お花畑
遼一が書籍を開くと、中から小さな紙切れがひらひらと落ちてくる。
遼一はそれを手に取る。なにか書いてあるみたいだな。
遼一は紙切れに書かれていることを確認すると、書籍を読まずにどこかを眺め始めてしまった。
おいおい、せっかく貸してもらったんだから、ちゃんと読んだ方が良いんじゃないのか。
まったく、お前はどこを見てるんだよ。
僕が遼一の視線を追うと、そこにはモモカが座っているのが見えた。
……ですよねー。まあ、途中から気が付いてたけどね。
ここまでバカだと逆に可愛く思えてくる。なんとなく遼一が好かれる理由が分かった気がするな。
ところで、遼一はモモカからなんて書かれたメモを渡されたんだろう。下からじゃ全く見えないんだよな……。
よし、遼一の机の上に飛び乗ろう。遼一の頭の中はお花畑になっているだろうから大丈夫だろう。勿論、隠密モードは学校の敷地に入った時から入れたままだ。
むむ、ここからだと難しいな。仕方ない。遼一の背中をよじ登らせてもらうか。
とおっ……よし、このまま机に飛び移ろう。
でりゃー……うし、任務完了。
うん、遼一のバカは気が付いてないようだ。それで、モモカに渡された書籍の隙間から出てきた紙切れにはなんて書いてあるんだ。
んーと、遼一くんは妹さん想いなんだね、名前はなんていうの……か。か、可愛いな、おい。これが高校生の恋愛模様なのかよ。なんだか遼一が憎たらしく思えてきた。今なら遼一をからかっていた奴の気持ちも分かる気がするよ。
今は授業ではないのかな。皆して静かに書籍を読んでいるだけだ。しかし、このクラスには金持ちしかいないんだな。電子書籍を読んでる奴が一人もいない。ここにある本の総額はいくらぐらいになるんだろう……考えるだけでも恐ろしいな。モモカは書籍を何冊か持っているみたいだし、他の子よりも裕福な家庭なんだろう。
こうして見ると、肌の色が違う子がいっぱいいるな。顔は日本人のものとそんなに変わらないから、東南アジアからの留学生ってところかな。日本は昔からこんなにも国際交流が盛んだったなんて知らなかった。良い勉強になる。
スピーカーから定刻を告げるチャイム音が聞こえてくる。どうやら読書タイムが終わったようだ。生徒たちが揃って書籍をしまい始めている。
モモカが席を立ち、こちらに向かってくる。お、どうした。何をするつもりだ。
モモカが遼一の前に立つと、何の前触れもなく遼一が言葉を発した。
「文華って言うんだ」
クラスメイトが一斉にこちらを向く。
モモカもなんのことか分からなくて困っている。
「俺の妹の名前だよ」
遼一はその目を輝かせている。
「あ、フミカちゃんって言うんだ。可愛い名前だね」
「母さんと二人で考えたんだよ」
「う、うん、素敵だね。その話は後で詳しく聞かせてね」
周りの視線がすごいな。モモカもそれには気が付いているようだ。おい、気が付いていないのは遼一、お前だけだぞ。
「それで、どうしたの。桃香ちゃん」
モモカの視線は遼一が手に持っている書籍に向けられている。あ、そういうことか。遼一、モモカは書籍を取りに来ただけみたいだぞ。こっちが恥ずかしいから早く気が付け。
「う、うん。あの……それ、まだ読む」
「え、これ、……読まないかな。なんで」
バカヤロー。遠回しに返せって言ってるんだよ。くそ、最終手段を使うしかない。
遼一、悪く思うなよ。これもお前のためなんだ。
この状態になると痛みを感じにくくなるみたいだからな。手加減はしない。
……えいっ。
「いっ……たー」
驚いた遼一は手に持っていた書籍を手放す。今だ。さあ、モモカ……早く。
モモカは書籍を取り戻すと早々と自分の席に戻っていった。我ながらナイスコンビネーションだ。
「遼一ぃー、朝から見せつけんなよなー」
ユージの声だ。
「おい、どうした。手なんか見つめてよ」
「いやさ、今、なんかに噛まれたみたいなんだよね」
ユージがこちら側に来るみたいだ。やばい、早いところズラかろう。




