にするものなんだ。僕の時代だと、透視されないように特殊加工された繊維が出回っているからあんまり意味はないんだけど、この時代の物なら簡単に透視することが可能なのさ。

 よしよし、中の様子が分かるぞ。なんか言い合ってるな。集音マイクに切り替えよう。


「――ってかお前は誰だよ。地球を侵略しに来た宇宙人か。それともあれか、メタモンか」


「いやいや、ポケモンなわけーねだろ。むしろお前が宇宙人だろ。俺がいない間に俺になりすましたのか」


「何言ってるか分かんねーよ。ところでさ、どうやって変身してんの」


「もうポケモンはいいから」


「じゃあさ、あの穴みたいなのは何?」


「俺も知らん」


「え、知らないんすか」


「俺は何時間か前にあの穴に取り込まれたんだ。で、気が付いたら隣町の道路で倒れてたんだよ」


「なるほどね、あれはワープホールみたいなもんか」


「そんなとこだろう。それで、どうにか歩いて家に帰ってきたらお前がいたんだよ」


「ここは俺の家ですけど」


「そういう嘘はいいから」


 二人は座り込む。


「とりあえず、さっきの続きを聞こうか」


「続きなんてないよ。お前を観察してたら俺と同じように穴に取り込まれそうになってたから……」


「助けてくれたわけね。ま、ありがとう」


「いやいや、目の前で困ってる人を助けるのは当然でしょ」


「だよね、お前とは良い酒が飲めそうだ」


 あれ、この時代はお酒が飲めるのか。僕の時代だと飲酒は禁止されてるからうらやましい。でも、子供がお酒を飲むなんて聞いたことない。もしかしたら、僕の知ってるお酒とは違うのかもな。ま、考えても仕方ない。仕事に戻ろう。

 二人は歩み寄って肩を組む。


「思ったんだけどさ、俺たちって両方とも本物じゃね」


「それは俺も思ってました」


 二人は無言で握手を交わす。ここまでくると少しうっとうしいな。


「じゃあ、なんで分裂したのか考えるか」


「うーん、やっぱり原因はアレだよな」


「ワープホールね」


「いや、そもそもアレってワープホールなの」


「俺に聞かれても知らん」


「あのさ、あの時計ってズレてない」


 片方の遼一が時計を指差す。もう片方の遼一は指差された時計を見ると、そのすぐ後に携帯の画面を確認する。


「……合ってるね。お前は携帯持ってないの」


「あの穴に取り込まれた時に壊れたみたいなんだよね」


 取り出された携帯はうんともすんとも言わないようだ。


「俺と同じ機種だね」


「そりゃあ、そうでしょう。服も完全に一致だし。それでさ、俺たちがどうして分裂したか分かったかもしれない」


「マジか。俺全然分かんないよ。お前の方が少し頭良いんじゃない。ささっ、先生はこちらに」


 (けわ)しい表情をしている遼一が椅子に座らされる。


「俺さ、あの変な穴に取り囲まれたら隣町に飛ばされたって話したじゃん」


 話を聞いている方の遼一は黙ってうなずく。


「そこから何時間か歩いてここまで来たんだ」


「それで」


「なのに時間がほとんど経ってないんだよ」


「あれじゃね、知らない道を歩くのって長く感じんじゃん」


「そうじゃないんだよ。さっき、お前を助けてから三十分ぐらいしか経ってないよな」


「まあ、そんぐらいかね」


「それだと俺が穴に落ちてから時間が全く進んでないことになるんだよ」


「うーむ、時間が止まってたのか」


「違うって、ちゃんと車も走ってたから時間は止まってない。多分、俺は数時間前の世界にタイムスリップしたんだ」


「時をかける少年ねー」


「真面目に聞けって。ちゃんと言わなかったけど、俺もあの場所で穴に取り込まれたんだ。時間も一緒だと思う」


「どういうことだってばよー」


「多分、俺が助けなかったら、お前も同じように数時間前の隣町に飛ばされてたんだよ。つまり、俺は少し未来の世界からやってきたんだ。そして、お前を助けちゃったんだよ」


「俺を助けなければ良かったみたいに言うな」


「そうなんだよ、助けなければ良かったんだ」


 険しい顔をしていた遼一は今度は頭を抱えてしまう。


「おいおい。大丈夫か、先生」


「お前が穴に取り込まれてれば、俺はこの世界で暮らせてたのに……」


「なるほどな。話は分かったから、とりあえず落ち着こうぜ」


「分かってねーって、俺はこれからどうしたら良いんだよ」


「分かってないのは先生の方ですぜ」


「はあ? 何言ってるんだよ」


「良いか、むしろ俺たちはラッキーなんだよ。カレンダーを見ろよ」


「あ、そうか」


「やっと分かったか。俺たちが協力し合えば二十四日は切り抜けられるんだよ。先生が元の世界に帰る方法はその後に考えようぜ」


「師匠ぉー」


 二人は力強く抱きしめ合う。オエー、見てはいけないものを見てしまったようだ。

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