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撮影会

 僕の目の前では文華がテレビにかじり付いている。師匠の心配は無用だったようだ。

 お、師匠が忍び足でキッチンに向かっていくぞ。杉山家の茶番がもうすぐ始まるんだな。

 先生がカウンターの裏に隠れる師匠の姿を確認する。そして、遼子が持っていた茶碗(ちゃわん)(おもむろ)にテーブルに置く。


「ふーちゃーん、大事なお話があるの。ちょっと来てくれるー」


 遼子の声は文華に届いていないようだ。

 遼子がこちらに向かってくる。そして、文華を抱きかかえて奥に戻っていく。なお、抱きかかえられながらも文華の顔はテレビの方を向いたままだ。


「ふーちゃん。遼一がね、ふーちゃんに話したいことがあるんだって」


 文華はまぬけな顔をしてテレビに見入っている。

 この時代のテレビ神話は一体なんなんだろう。たしかに、TARUTOみたいな世界的に認められた漫画のアニメーションがリアルタイムで見れることはすごいことだけど、それ以外の番組はどれも低俗(ていぞく)なものばかりに見える。……にも関わらず、四六時中、テレビをつけっ放しにしているのはどういうことなんだろう。たしか、この時代は福島原発事故の影響(えいきょう)で電力不足が騒がれていたはず――と言っても、それは政府のフェイクで、本当は電力は足りていたらしいけど……。いずれにしても節電が推奨(すいしょう)されていたのは確かなんだ。それとも、杉山家がそういうのに無頓着(むとんちゃく)なだけなのかな。


「ふみちゃん。実はね、俺……忍だったんだ」


 文華は遼一の方を見向きもしない。

 遼一は静かに立ち上がり、そのままキッチンの方に向かっていく。そして、カウンターの向こうに立ち、大きく深呼吸をする。


「忍法っ、影分身の術」


 遼一が声を張り上げると、文華が勢いよく遼一の方を振り向く。

 遼一はカウンターの影に隠れ、そのすぐ後に二人の遼一が同じ格好をして現れる。

 ん、よく見ると、ハート柄のエプロンの下は違う服装じゃん。いやいやいや、そこもこだわれよ。幼児は変なところに細かいんだからな。

 僕が文華の方を見ると、その口はぽかんと開き、驚きを隠せないでいるのが分かった。

 ……うん、まあ、そうだよね。


「すごーい。にーにぃ、もっとやってー。もっとー」


「あ、いや、もっとって言われてもな」


 少しまごついているのは師匠だ。


「くそ、今の俺のチェケラだとこれが限界か」


 ノリノリで演技をしているのは先生だ。なにがこの二人に差をつけたのだろう。……まあ、遼子しかいないか。


「忍法、人間飛行機の術ぅー」


 先生が文華の元に近寄っていく。すると、文華が物凄い歓喜の声をあげる。いや、お前の兄ちゃんが近寄ってるだけじゃん。

 師匠はなにがなんだか分からないといった様子だ。

 先生が手招きをして師匠を呼び寄せる。そして、文華を横に倒し、二人がかりでその身体を持ち上げる。


「きゃー。ママー、みてみてー。わたし、おそらをとんでるー」


 なるほど、これが人間飛行機か。

 遼子がどこからか携帯電話を取り出して構えている。そして、携帯電話がコミカルな電子音を発してランプを点灯させる。


「ふーちゃーん、こっち見てー」


 文華は人差し指と中指を残して開かれていた手を閉じ、すまし顔で遼子の携帯電話を見つめる。いつの間にか文華の撮影会が始まっていたらしい。こ、こういう時、僕はどうしたら良いのだろう。なんか変質者みたいじゃーん。



 僕が孤独感(こどくかん)(さいな)まれていると、杉山家の固定電話が鳴り響く。そして、それに気が付いた遼子が電話機に近づいていく。


「もしもーし。あ、美矩ちゃん。……勿論(もちろん)。……うん。じゃあ、遼一に伝えておくわね」


 遼子は受話器を置き、声を張り上げる。


「遼一ぃ、今日も美矩ちゃんが来るそうよー」


「えー、またぁ」


「あいつはウチが好きだなぁ」


「美矩ちゃんは受験生なんだから協力してあげなさい」


「それは聞き捨てならないな」


「俺が受験生だった時はなにも協力してくれなかったじゃん」


「遼一は甘やかしても遊ぶでしょ」


「それは言えてる」


「分かってらっしゃる」


「それで、どっちが美矩ちゃんの勉強を見てあげるの」


「面倒だなー」


「俺は昨日見てやったし」


「あら、昨日はルイジーが見てあげたの」


「うん、そだよー」


「……結局、お前はルイジーになったのな」


「お前はマリモだから」


「あ、それでこの色」


 師匠が自分の手首に目を向ける。そこにはめられているリストバンドの色は赤色だ。


「じゃあ、今日もルイジーが美矩ちゃんの勉強を見てあげなさい」


「えー、なんでまた俺なんだよ」


「忍法っ、人間ロケットの術……にんにん」


 師匠が一人で文華を持ち上げる。文華はなにかのキャラになりきっているようだ。その面持ちはどこか凛々(りり)しい。


「先生が昨日と今日で変わっちゃったら、美矩ちゃんが混乱しちゃうでしょ」


「俺もこいつも変わんねーよ」


 師匠は文華と(たわむ)れている。


「じゃあ、マリモは美矩ちゃんが昨日、なんの勉強をしたか分かってるの」


「分からないでござる」


「うわぁ、でたぁ」


「決まりね。ルイジーは部屋を片付けなさい」


 先生は渋々部屋を後にする。その去り(ぎわ)に師匠が先生に声をかける。


「頑張れよ、先生」


「マリモは皿洗いなさいね」


「え……いや、文華が遊び足らないって」


 すると、文華が目をこすりながら口を開く。


「ふーちゃん、ちょっとつかれちゃった」


「――だそうよ」


 師匠は皿洗いをするしかなさそうだ。


「ふーちゃんはママとお風呂に入りましょうね」


「うんー、ママとおふろはいるー」


 それぞれの役割が決まったようだ。先生は今日も美矩の先生か。遼子の理屈だとこれからも先生が美矩の勉強を見ることになりそうだな。美矩の先生をしてる方が『先生』か……うん、分かりやすい。これからも、少し未来の世界からやって来た遼一のことはルイジーじゃなくて先生と呼んでやろう。

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