姓名判断
何も聞こえてこない。集音マイクが故障してしまったのかな。試しに裏の家を向いてみよう。
うん、その家の生活音が聞こえてくる。壊れてはいない。遼一たちはどうなってしまったんだ。
「りょ、遼一……あんた……双子だったのね」
なわけねーだろ。お前が産んだんじゃないんかい。
遼一たちの声が同時に聞こえてくる。
「え、そうだったの」
ハモるなー。……ってか違うに決まってるだろ。なんなんだよ、この親子は。聞いてるこっちが疲れるわ。
「とりあえず、前は隠しなさい」
「おっと……」
くそっ、遼子め。……いや、僕は何を悔しがっているんだろう。さっき、風呂場で思う存分観賞したではないか。……遼子、お前の負けだな。
僕はリビングを覗き込む。遼子はテーブルの奥に座り、その前には遼一たちが座っている。三人はどこか余所余所しい。何を話したら良いのか分からないんだろうな。
「母さん、あんた達が双子だったなんて知らなかったわ」
しつこいわ。
「どういう事か説明してちょうだい」
「どうって聞かれてもなー。先生、後は任せた」
「え、俺か。なんか説明させられるの多いなー」
「うん、俺もよく分かってないからさ」
「えー、分かってなかったなら言えよ」
「じゃあ、もう一回聞いてやるからさ。母さんにも説明してやってよ」
先生がこれまでの経緯を説明し、遼子はそれを相づちを打ちながら聞いている。
先生の話が終わると遼子が口を開く。
「なるほどねー」
遼子は理解できたようだ。
「全く分からなかったわ」
分からなかったんかい。
「遼一は分かったの。あ、こっちの遼一ね」
「え、あー、二回聞かされたけど分かんないわ」
お前も理解してやれよ。先生は呆然とし、その目は潤んでいるように見える。
「事情は分からないけど、こっちの遼一も遼一であることは間違いないのね」
「そうだよなー。メタモンじゃないもんな」
先生が鼻をすする音が聞こえる。あーあ、二人していじめるから泣いてんじゃねーか。
「おいおい、何も泣くことはないだろー」
「遼一がちゃんと理解してあげないからでしょ。あ、今のはこっちの遼一ね」
お前も理解してねーだろ。
「とりあえず、あんた達は双子になったのね」
「そういうことだな」
この人たちは先生の話を理解する気はないようだ。……先生がかわいそうだ。
「それで、こっちの遼一はなんて呼べば良いのかしら」
「俺は先生って呼んでるな」
「え、なんで先生なの」
「いや、なんか説明するのが好きみたいだからさ」
「それも悪くないわね。うーん、ルイジーなんてどうかしら」
先生が充血した目を見開く。
「お、良いねー」
先生は師匠と遼子を交互に見る。納得できてない感じだ。
「じゃ、あんたはマリモね」
今度は師匠が目を見開く。
「二人とも何を驚いてるの。マリモブラザーズは二人いないとダメでしょ」
あ、なんか聞いたことあると思ったら、満天堂のマリモブラザーズのことか。
「マリモはないよー」
「えー、さっきは賛同してたじゃなーい」
「いや、先生の方だけかと思ったからさ。思ったんだけどさ、俺は遼一のままで良いじゃん」
「ダメよー、二人とも遼一なんでしょ。差別は良くないわ」
ちゃんと分かってるじゃないか。心なしか先生が元気を取り戻しているように見える。
「遼一セカンドバージョンなんて良いんじゃない」
いや、ダメでだろ。どう考えてもセカンドバージョンの方が差別だよ。
「いや、それはいくらなんでも……」
師匠も引いているようだ。
結局、この話し合いは数時間繰り広げられることとなる。
おっと、うたた寝しちゃったみたいだ。
三人はどうなったかな。……ちょうど話し合いが終わったようだ。遼一たちが席を離れようとしている。
「遼一、ちょっと待ちなさい。あ、こっちの遼一ね」
決まらなかったのかよ。お前らは数時間も何をしていたんだ。
「まだ夕飯食べてないんでしょ。今から適当に用意してあげるから食べていきなさい」
優しー。なんだかんだいっても母親なんだな。僕は二人を見分けることができないが遼子は違うようだ。
「あ、俺は食ったよ。食ってないのはあっち」
違うのかよ。
「じゃあ、お昼はどうしたの」
「お昼と朝は何も食べてないね」
遼子がもう一人の遼一の方を見る。この色のパジャマはたしか……師匠だな。
「俺は夕飯だけ食べてないや」
「そう、じゃあ、二人とも食べていきなさい」
二人の遼一が同時に声を発する。
「ありがたやー」
こうして見ると本当に双子みたいだ。
奥の方からまな板と包丁がリズム良く音を発している。この音を聞くと心がおどるようだ。




