朝チュン
小鳥のさえずりが聞こえてくる。暗く閉ざされていた住宅地のカーテンはすでに開け放たれている。しかし、僕の視線の先にある部屋に射し込む光はまだ少ない。そこにいる一人の少年が目を覚ます。その脇では布団が不自然に盛り上がっている。少年はゆっくりと布団をめくると、そこには気持ち良さそうに眠るもう一人の少年の姿があった。
なんで一緒の布団で寝てんだよ。気持ち悪いわ。
布団の中から姿を現した少年は微笑みながら優しい声で囁く。
それを聞いた少年はまだ眠たそうにしている少年の頭を少し荒っぽく撫でる。まだ起きたばかりの少年はその手を素直に受け入れる。それはまるで、人間と小動物が心を通わせているかのようだ。
僕もノリノリで語ってんじゃねーよ。完全にホモじゃねーか。
すると、二人の空間を遮る者がそこに現れる。
「遼一ぃ、朝ご飯できてるか……あら、ごめんなさい」
遼子は開けた扉をすぐに閉めてしまった。お前も気をつかうなー。
「おーい、朝ご飯できてるってよー」
「よーし、飯を食いに行きますかー」
お前らはなんで普通にしてんだよ。
遼一たちは一階で食卓を囲む。
さっきまで忙しく動いていた遼子がイスに腰掛けると口を開く。
「マリモーズはさ、なんで一緒の布団で寝てたの」
ん、まりもーずってなんだろう。
「だって、用意してなかったから」
「母さん、マリモブラザーズな。マリモーズじゃなくて」
「そんなのどっちでも良いじゃない。布団は遼一の部屋にあるでしょ。友達が来た時に使う奴が」
「時間も遅かったじゃん」
「それに疲れてたしさ、いつの間にか寝ちゃってたよ」
「それなら良いんだけどね。それと、同時に喋らないでちょうだい」
「なんでー」
うん、キレイにハモったな。
「なんでもないわ、今のは忘れて。それと、文華はマリモラーズのこと、まだ知らないから。今日はスキンシップは止めなさい」
「えー、マジかよー」
「あれがないと朝が始まらないよ」
そういえば文華の姿が見当たらないな。遼一たちは文華とのスキンシップに比べたら、遼子の言い間違いはどうでも良いようだ。
「じゃあ、片方だけにしなさい。文華が驚いちゃうといけないから」
「仕方ねーなー」
「ここは公平にいきますか」
「じゃっきっちょ」
あ、出ました。この地域特有のかけ声のジャンケン。
「引き分けかー」
「お主、やりおるな」
「遼一さ」
「母さん、邪魔しないでよ」
「今のはどっちに話しかけたん」
「どっちもよ。前から気になってたんだけど、そのまぬけなかけ声はなんなの」
「学校で流行ってんだよ」
「未来ではこれが主流になってるよ」
いや、なってませんけど。
「ふーん、まあ良いわ」
「……ったく、しょうもないことで中断しないでよ」
「じゃあ、いくぞ」
そして、遼一たちの不毛なやりとりは数分間続いた。
「それ、意味ないんじゃない」
遼子がぽつりとつぶやく。
「やっと気が付いたか」
「いつ気が付くか試してたんだよ」
「それで、どっちが文華とスキンシップすることになったの」
「それを今から決めるんだよ」
「公平なやり方でな」
「昨日はどっちが学校に行ったの」
師匠が手を上げる。
「じゃあ、マリモは文華と戯れて早く学校に行きなさい」
「あ、俺、マリモなんだ」
「俺はどうすんだよ」
「ルイジーは家の手伝いをしてちょうだい」
「先生、悪いな」
師匠は朝食が盛られていた食器を片付けて立ち去っていく。
「えー、俺の勉強はどうすんだよ」
「やろうと思えば一人でも勉強できるでしょ」
となりの部屋から師匠の猫なで声が聞こえてくる。いつも、文華はこの声で起こされているのか。……かわいそうだ。
「ルイジーは文華が幼稚園に行くまで部屋で勉強してなさい」
「差別だ」
先生は不満そうに部屋を出て行った。




